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混迷ペルー政局の舞台裏に中国の影…ドンロー主義と激突する一帯一路

飯田和郎

東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、2月23日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演。トランプ米政権が掲げる「ドンロー主義」の拡大と、南米ペルーの深刻な政治混乱の背後に透けて見える「米中対決」の構図について解説しました。

24日から「追加関税15%」へ:トランプ氏の暴走と物価高

アメリカのトランプ大統領は、すべての国や地域からの輸入品に対し、2月24日から15%へと追加関税を引き上げる方針を表明しました。米連邦最高裁が「大統領に関税賦予の権限はない」との判断を下した直後の強行突破です。

関税収入で政府は潤うかもしれませんが、その分、商品価格は上がり物価高を招きます。自国民の生活をも犠牲にしかねないこの強硬姿勢の根底にあるのが、アメリカが西半球(南北アメリカ大陸)で絶対的な支配権を確立しようとする「ドンロー主義」です。この政策のターゲットは、今や南米に深く根を張りつつある「中国」に他なりません。

10年で8人目の国家元首:ペルーが抱える腐敗の闇

今、この米中対立の最前線となっているのがペルーです。現地時間の18日、ペルー国会は新たな暫定大統領にバルカサル氏を選出しました。驚くべきは、その交代の頻度です。

前任のヘリ暫定大統領は今月17日に罷免されましたが、ヘリ氏もまた前任者の罷免を受けて就任したばかりでした。これで暫定を含め、大統領の罷免は3人連続。この10年間で国家元首が8回も交代するという、異常な事態に陥っています。

罷免されたヘリ氏の失脚の要因には、中国人実業家との不透明な関係がありました。この実業家は、ペルー政府から利権を得ているほか、水力発電所の建設受注や中国系企業のロビー活動を担うなど、ペルー政界の深い部分に食い込んでいたとされています。

「一帯一路」の拠点:チャンカイ港とインカの黄金

ペルーにとって、中国は輸出の4割を占める最大の貿易相手国です。習近平主席が掲げる「一帯一路」構想において、ペルーは中南米における物流の要衝と位置づけられています。

その象徴が、2024年11月に開港したチャンカイ港です。総事業費の6割を中国の国有企業「中国遠洋海運グループ」が出資しており、事実上、中国が運営権を握る巨大港湾です。習主席自身がAPEC首脳会議の際にオンラインで開港式典に参加したことからも、その重要性が伺えます。

さらに中国が執着するのが、ペルーの豊かな鉱物資源です。

金(ゴールド):世界トップクラスの産出量を誇る。

銅・亜鉛:インフラ建設やハイテク産業に不可欠。

国際情勢の不安定化を受け、中国は「安全資産」である金をせっせと買い進めています。アンデス山脈に眠る「インカの財宝」は、現代においても中国の覇権戦略を支える資源となっているのです。

「ヨコの緊張」から「タテの緊張」へ

アメリカは、自国の「裏庭」である南米で中国の影が濃くなることを激しく警戒しています。米州大陸という「ホーム」における「タテの緊張」です。

1月にベネズエラのマドゥロ大統領を拘束した武力行使も、その背景には中国の影響力排除がありました。今回のペルーにおけるヘリ氏のスキャンダルと罷免劇も、中国側は「背後にアメリカの工作があるのではないか」と睨んでいるのではないでしょうか。

太平洋を挟んだ日米中という「ヨコの緊張」に加え、南北アメリカ大陸を舞台にした「タテの緊張」が激化する2026年。ペルーの政局混乱は、決して遠い国の出来事ではなく、世界秩序が書き換えられようとしている現場そのものなのです。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。