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「この日を待ち侘びていた―」農家の目に映るのは頭を垂れた稲穂。5年前の豪雨で農地がめちゃくちゃになり、それ以来、稲作はできなかった。復旧が一段落して初めての収穫を迎えたのだ。一方で、再び被害にあわないように5メートルほど盛り土された田んぼは、水はけが悪く、土手は崩れやすいという課題を抱えていた―。
災害から5年、ようやく稲作ができるように
福岡県南部の朝倉市。山の奥に進むと日本の原風景と形容すべき田んぼが視界に飛び込んでくる。谷地のせいか、訪れた記者の携帯電話は電波を掴まなかった。あたりには川が流れ、木々が茂っている。10月に入り、こんなのどかな場所に黄金色に実った稲穂が現れた。黒川地区で長く農業を営む林利則さんは、この日を心待ちにしていた―。
農家の林利則さん「粒は大きくてきれい。量も質もいいので当然、味もいいはずです。待ちに待ったものができあがりました!」
新しく作った土手が崩れてしまう
今では爪痕を探す方が難しくなったこの一帯は、5年前に壊滅的な被害を受けていた。九州北部豪雨だ。
黒川地区に設置された雨量計は当時、9時間で774ミリの雨を観測。住宅や農地は濁流にのまれた。豪雨によって福岡県と大分県で40人が死亡、2人の行方が今もわからない。あれから5年、ようやく米作りが再開できたという。
台風で一部は倒れたものの、出来は上々のようだ。もちろんすべてが順調ではない。田んぼを見渡すとブルーシートをかけた場所が至る所にあった―。
黒川地区に設置された雨量計は当時、9時間で774ミリの雨を観測。住宅や農地は濁流にのまれた。豪雨によって福岡県と大分県で40人が死亡、2人の行方が今もわからない。あれから5年、ようやく米作りが再開できたという。
台風で一部は倒れたものの、出来は上々のようだ。もちろんすべてが順調ではない。田んぼを見渡すとブルーシートをかけた場所が至る所にあった―。
新しく作った土手が崩れてしまう
林さん「土手に水が流れ込むと、隙間があるから流れていくんですよ。ちょろちょろした流れ方でも、ある時期になるとどさっと崩れます。土嚢を積んでいましたが、間に合わなくて、緊急的にブルーシートを張りました」林さんによると、復旧された農地は5メートルほどかさ上げされた。土手も新しく造られたが、石混じりで水が染みやすいという。土のうやビニールシートで対策しなければならないほど水が漏れやすい一方、田んぼの方はなぜか水はけが悪い。
林さん「水が引かないからコンバインを入れたら埋まってしまい刈り取れないんです。もう収穫はしません」待ち侘びていたはずの稲穂の一部は刈り取らずそのままにされていた。
消えた集落も・・・復興しても農地の担い手がいない
RKB永牟田龍太「住宅はありますが、住んでる人はいないようです」
朝倉市によると、長期避難世帯に指定された6地区にはかつて91世帯が暮らしていた。しかし、避難指定が解除されて戻ったのはわずか6世帯。消滅の危機に瀕している集落もある。
朝倉市杷木松末の「小河内集落」はその1つだったが、結局、住民が戻らず今年3月に解散する憂き目に遭った。被災したのは山間の集落が多く、高齢化も進んでいる。農地をそのまま復旧しても借り手がつかないことは目に見えていた。そこで、行政などは農地を借り上げて、農家に代わって新たな担い手を探している。
「玉ねぎの定植作業をしているんです」と気さくに説明してくれたのは、朝倉市の別の地区で農家をしている若手グループの宮崎新一さんだ。
宮崎さん「復旧が終わって、農業推進機構のマッチングで借りた土地です。今は玉ねぎを試験的に植えていますが、獣害があるので何が適切かいろんな作物を植えながら考えているところです」朝倉市などが探す「担い手」は被災地周辺の人に限らない。地区外の人にも積極的に農地を貸し出そうとしている。若手の農家たちは“出張”することで、集落の存続と復興の力になろうと考えているようだ。
宮崎さん「畑を借りて少しでも管理できていけばいいかな」
重松さん「誰かがしないと荒れていきます。人口が減っていく中で不安もありますが、耕作放棄地で美味しい野菜を作れたら地域の活性化につながると思います」
出張農家が支える「復旧農地」
九州北部豪雨によって朝倉市では主に「黒川地区」と「杷木松末地区」が被害を受けた。このうち5年ぶりに稲穂が実った黒川地区は先行してほぼ復旧が終わった。担い手不足が叫ばれたものの、マッチング事業によって9割の借り手が見つかった。こうした復旧農地は、山間に“出張”して作物をつくる宮崎さんのような人たちに支えられている。
宮崎さん「環境はバッチリいいので美味しいものをつくります。平地よりも山間の土地だからいいところもあります」山間の農地には、寒暖の差や土壌の肥沃度などのメリットも少なくない。しかし、日照時間の短さや、管理の難しさ、それに“獣害”などの難点もある。宮崎さんは、自分の工夫次第でそうしたメリットを引き出すことができる復旧農地の可能性に魅力を感じているという。
一方で、杷木松末地区は復旧が終わっておらず「集落問題」と「農地の担い手問題」はこれから訪れる課題だ。黒川のマッチング事業が、集落存続のためのモデルケースとなるのか、ここからが正念場だ。
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