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「香害」とは?~香りが原因の新たな公害~「化学物質過敏症」との関係も・・・

臭いが気になる時、「香り」で対策する人は少なくないのではないでしょうか。暑い日が続き、「気になる臭い」と言えば体臭に限らず、服、キッチン、満員電車など、様々なものが思い浮かびますよね。そして、それぞれの対策グッズの販売も盛んです。コンビニやドラッグストアには「臭いを抑える」機能に加えて「良い香り付け」をできる臭い対策の商品が多数売られています。

しかし「香り」が及ぼす誰にでも起こりうる健康被害があることをご存知でしょうか。その名も「香害」。症状に悩む人は100万人を超えるともいわれます。実情があまり知られていないため、周りの理解や協力を得られないまま症状を抱えて辛い思いをしている当事者は少なくありません。香りが引き起こす新たな公害について解説します。

化学物質過敏症にもつながる「香害」とは?

人工的な香料が原因となり、様々な症状を引き起こす「香害」。これらの香料は「化学物質過敏症」を誘発するともいわれています。

「化学物質過敏症」とは?

人工的な香料や住宅の建築資材、車の排気ガスなど、身の回りに存在する化学物質に反応して様々な症状が現れる病気です。一度発症するとわずかな化学物質にでも過敏に反応するため、仕事や学校生活、日常の暮らしにも支障をきたします。

発症の仕組みなど解明されていないことが多く、周囲の理解や協力を得にくいことから、心身ともに深刻な状況に陥るケースも多いのです。

香害によって現れる症状は?

頭痛やめまい、咳、吐き気や腹痛、疲労や倦怠感、不眠など、症状は身体的なものから精神的なものまで多岐にわたります。また、その程度も人によって異なります。

どんな物質が香害の原因に?

香害の原因となるのは、衣料用柔軟剤、洗剤、芳香剤、シャンプー、化粧品、整髪料、制汗剤などに含まれる人工的な香料。つまり、化学物質です。

私たちにできること。

私たちの暮らしには柔軟剤やシャンプーなどの人工的な香りが蔓延しています。自分にとっては好きで心地いいものであっても、それが原因で苦しんでいる人たちが周りにいるかもしれません。
まずは香害について知り、正しく理解することが大切です。

「香害」の実情やリアルな声をRKBが独自取材

RKBテレビ『タダイマ!』(月~金15:40放送)で2020年11月に「香害」をテーマにした特集を放送しました。
香害 化学物質が原因で体調不良になる「化学物質過敏症」。なかでも「香り」に悩まされている人たちがいます。「香り」による害、「香害」。いつ自分にふりかかるか分からない問題です。

専門家や症状に苦しむ方たちに取材して、彼らの現状や思いをお伝えし、今、私たちにできることを考えています。これまでの放送の中から、いくつかのトピックをご紹介します。

香害に苦しむ人たちは年々増えている

化学物質過敏症の治療を行う「そよかぜクリニック(東京都)」の宮田幹夫院長(北里大学名誉教授)は、香害で受診する患者は年々増えていると言い、「昔はシックハウス(シックハウス症候群。建築資材等から発生する化学物質が原因で発症)が中心だったけれど、今一番問題になっているのは繊維柔軟剤」と話します。

また、脳科学の分野からにおいの研究を行う九州大学の岡本剛准教授(基幹教育院 脳科学・医工学)は、嗅覚の「においに慣れやすい」という特徴を踏まえ、柔軟剤の香りについて「(今は)かなり強い濃度になっていると思います」と分析。

実際に、およそ9000人にアンケート調査を実施した「香害に関するアンケート」(日本消費者連盟)では、香害で体調不良になったことがあると答えた人が79%。その内18.6%が学校や仕事を欠席・退職しなければならなくなったと回答しています。

化学物質過敏症を取り巻く、厳しい現状

取材で明らかになったのは、「化学物質過敏症に特効薬はなく、治療法も確立されていない。」「頭痛や倦怠感、めまいや耳鳴りなど一般的によく見られる症状が多く、精神疾患や原因不明と診断されることが少なくない。」といった医学的なアプローチがまだまだ難しい疾患であること。

専門医が全国に数えるほどしかいないため、不調を感じても化学物質過敏症であると診断されるまでには時間がかかり、また、診断されても化学物質である“薬”は処方できず、症状をやわらげることもできません。

一度発症するとごくわずかな化学物質にも反応し、症状が出る化学物質過敏症。宮田院長によると、治療法は「(化学物質を)吸わない」「解毒を早くする」「過敏になっている神経症状を落ち着かせる」こと。症状が出ないように自ら行動を制限し、症状が出た時には落ち着くまで耐えるしかないのが現状なのです。

誰もが発症する可能性がある化学物質過敏症

化学物質過敏症は、どういう人が発症しやすいのでしょう。宮田院長は「花粉症」との共通点をあげて説明します。
一度発症してしまうと、「ごく微量で反応する」「完治する方法が見つかっていない」「ある日突然、誰でもかかる可能性がある」と。

花粉症については、他人事のように思っていたところがある日突然発症し、初めて辛さがわかったという方も多いのではないでしょうか。

香料などの化学物質が身の回りに蔓延する今、香害をはじめとする化学物質過敏症も花粉症と同じように、身近な病気となる日がくるかもしれません。

取材で聞いた化学物質過敏症患者の声

10年ほど前、それまで使っていた石鹸に吐き気がしたり、美容院でのシャンプー後にイライラするようになったというAさん。頭痛や吐き気、イライラ、咳や鼻水などの症状に悩み、5年前にようやく東京の病院で化学物質過敏症の診断を受けましたが、治療法はなく、公共機関を使う時は防毒マスクが手放せないと言います。

職場にも事情を説明しましたが、「(周りの人の)柔軟剤などについては自分で防御しなければならない」「共同で使うトイレや更衣室に置いてある芳香剤は撤去できない」と言われ理解を得ることはできず、仕事を辞めざるを得ませんでした。

普通の暮らしがままならない現状を「いろんなことをあきらめている感じ」と言うAさん。「わがままを言っている、気にしすぎていると言われ、わかってもらえない。どうしたらこの問題が解決できるのかを考えていただけたらうれしい」と声を詰まらせます。

望まれる社会の理解

今はまだ、香害による症状や辛さが社会に理解されているとは言い難いのが現状です。「におい物質と体に被害が及ぶことの因果関係が曖昧」と岡本准教授が言うとおり、発症の仕組みが解明されていないため、患者が辛さを訴えても職場や学校で協力を得られないことが多いのです。

これまでに多くの患者を診てきた宮田院長は、「症状が悪化すると微量な化学物質で体が反応をすることをわかってもらいたい。社会全体の理解が必要です」と訴えます。

「香害」をシリーズとして放送

今回、患者の取材に際しては、リポーター始めスタッフ全員が新しい服を用意。洗濯する時は無香料の洗剤で洗濯機を使わずに手洗いをし、入浴では無香料のシャンプーや石鹸を使うなど、極力香りをつけないようにしてのぞみました。

第1回目の放送を坂田周大アナウンサーはこう結びました。「体調不良を訴える人に対して、それが決してその人のわがままや気持ちの問題ではないのだということを、私たち一人ひとりが知ること、これが肝心ですね」。

まずは、正しく知ること。一人ひとりの姿勢が患者を、引いては未来の身近な人や自分を救うことにつながるのではないでしょうか。
香害 化学物質が原因で体調不良になる「化学物質過敏症」。なかでも「香り」に悩まされている人たちがいます。「香り」による害、「香害」。いつ自分にふりかかるか分からない問題です。

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