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東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、4月13日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演。アメリカのトランプ大統領の訪中を1か月後に控えるなか、約9年半ぶりに実現した中国共産党と台湾・国民党の「国共トップ会談」の裏側にある、中国の深遠な外交戦略と台湾社会への揺さぶりについて解説しました。
中東和平の「仲介役」で見せつけた中国の影響力
先週、世界が注視したアメリカとイランの停戦合意。その背後には、友好国イランに対して停戦を強く促した中国の存在がありました。トランプ大統領もこれを認めており、中国が国際社会で影響力・発言力を拡大している様をまざまざと見せつけました。
中国自身のエネルギー確保という目的もありますが、「中東の泥沼から抜け出したいトランプ氏に恩を売った」という見方もできます。この絶妙なタイミングで、中国は彼ら自身が「内政問題」と位置付ける台湾との関係においても、大きな動きを見せました。
9年半ぶりのトップ会談。狙いは「共通の敵」への対抗
4月10日、北京で習近平総書記と台湾最大野党・国民党の鄭麗文(てい・れいぶん)主席によるトップ会談が行われました。共産党と国民党のトップが会談するのは、約9年半ぶりのことです。
歴史を振り返れば、毛沢東の共産党と蒋介石の国民党は、日中戦争時に協力(国共合作)したものの、戦後の内戦を経て長らく対立してきました。しかし、両党は「中国大陸と台湾は一つである(一つの中国)」という認識では一致しています。
そして現在、両党には「共通の敵」が存在します。それは、中国を「台湾の外にいる敵対勢力」と位置づけ、台湾の独自性を主張する与党・民進党(頼清徳政権)です。
異色の経歴を持つ国民党トップの「日本叩き」
昨年10月に国民党トップに選出された鄭麗文主席は、非常に異色の経歴を持っています。1996年には急進的な独立派として民進党に在籍し、「台湾共和国建国」を叫んでいました。しかし党内のゴタゴタで離党し、2005年に国民党へ鞍替えしてからは独立に強く反対するようになりました。一貫した政治信念は感じられません。
鄭主席は訪中期間中、南京にある孫文の墓を参拝しました。 そこで読み上げた談話には、驚くべきことに18分間で11回も「日本」という単語が登場しました。
「日本帝国主義の刃によって台湾海峡を挟んで切り裂かれた傷は、今日に至るまで癒されていません」
「孫文の理想国家建設を阻んだ元凶は日本だ」という文脈での発言ですが、これは明らかに、2日後に控えた習近平氏との会談に向け、中国側の歴史認識に合わせたものとしか思えません。
トランプ訪中と台湾の「エネルギー危機」を利用した揺さぶり
習近平氏は鄭麗文氏との会談中、映像や写真で見る限り、あまり表情を変えていないように見えました。もちろん、メディアを通して中国や台湾に、どのように伝わるかを意識したのでしょう。
ただ、歴史的に長く絡み合ってきた国民党、共産党のトップ会談とはいえ、一党独裁体制の支配政党の頂点で長期政権を続ける習近平氏。それに対して国民党は、今は台湾の野党、しかも紹介したような鄭麗文氏の経歴。「格の違いを見せつけた」と言えば、言い過ぎかもしれませんが、私にはかつて皇帝に貢ぎ物を献上しにやってきた外国の使節のように見えました。
では、中国側がこのタイミングで会談をセッティングした狙いはどこにあるのでしょうか。
1.トランプ大統領の訪中(5月14日・15日):トランプ氏は東アジア情勢への関心が薄く、台湾を「武器売買のビジネス相手」と見なす傾向があります。中国は中東和平の仲介でトランプ氏に貸しを作り、台湾問題へのアメリカの介入を牽制する狙いがあります。
2.台湾内部のエネルギー不安への介入:中東危機によって台湾では原発再稼働問題が再燃しています。中国は「統一されればエネルギー不安は解消する」「国民党が政権に返り咲けばうまくいく」と、台湾社会に露骨な揺さぶりをかけています。
「中華民族の偉大な復興」のツールとしての国民党
今年11月には、2028年の総統選を占う台湾の統一地方選挙が控えています。中国は「国民党を勝たせ、ゆくゆくは総統の座を奪還させる」という青写真を描いています。
習近平氏が好んで使うスローガン「中華民族の偉大な復興」。悲願の台湾統一を果たしてこそ、近代史の屈辱から立ち直れるという強い思いがあります。今回の国共トップ会談は、その目標を達成するためのツールとして、国民党との「蜜月」を世界と台湾社会に見せつける壮大な政治ショーだったのです。
しかし、国民党が中国に「ベッタリ」になればなるほど、台湾の有権者は強い警戒感を抱くはずです。中国の計算通りに事が運ぶのか、それとも台湾の民意がそれを弾き返すのか。東アジアのパワーバランスを揺るがす神経戦が続いています。
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