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るるるる~るるガーデンの野菜がミシュランシェフの手に!

RKB社屋屋上の『るるるる~るるガーデン』で栽培した『るるる野菜』。作ったはいいが、その行先に僕は頭を悩ませていました。自分でもガッカリするほど飽き性なんじゃないかと自省もしながら…。
『るるる野菜』の用途は、これまで「社員食堂に食材として還元する」「青果店で販売させてもらう」「社内の人で分けて持ち帰る」などでした。でも、何度かそれを繰り返すうちになんだか飽きてきたのです。

悩んでいた背景には、別の理由もありました。例えば、社員食堂に届けると、安全面から厨房のスタッフさんが葉っぱの1枚1枚まで丁寧に洗うなど、使う際、細心の注意が必要になると知ったこと。青果店で販売するには、収穫できる量が少ないことなどです。

誰かにダメと言われたわけではないのですが、僕自身が感覚的にそれぞれの方法にブレーキをかけしまっていたこともあります。さらに、心の奥底に一番ズーンと大きくのしかかっていたのは、「自然環境への影響も含め、農薬を使わずに栽培した野菜の良さを、食べる人にもっと知ってほしい、共感して欲しい」という気持ちが満たされない感覚でした。

そんなことを誰にも言えず、1人孤独に考えるなんて、ただの「めんどうくさいSDGs おじさん」なのかもしれません。しかし、そんな僕の気持ちを埋めてくれる人物が現れたのです。 その人物とは、ミシュランガイドに6年連続で掲載された経歴を持つ料理人・中野秀明シェフです。おじさんがおじさんの心の隙間を埋めてくれたのです。

ミシュランシェフとのコラボで掛け算に

中野シェフは宮城県出身の53歳。地元の農業高校を出て、東京の有名店でシェフを務めていました。その後、無添加やオーガニック栽培の食材の利用に徹するため、東京を離れ、数年前に福岡に移住されたのです。

僕がシェフの存在を知ったのは、同僚である谷口あゆみディレクターが制作した番組「ミシュランシェフの無人島開拓記」でした。熊本県天草の無人島・産島で、木からもいだ夏蜜柑を丸かじりし、「今、俺、地球とつながってる」と言っていたシーンを、僕は鮮明に覚えていました。

谷口ディレクターに色々と話を聞くと、中野シェフが福岡市のお店をたたみ、今はキッチンカーで「食の美味しさ、安全、豊かさ」を伝える活動をしているとのことでした。さっそくアポイントを取ると、数日後、中野シェフが娘さんをつれて、『るるるガーデン』に来てくれました。そこで、「ぜひキッチンカーで『るるる野菜』を使って欲しい」とお願いしたところ、なんと快諾してくれたのです!

中野シェフと肩を並べるなんてことは、おこがましすぎて言えませんが、微力ながら僕も「食の安全や環境問題の改善」というメッセージを世に伝えたいと思いながら、『るるるガーデン』の活動を続けてきました。ただ、これまでは心のどこかに、「他の誰かと思いを分かち合えない寂しさ」を抱えていたのです。僕の心は「仲間ができた!」という喜びで満ち溢れました。

ビーチクリーンなどもそうですが、環境活動に取り組んでいる人はたくさんいます。そうした活動は、1人で続けるよりも横の連携を強化し、一緒に前に進むことで、足し算ではなく掛け算になる時がきっとくると思うのです。

いよいよ食材提供スタート

収穫1回目は、カブ、小松菜、まだ小さかったビーツを持って帰ってくださいました。
一緒に活動されている娘さんは、以前パン屋さんに務めていたそうです。そこで毎日目にしていたのは、大量廃棄の現実。そんな社会を変えるべく、お父さんと一緒に活動を始めたそうです。

お父さんがいなかったら娘さんはパン屋さんをやめていたでしょうか…。そこまでは聞いていませんが、父・秀明さんの存在が、娘さんの選択に少なからず影響を及ぼしたのは間違いないと思います。

そして迎えた2度目の食材提供。この日は、20個ほどのビーツが収穫時期を迎えていたので、中野さんに連絡したところすぐに来てくれました。ビーツの料理方法はカレーに決定。スパイスも含め全ての食材を無農薬栽培にこだわるとお聞きし、週末の提供が待ちきれない思いでした。

赤いのに辛く無い!?ビーツカレー

中野シェフのキッチンカーは、定期的に「ナチュラルナチュラル春日店(福岡県春日市)」の駐車場で出店されています。伺ってみると、『るるるガーデン』で育ったビーツが美味しそうなカレーに変身していました!

ゴロゴロとじゃがいものように入っているのは全部ビーツです。なんと贅沢なカレーでしょう。我ながらビーツの出来は絶品でした。ビーツは芋と大根の中間のような食感で、噛んでいくと中心にフワッとやさしい甘さを感じました。

ミシュランシェフが作るカレーですから、それ自体が美味しいのは当然です!スパイスが入っているのでもちろんピリッとはしますが、子どもでも食べられる辛さです。注目すべきは、ごはんが発芽玄米であること。発芽玄米とは、玄米を少しだけ発芽させることで、眠っていた酵素を呼び起こしたもので、より栄養価が高く、甘味もあります。

そしてもう一度言いますが、すばらしいのは、それらの食材全てが無農薬栽培であることです。体に良いものを美味しく食べられる、さらに「地球環境にも優しい」、そう思いながら食べると心も満たされて、これが豊かな暮らしの原点であることを確信できました。

これまではモノをたくさん持つことが豊かだとされてきましたし、僕自身そう思ってきました。しかし、ここ数年その定説に疑問をもち始め、「食」を変えてみたところ、本当の「豊かな暮らし」の入り口に立てている気がします。(あくまで個人の感想です)

オーガニック給食が誕生!しかも公立校で!

中野シェフの活動の焦点は「子どもたち」にあります。2021年5月5日には、オーガニック食材のみで作ったピザ50枚とカレー50食を、子どもたちに無料で提供したそうです。「子どもの日くらい、大人がそういうことやってもいいじゃん!」とおっしゃっていました。それを聞いた僕は、来年の子どもの日には、『るるる野菜』を中野シェフに提供させていただく約束をしてきました。そして、最後に中野シェフはこんな話をしてくれました。

「北海道の更別村(さらべつむら)で月に1度、オーガニック給食を作ることが決まった」

中野シェフの大きな目標のひとつが、全国の小中学校の給食をオーガニックにすることです。その第一歩を北海道で踏み出したのです。私立の学校ではすでに始まっていますが、これが公立学校となるとなかなか難しいのが現状だそうです。どこの食材を使用するのかが契約によって決まっているためです。そんな中、北海道の更別村にある幼稚園1つ、小学校2校、中学校1校の合計450人以上に、今年11月から月に1度オーガニック給食が提供されることが決まりました。どうにか実現したい自治体と料理人が思いをひとつにし、行動した結果です。

使うのは地元の食材のみというこだわりもあります。メニューは中野シェフが考案するレシピで作られるカレーです。多くの野菜が必要ないということもメニューがカレーになった理由です。こうして1つの自治体が始めることで、その隣町も、さらにその隣も、と広がっていくのではないかと中野シェフは期待しています。

食の世界で使われる言葉に「ガストロノミー」というものがあります。フランス語で「美食」を意味し、特に上質な素材やテクニック、シェフの創造性などを含む言葉です。これを中野シェフに置き換えた場合、オーガニック素材と、ミシュランシェフのテクニック、そして「子どもたちの未来」の創造ということになるでしょうか。

そして、中野シェフは子どもたちに給食を提供する際に、目の前にあるカレーができあがるまでにどれだけの人が関わっているのかも説明してあげたいとおっしゃっていました。
野菜を作る人、スパイスを作る人、それを運ぶ人、カレーを作る人、鍋や食器を作る人、それらを考えた人、一緒に食べる先生…など、いろんな人たちが関わって、それぞれの思いが詰め込まれたカレーこそが、本当の美食=ガストロノミーであるということを。

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