皆さんは、長崎の食材と聞いて何を思い浮かべますか?そして「卓袱(しっぽく)料理」をご存知でしょうか。「食べたことあるよ!」という方も、「知ってはいるけど食べたことがない」という方も。この記事を見ていただければ、ますます興味が湧いて、早速長崎へ旅に出たくなるかもしれません。
おいしすぎて、わけわからん?!
長崎の食の価値を再発見
今回は、3月13日、14日に開催されたフードイベント「Wakaran Food Session VOL.1」のレポートを通して、長崎の食文化や県産食材の魅力をお届け!
「おいしすぎて、わけわからん?!」と銘打ったユニークなイベント名には、驚きや楽しさを伝えたいという想いが込められているのですが……実はそれだけではありません。
「料亭一力」より提供 卓袱料理の一例
WAKARAN=和(日本)・華(中国)・蘭(オランダ・ポルトガルなど西洋)は、長崎独自の歴史的背景から生まれた文化や食を象徴する言葉。
「卓袱料理」は、この3つの国の食文化を融合し特異に発展した宴席料理で、和華蘭文化の集大成ともいえます。大皿に盛られた料理を直箸(じかばし)で取り分ける、無礼講で親睦を深めるスタイルも特徴です。
今回のフードイベントは、そんな長崎独自の食文化をひもとき、新たな価値や魅力を広げるために開かれました。
会場となったのは、長崎市内の亀山社中から寺町へ繋がる石畳を行く半ばにある『料亭一力』。江戸時代は文化10年(1813年)に創業した長崎最古の料亭で、坂本龍馬や高杉晋作をはじめとした幕末の志士たちも訪れ円卓を囲んだと伝えられています。
福岡と長崎を代表する料理人がコラボ!
そんな由緒ある老舗の伝統を継承しながら、今回初の試みに挑むのは、『料亭一力』8代目の山本卓さん(写真右)。福岡の料亭「嵯峨野」で研鑽した後『料亭一力』へ戻り、2022年には食に関する芸術の提供の継続に対して、文化庁長官表彰を受賞されています。
そして、山本さんとタッグを組むのが、国内外で評価されるトップシェフ。九州内の食材を見出し、世界へその魅力を発信している『Goh/GohGan』のシェフ・福山剛さん(写真左)です。
コースのテーマは「長崎を、ほどく。そして、編み直す」。主役となるのは、豊かな自然に育まれた長崎県産食材です。伝統を重んじながらも、“こうあるべき”という「型」は一度ほどいて……、自由で新しい卓袱料理と、食材の新たな魅力を引き出します。
枠にとらわれない
自由で新しい「卓袱料理」を創作
「椀で始まり椀に終わる」という卓袱料理の伝統に則り、コースは「お鰭(おひれ)をどうぞ」の挨拶から始まりました。
「お鰭」とは、「乾杯で空っぽの胃にお酒を入れないように」との心遣いで用意される魚が入ったお吸い物のこと。「お鰭」という名前は、「あなた様一人のために魚を一尾使いましたよ」というおもてなしの証で、元来は鯛の鰭を添えていたことに由来しているそうです。
「はるか」は、長崎県島原市などで栽培されている八朔系統の柑橘
この日の魚は美しい螺鈿が見える、脂ののった長崎県産のヒラス。『料亭一力』自慢の上品な出汁に、福山シェフ特製の柑橘「はるか」のオイルの香気がふわりと広がります。
お椀をいただいた後に乾杯し、その後「小菜」が運ばれてきました。数人分の料理を大皿に盛るという「卓袱料理」のスタイルで提供されたのは、山本さんによる「自家製のカラスミと白子豆腐」。「卓袱料理」に欠かせない艶やかな黒豆の蜜煮も添えられています。
カラスミは言わずと知れた日本三大珍味の一つですが、日本一の生産地は長崎県だとご存知でしたか? 安土桃山時代、地中海を起源にもつ食品が中国を経て、長崎へ伝来したことがその始まりです。
日本酒に浸して仕込んだという自家製のカラスミはしっとり柔らかく濃厚な味わい。「真子ばかりで、白子は使ってもらえない」という漁師さんの声を聞きひらめいたという、まろやかな「ボラの白子豆腐」とフキノトウおろしも美味でした。
写真下段:サクッモチッとした生地の中には、ふんわりとした海老のすり身が
続いて、福山シェフによる「小菜」も登場。雲仙市『フラットフィールドファーム』で収穫されたホワイトアスパラガスのアイスは滑らかでミルキー。旬の鰆に和風アンチョビのような長崎の保存食「エタリ」(カタクチイワシの塩漬け)と八朔の果肉を添えた一品や、長崎の郷土料理「ハトシ」から着想を得たフィンガーフードもお酒を誘います。
長崎のワイン、日本酒、お茶でおもてなし
料理に合わせて揃えられたドリンクも、もちろん長崎尽くし! 五島列島・福江島にある『五島ワイナリー』からは、海の潮風を受けて育つ五島産のブドウで造られたワインがお目見え。「2025 ナイアガラ スパークリングワイン」「2025 キャンベル・アーリー スティル(ロゼ)」「2025 ナイアガラ スティル(白)」と、どれもミネラリーで軽快な味わいがたまりません。
日本酒は、日本最西端の酒蔵としても知られる、平戸市の老舗『福田酒造』から4本が提供されました。世界最大規模の品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」のSAKE大吟醸部門で最高賞のトロフィーを受賞した「長崎美人 大吟醸」に加え、“平戸の海”を表現するシリーズ「福海」も登場。この「福海」、澄み切った海を思わせる実に心地よい口当たりで、スルスル、サラサラと、杯が止まりませんでした。
抽出、急冷し、直前に炭酸ガスを注入。仕上げに柑橘の皮を削る「緑茶スパークリング」
さらにお酒だけではありません。長崎市千々町で100年以上続く『森果樹園』の桃やびわのジュース、長崎市諏訪町の『日本茶専門店 朱夏』によるティードリンクも振る舞われました。
『朱夏』の店主で、日本茶インストラクターの西田春菜さんが選んだ茶葉は、長崎県東彼杵町で生産される「そのぎ茶」。「蒸し製玉緑茶」という伝統製法で生み出される希少な茶葉で、勾玉のようにぐりんと丸い形をしていることから“ぐり茶”とも呼ばれています。渋味が少なく、清々しい香りとまろやかな味わいが特徴で、料理に優しく寄り添います。
長崎の豊かな自然に育まれた
山海の幸が輝く!
赤とグリーンのコントラストが美しい!
続いては、長崎県が生産量・出荷尾数ともに日本一を誇る養殖クロマグロ、雲仙市小浜町『ミヤタファーム』のビーツ、長崎市高島町『たかしま農園』の完熟フルーティトマト『高島トマト』を使った一皿。
長崎県産のクロマグロは、リアス式海岸の冷たい海水温で育つため身が締まり、きめ細やかな脂と良質な赤身が格別です。香りも実に爽やかで、濃密な高島トマトのソースがおいしさを加速させます。
「葉や茎も余すところなく使えたら」。そんな生産者の声を元に作られたビーツの葉のオイルや茎のピクルスのアクセントも◎
加えて『ミヤタファーム』のビーツの味わいにも驚きました。じっくりオーブン焼きしたというビーツは、まるでトウモロコシのような甘さで、ほっこりねっとり。イベントには、生産者の宮田さんも参加されていて「今日は我が子がお嫁にいったような――、こんなに綺麗にお化粧してもらって、感無量です」という言葉も心に残りました。
さらには、『Goh』福山シェフのスペシャリテも登場。しかもこの日は、アワビ、しいたけ、アオサも長崎県産というスペシャルverです。口いっぱいに広がるのは、蒸し上げられたアワビと雲仙産しいたけの肉厚な食感。エスプーマ仕立てのオランデーズソース、底に敷いたアワビの肝とアオサのリゾットも旨味たっぷりで、長崎の山海の幸が見事に調和していました。
長崎市西海町でスイーツショップ『苺果』も手掛けているイチゴ農家・楠本さんより直送の「さちのか」
また、お口直しも兼ねた一品は、旬のつぼみ菜と長崎県産のフレッシュなイチゴ「さちのか」を使った白和え。今回コラボレーションするにあたり、山本さんと福山さんは長崎県内の生産者のもとを巡ったそうで、このイチゴやアクセントのクレソンは、その際に出逢ったものなのだとか。春の柔らかさ、瑞々しさが表現されていました。
長崎県が誇るブランド豚と和牛も堪能
大皿に4人分を盛り付けた「卓袱料理」スタイルで提供
続く「大鉢」は、『料亭一力』の看板料理の一つでもある豚の角煮「東坡煮(とうばに)」。長崎の豚の角煮は中華料理のイメージがありますが、厳密には、中国から長崎へ伝わり、独自に発展した“和風アレンジ料理”なんですよ。
今回は山本さんが感銘を受けたという諫早市高城町『土井農場』のブランド豚「諫美豚(かんびとん)」を使った特別verをいただきました。
ペアリングした長崎県東彼杵『東坂茶園』のほうじ茶はえぐみがなく、艶っぽい甘味で肉料理との相性も抜群
『土井農場』が自家栽培するお米「にこまる」と大豆を食べて育った「諫美豚」は、オレイン酸が豊富で脂の融点が驚くほど低いんです。今回は、諫美豚を下茹でする際にも「にこまる」を使用したそう。豚特有のクセやアク、くどさがなく、甘くサラリととろける脂身は絶品!
諫早市天神町『たきキャロットファーム』の自社栽培ブランド人参「紅天神」とその葉で作ったパウダー、先ほどビーツで登場した『ミヤタファーム』のブロッコリーも、おいしさを引き立てていました。
贅沢にも今回は、南島原市・雲仙普賢岳の麓にある『高田牧場』でのびのびと育てられた、幻の和牛「雲仙あか牛」も供されました。噛むほどに広がる赤身本来の深い滋味にうっとり。
西洋ヨモギとも呼ばれるキク科のハーブ「エストラゴン」を加えた酸味のあるマスタードと、ほろ苦い菜の花、肉のジュ(焼き汁)をベースにしたソースも添えられています。
ソースにはとろみがつけられていて、口当たりはまるで中華料理のような趣。共に提供されたグラスの中には、菊の葉や花、柑橘の皮、白胡椒が入っていて、島原の草原を思わせる青々とした香りを吸い込みながら味わうという趣向にも感激しました。
フレンチにエキゾチックな要素を融合させ、ゲストを楽しませたいという心遣いに満ちたこの一皿。伝統の「型」は破れども、精神は「卓袱料理」の本質に通じていると感じました。
鯨、砂糖……歴史が息づく
長崎の食文化は面白い!
爽やかな香味広がる「ウドの甘酢漬け」を添えて
『料亭一力』の卓袱料理では、「大鉢」の後に甘めの味噌をといた味噌汁とご飯が供されますが、この日はそれに代わり「鯨のカレー」が登場。長崎県は古来より捕鯨と深い関わりがあり、鯨はハレの日や卓袱料理の重要な食材として親しまれています。
このカレーは長崎土産の定番「くじらの大和煮」の缶詰をアレンジしたいと作られた逸品。鯨肉独特の風味が、ココナッツミルクの甘味とスパイスによく合い、驚きのおいしさです。長崎市大山町産のタケノコを混ぜ込み炊いたご飯の歯触りも絶妙で、おかわりしたいほどでした。
「梅椀」は消化を助け、甘味で満足感を高める役割も
やがて、コースは「梅椀(うめわん)」と呼ばれる「おしるこ」が出されて終幕。卓袱料理の締めに供される「梅椀」は、シュガーロードの起点であった長崎ならではのもてなしの一品です。当時貴重だった砂糖をふんだんに使っていることからも、最上級の心尽くしが伝わりますね。
知るほどに食べたくなる
出かけたくなる長崎へ
長崎の料亭文化を守り続ける和食の料理人・山本さんと、フレンチをベースに“その土地にしかない価値”を見出す福山さん。2人の視点を通して生まれた2日限りの特別な料理は、どれも長崎の食材がイキイキと輝いていて、驚きと発見の連続でした。
今回のイベントでは、ゲストの目の前で料理を仕上げる初の試みも。会場は大盛り上がり! 目配りが行き届いた料亭ならではの細やかなサービスもさすがの一言
現在、世界中のガストロノミー(美食)シーンで、最も注目されている料理スタイルの一つといえば「イノベーティブ・フュージョン」ですが、和華蘭の「卓袱料理」はその元祖と言えるのでは……? 何より長崎県は、他県とは一線を画す、個性豊かな山海の幸が豊富。そう考えると可能性は広がるばかりで、何だかワクワクしてきませんか?
今回と同じコースは、残念ながら食べられませんが、それでも次の旅はぜひ長崎へ。長崎は食も人も街並みも、本当に素敵なので、損はさせませんよ♪
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