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東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、4月6日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演。中東情勢の緊迫が世界的なエネルギー危機をもたらす中、「原発ゼロ」を達成したばかりの台湾が直面するエネルギー問題と、それに乗じて揺さぶりをかける中国の思惑についてコメントしました。
中東情勢の緊迫とエネルギー政策の見直し
中東情勢が緊迫したままです。アメリカとイスラエルによるイラン攻撃、そしてイランの反撃と、事態は泥沼化の様相を呈しています。日本をはじめ、資源を持たない国はどこも、エネルギーの安定供給に向けて政策の見直しを迫られています。
先週行われた日本とフランスの首脳会談でも、この問題は主要な議題となりました。高市総理はマクロン大統領との間で、核融合発電や次世代原子炉の開発に関する技術協力を進めていくことを確認しました。高市政権は、原子力エネルギーを「安価で安定した電力」と位置づけています。
さて、今回取り上げたいのは、台湾のエネルギー事情、ひいては原発問題です。本来は台湾内部の議論ですが、そこに中国が巧妙に絡んでくる――それが、現在の東アジアの構図です。
「原発ゼロ」達成から1年足らずでの「再稼働」の動き
台湾は昨年5月、南部・屏東(へいとう)県の原発を最後に、国内に6基あった原発すべてを停止し、「原発ゼロ」を達成しました。この「脱原発」政策は、前任の蔡英文総統が打ち出し、現在の頼清徳総統も継承してきた与党・民進党の重要な看板政策です。東日本大震災に伴う福島第一原発事故の影響も、台湾社会に強く影を落としていました。
しかし、「原発ゼロ」からまだ1年も経過していない現在、台湾では早くも原発再稼働に向けた動きが表面化しています。
3月末、原発を運営する台湾電力は、再稼働に関する計画を政府の原子力安全委員会に提出しました。今後1年半から2年かけて審査が行われ、安全性が確認されれば再稼働の判断が下される運びです。台湾電力は政府が出資する公営企業であり、その動きは政府の意向を色濃く反映していると言えます。
台湾社会が「原発容認」に傾く理由:半導体とAI
民進党の頼清徳総統は、「脱原発」の旗を降ろすのでしょうか。現時点では明確な姿勢を示していません。「安全性、放射性廃棄物の処理、そして何より台湾社会が再稼働を許容するかどうかが大前提である」と繰り返し述べています。
しかし一方で、台湾社会の中には原発を容認する声も確実に強まっています。有権者が選んだ与党が打ち出した「脱原発」を、自ら否定しかねない動きの背景には、切実な経済問題への焦燥感が見え隠れします。
頼総統の言葉を借りれば、「AIの時代には新たな電力需要が必要だ」ということです。台湾は半導体の受託生産で世界シェアの7割を占め、独走状態にあります。AIに不可欠な半導体を安定して生産・供給するためには、膨大なエネルギーの安定供給が必須条件です。
「台湾といえば半導体、半導体といえば台湾」――半導体は、台湾の国際的地位を維持・向上させるための最重要コンテンツです。その基盤を支えるため、「安価で安定した電力供給源」とされる原発の誘惑が、現実的な選択肢として再び浮上しているのです。
中国の心理戦:「エネルギー不安を解消できるのは我々だ」
そんな中、台湾のエネルギー問題に絡め、中国政府が巧妙な心理戦を仕掛けています。
4月1日、中国政府の台湾政策を担う台湾事務弁公室の記者会見で、中国メディアの記者が「中東情勢の影響で台湾の石油供給がひっ迫し、民進党政権の対応が後手に回っていると台湾世論は指摘しているが?」と質問しました。これは明らかに筋書き通りの“やらせ質問”、あるいは当局への忖度に基づく茶番です。
しかし、注目すべきはスポークスマンの回答です。
「台湾の民進党当局は『石油やガスの供給に問題はない』と主張するが、それは人々を欺く行為だ。ひたすら逃避しているだけだ。平和的に台湾を統一した後には、我々は原油、天然ガス、工業原料など、台湾地区の不足分を完全に補うことができる。外部の情勢がいかに不安定であろうとも、台湾の同胞はエネルギー不安を抱く必要はなくなる」
要するに、「台湾のエネルギー不安を解消できるのは中国共産党だけだ」という強烈なアピールです。
「脱原発」か「安定供給」か。頼政権の苦渋の選択
中東情勢の混迷を受け、台湾でも日本と同様に石油関連価格やガソリン価格が上昇し、政府が補助金で支える事態となっています。頼総統は「『原発ゼロ』でも2032年まで電力供給に問題はない」と強調しますが、原発の再稼働問題や中東情勢の不安定化を前に、台湾の人々の心は揺れています。
現在、原発ゼロ状態の台湾の電源構成目標は「液化天然ガス50%」「石炭30%」「再生可能エネルギー20%」です。しかし、これには致命的な弱点があります。石炭火力は脱炭素の流れに逆行し、目標の半分を占める液化天然ガスは燃料備蓄が困難です。さらに、台湾が輸入する液化天然ガスの3割は中東カタール産であり、イランが事実上封鎖しているホルムズ海峡の内側、ペルシャ湾の奥深くに位置しています。海峡封鎖が長期化すれば、液化天然ガスは届きません。
安価で安定した原子力エネルギーを再び手にすれば、半導体生産のエネルギー基盤は強固になります。しかしそれは、「脱原発」を支持してきた人々の落胆と、与党・民進党の支持離れを招く危険な賭けでもあります。頼清徳総統は、極めて難しい選択を迫られています。
そこに中国が中東危機に乗じて、さまざまな手を打ってくる。これが、現在の台湾海峡を挟んだ政治図式です。
そして明日7日からは、台湾の野党第一党・国民党のトップが中国大陸を訪問し、共産党総書記である習近平主席と会談する予定です。この国共トップ会談が何を意味するのか。台湾情勢から目が離せません。
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この記事を書いたひと

飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。




















