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入国審査は「台湾」か「中国(台湾)」か? 譲れない頼清徳総統

飯田和郎

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東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、3月23日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演。ホワイトハウスでの日米首脳会談が注目を集める裏側で、東アジアの自由主義陣営であるはずの韓国と台湾の間で突如として生じた「入国審査の表記」を巡る深刻な摩擦について解説しました。

画面に並ぶ「CHINA(TAIWAN)」の衝撃

海外旅行の際、避けて通れないのが空港での入国審査です。従来は飛行機の中で事前に配られたり、空港に置かれた入国カード(=アライバル・カード)に書き込む方式が長く用いられてきましたが、最近はオンラインによる事前申告システムが主流となっています。そんな中、韓国のシステムにおける「ある表記」が台湾側の激しい怒りを買っています。

韓国の電子入国申告システムの選択肢において、台湾から来た旅行者が選ぶべき欄が「CHINA (TAIWAN)」と表記されているのです。

アルファベット順に並んだそのリストには、中国本土(CHINA)に続き、特別行政区である香港(CHINA (HONG KONG))、マカオ(CHINA (MACAU))と並び、その直後に台湾が配置されています。これでは台湾を中国の一部とみなしているも同然であり、台湾のアイデンティティを根底から否定するものに他なりません。

このオンライン入国申告システムに関わる、台湾と韓国の摩擦は、昨年末以来のことです。台湾サイドは香港やマカオと違う表記、つまり中国=CHINAと切り離された表記にするよう、韓国側に再三の修正を求めてきました。

台湾による「外交上の対等主義」と対抗措置

台湾の頼清徳総統も自ら言及したほどの問題となっていますが、韓国側から前向きな回答が得られないまま。業を煮やした台湾は3月18日、ついに「台湾のオンライン入国申告システムも、相応の措置を取る」と通告しました。

これが「外交上の対等主義」です。台湾側が突きつけたリミットは3月末。もし韓国側が表記を改めない場合、台湾のシステムでも韓国を「南韓」と表記する方針です。「南韓」とは、単に朝鮮半島の南側を指すだけではありません。「大韓民国は統一を指向する」と定める韓国憲法に照らせば、「国家として不完全な状態」を示唆する、韓国にとっては極めて不名誉な呼称となります。

実際、台湾はすでに3月1日から、台湾居住の韓国籍の外国人に発行する身分証明書の国籍欄を「韓国」から「南韓」へと先行して変更しています。

李在明政権の「中国への傾斜」に募る疑念

台湾が対峙するのが中国。その中国が後ろ盾になってきたのが北朝鮮。そして北朝鮮は韓国と北緯38度線をはさんで緊張状態にあります。韓国と台湾の間に、正式な外交関係はありませんが、それぞれアメリカや日本と同じ、いわゆる自由主義陣営の一角にあります。

韓国が台湾との外交関係を断絶し、中国と国交を結んだのは、1992年8月。日本と台湾の断交、日中正常化が1972年だったのに比べ、20年も後のことです。地政学や歴史的にみると、かつては共に共産主義に対抗する「反共の同志」でもありました。

しかし、現在の摩擦の背景には、韓国の政治状況の変化に対する台湾側の不信感があります。韓国の李在明大統領が進歩系であり、中国との関係強化を優先している点です。前任の尹錫悦氏が中国と距離を置いたのに対し、現政権は中国への配慮が目立ちます。

今回の「CHINA (TAIWAN)」表記も、「李在明政権が中国にひよった(忖度した)結果ではないか」という疑念が台湾側で渦巻いているのです。

主権とアイデンティティの瀬戸際

頼清徳総統は一貫して「中華民国台湾は主権を持つ独立国家であり、中華人民共和国とは互いに隷属しない」と訴えてきました。韓国の入国表記を受け入れることは、この根幹を揺るがす外交的失点に繋がりかねません。

一方で、韓国側が台湾の要求を呑めば、今度は中国側が猛反発するのは火を見るより明らかです。

「台湾と韓国の民間では長年にわたり経済や文化、観光、人的往来などで密接な交流があり、良好なやりとりがなされてきた」「多くの台湾人旅行が訪問する国の一つが韓国。台湾は韓国の人々との友好関係を重視している」としながらも、国家の尊厳をかけて一歩も引かない台湾。

リミットの3月末まであと1週間。東アジアの自由主義陣営の結束が、文字通り「言葉ひとつ」で試されています。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。