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飼料高にあえぐ酪農家が“Win-Win提携”トウモロコシを国内調達へ

牛乳の原料となる「生乳」の価格が九州で9年ぶりに年度途中で引き上げられることになりました。円安などの影響で飼料が高騰しているためで、生産する酪農家は赤字が続いています。値上げしてもコストの増加分を吸収できるわけではなく新たな取り組みを始めています。

暑さで生産ダウンの上、飼料高が襲う

福岡県嘉麻市の「江藤牧場」を早朝に訪ねると、飼育する乳牛約120頭の搾乳作業に追われていました。代表を務めるのは江藤秀樹さんです。
江藤秀樹さん「夏場は食べる量が減るから、生産量はこの暑さだと1割ぐらいは落ちてきますね」
夏場は牛乳の生産量が落ちるだけでなく、牛が病気になってしまうこともあるため対策が欠かせません。
RKB小畠健太「暑さに弱い牛のために、こちらの牧場では大型の扇風機を回して対策をとっています。それに加えて、牧場内の作業は重機を使ったものが多く燃料代や電気代の高騰がそのまま経営に重くのしかかっています」
 
この牧場では扇風機に加えて気化熱で冷やすためにミストも散布していますが、ここにも電気代などコストがかかります。しかし、もっと深刻なのは餌代の高騰です。
江藤秀樹さん「トウモロコシが今は4、5、6月と5円ずつ毎月改定されて7月まで入れて今68円ぐらい。これがコロナ前の水準だと38円ぐらいだったんです。もう、カバーしきれない」
酪農は、牧草やトウモロコシといった飼料の多くを輸入に頼るため、世界的な気候変動や為替の影響を大きく受けます。多くの輸入飼料が高騰する中、江藤牧場の牛乳の生産コストも、1キロ当たり15円から20円ほど上がりました。多くの酪農家が同じように打撃を受けているといいます。
江藤さん「現役の40代の方たちが畜産、酪農から離脱して農業をやめてしまう方が3件、4件、福岡県でも出ている状況です。鹿児島からの報告では若い人が自殺されと、かなりの悲惨な状況になってますね」

月に140万円の赤字「売れば売るほど赤字」

福岡県酪農業協同組合によりますと今年度初めに172軒あった福岡県内の酪農家のうちすでに5軒が廃業。来月さらに3軒廃業することが決まっています。これまでになかったことです。

農家と“Win-Win提携”トウモロコシを調達

江藤さん「今はもう売れば売るほど赤字で、月に130~140万の赤字が出て利益が出ない。今まで蓄えがあった部分を切り崩しながらとにかく乳価を上げていただくのを待っていた」
九州生乳販連は11月から大手乳業メーカーへの生乳の販売価格を10円値上げし、1キロ当たり130円前後にすることを決めました。しかし、それでも採算は合いません。江藤さんは独自の取り組みを始めています。

RKB小畠健太「今年初めて栽培に取り組んだという飼料用のトウモロコシです。4月に種をまき2メートルを優に越える高さまで成長しています」
稲作農家と契約し、飼料用のトウモロコシの栽培を始めたのです。種まきや生育中の手入れは稲作農家に委託し、刈り取りは県の補助を受けて導入した機械で酪農家が実施。今回は1キロ15円前後で買い取る契約ですが、いまの輸入飼料と比べればずいぶん安く抑えられます。
江藤さん「輸入はずっと値上がりしているからある程度の買取値段を提示して、稲作農家とウィンウィンの金額を設定する。それでもはるかに安いし為替とか国際情勢に左右されない安定的に供給が受けられるようになる」
栽培に協力する稲作農家も、米や麦以外の選択肢として可能性を感じています。
農家・大里正弘さん「稲に比べると全然手はかからないし、お互いがつぶれないように地元の自営業同士で手を結んだ方がいいと思いますね」
収穫したトウモロコシは、実のほかに葉や茎も一緒に細かく刻んで1か月ほど乳酸発酵させることで牛の餌になります。江藤さんは餌の栄養価を確認したうえで、実際に牛に与えて問題がなければ、来年以降、栽培面積を拡大することも検討しています。
江藤さん「こういう努力をして10円でやっていけるよう生産者もして、コストを吸収できない部分は値上げで消費者の方々に理解してもらい、今まで通り牛乳乳製品をとっていただきたいのが本音ですね」

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