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最高にうまい胃薬、ミールスの専門店

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ノンオイルカレー店「chakra」のスタート

9年前、ノンオイルカレーをやってる店があるという話を聞いて初めて「chakra」に行ったのが、店主である小川博(こがわひろし)さんとの出会いだった。その数年前からメキシカンバー「EL FLAMINGO(エル・フラミンゴ)」を営業しており、どことなくエキゾチックな雰囲気の小川さん。まさにメキシカンにぴったりな印象だった。
「じゃあ、カレーは?」となると、18時から20時までの限定2時間のカレー店「chakra」として営業しているとのことだった。「EL FLAMINGO」の営業前に小川さん自身が別の看板で営業していたのだ。今でこそ間借りカレーという言葉が普通になったが、言うなれば、セルフ間借りカレー状態だった。

元々カレーが大好きだった小川さんは自分好みのカレーを求めていろんな店を食べ歩いていた。しかし、歳のせいもあってカレーをガッツリ食べると胃もたれを感じるようになっていた。「そもそもカレーに使われているスパイスは漢方や薬膳にも通じるものがあり、体には良いはずなのになぜ胃がもたれるのか」。ふとそういう疑問が浮かんだ小川さんは、「ならば胃もたれをしないカレーを作ってみよう!!」と思い立ったそうだ。

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そこで辿り着いたのがスパイスと塩、水、野菜、鶏肉だけを使って作るカレー。油は鶏肉そのものから出て来るものだけを使うノンオイルのチキンカレーだった。メニューはノンオイルカレーのみ(写真)。単品700円。ミニサラダかラッシーをつけると900円。両方つけると1,000円だった。
印象としてはスパイススープという感じだったが北海道スープカレーではなく、あくまでもインドカレー風。スパイシーでコクがあって美味しく、まさに胃もたれとは無縁のカレーだったと記憶している。

しかしこの2時間限定のカレー店というのは小川さんにとってはある種の実験でもあった。「2時間限定のカレー店って面白くないですか? なんだ、その店はってなりますよね」と小川さん。確かに「どんな経営をしているの?」って周囲は疑問に思ったに違いない。
さらに面白かったのがその日の来店客数と売上金額を毎日自身のブログに公開していたのだ。忙しい日もあればノーゲストの日もある。しかしそれもすべて書いていた。当時僕は毎日それを見るのを楽しみにしてた。というか小さい飲食店の経営状況を肌で感じるための参考にしていたと言ったほうが正しいかな。

小川さんは「2時間限定のカレー店、そして油を使わないという珍しいチキンカレー、さらに売上を毎日公開している。それだけでもマスメディアが注目してくれてテレビの取材を結構受けましたよ」と当時を振り返る。「え? それが目的だったとか?」と聞くと「狙っていたといえば狙ってました(笑)」と答える。そういう意味で新しいことを始めるタイミングでの小川さんなりの実験だったと僕は思っている。

夕方2時間のカレー営業が軌道にのりだすと「chakra」はランチライムでの営業へと移行した。ランチ営業は奥様の陽子さんが担当することになった。パスタが大好きな彼女はまかないのパスタ目当てにパスタ専門店で働いていたが、小川さんから「うちのカレー店で働いてくれないか」とお願いしたそうだ。「パスタが食べられなくなるやん!!」と言いつつしぶしぶ引き受けた陽子さんだったが、笑顔が素敵な彼女の人気もあり夜の時よりも売り上げが伸びたという。

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ミールス専門店への進化

ノンオイルチキンカレーを突き詰めていき、とりあえずの完成を感じ出した小川さんは、その頃から気になっていた南インド料理のミールスに興味を持つようになっていた。そして、ミールスを提供している知り合いに指導を受けながら自分なりのミールス作りに没頭し始めた。

「EL FLAMINGO」は10年で辞めるという人生の予定もあったので、2017年に「EL FLAMINGO」の看板をおろし「chakra」として再スタートした。
最初はノンオイルカレーや「EL FLAMINGO」の要素も残したメキシカンミールスというものもメニューにあり、バラエティに富んだ内容だったが、その後さらに本格的にスパイスにハマり続けた結果、メキシコ要素を捨ててミールス専門店として名乗り始めた。現在は肉や魚を使ったノンベジミールス、そしてベジタリアンミールスやビーガンミールスなど正統派のミールスに特化したメニュー構成になっており、噂を聞きつけたカレー好きミールス好きが福岡のみならず関東や関西からもやってくる店になっている。

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小川さんがミールス専門店に行きついた理由は「僕が目指している身体に良いスパイス料理の究極がミールスだと思うんです」という彼自身の言葉に集約される。店の外壁に「最高に美味い胃薬をミールスで作る」と手書きで大きく書かれているのは、それがまさに小川さんがカレー作りを始めた最初のテーマだからだ。しかし通行人はさぞ怪しげなお店だと思っていることだろう。それも小川さんの作戦なのだろうが。

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胃に優しいミールス作りへのこだわり

では、胃にもたれないミールスとはどういうものか。小川さんはこのように話してくれた。
「胃もたれしないのは、一般的なカレーと違って小麦粉と油をこねくり回したルーを使わないからだと思っています。これはグルテンが悪いという意味ではなく、ことカレールーに関しては小麦粉が与える膨満感をスパイスで感じにくくさせる事によって過剰に摂取してしまう原因になるのではないかと思うんです。ブレーキとアクセルを同時に踏んでいるイメージです。これをスパイスが本来持っている胃薬的役割として使用してやりたいと思っています。身体を整えながら食材を摂取する、これがスパイス本来の姿ではないのでしょうか」
なるほど。しかし、デカいトンカツがのった欧風カレーも大好きな僕としては耳が痛い話でもある(笑)。では、スパイスを使うにあたって心掛けてることはなんだろう。
「スパイスに関しては特にコレが好きというのはなく、全て食材との相性で決めています。あくまでメインは食材です。その食材が一番美味しくなるように手助けしてくれるのがスパイスですし、そのための火加減とか塩分量には細心の注意を払います。なので、同じ野菜や魚を使っても季節によって味が違いますし、旬にかなうものはありません」と答えてくれた。それは昭和の頃に家庭で食べていたようなシンプルな和食に通じるものがあるのかもしれないと僕は勝手に理解した。

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今後の夢

小川さんは店でミールスを提供する以外に料理教室を中心としたワークショップを定期的に開催している。スパイスのことを勉強しながらスパイス料理やビリヤニなどの作り方を教えてもらえる教室。お店のホームページを見てみると、スパイスの一般的な説明だけでなく、実際に使ってみた感想や使い方も詳しく書いている。またミールスの食べ方などを素人にも分かりやすく紹介したり、スパイスも通信販売している。
「スパイス料理が広く家庭に広まることも嬉しいし、カレー業界に入ってくる後輩たちが少しでも参考にして役に立ててくれれば良いなと思ってやってます」と小川さん。もうすぐ50歳を迎えるし、そろそろ目の前の利益だけではなく、次の世代へつながることに取り組みたいという思いもあるようだ。

最後に料理教室をやる目的について本音をちょっと聞いてみた。

「作ってみたら難しさがわかるんですよ。作ってみて上手くいかなかった人に言いたいんです。『俺のすごさがわかったろ!?』って(笑)」。なるほど、最後も小川さんらしい話だ。

性格は丸いけど、やってることは尖っていて凝り性。自分の意見はしっかり主張し、考えた事をとことんやってみてみないと気が済まない人。そういう人って、だいたい変人一歩手間の面白い人が多い気がする。それでも彼の作りだすミールスを食べてみると、スパイスにハマった男“「chakra」の小川”の本気がわかるはず。もっともっと注目されていつかバカ当たりして欲しいと思ってしまう。

店舗名:chakra(チャクラ)
ジャンル:カレー
住所:〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉2丁目4-4
電話番号:092-713-0707
営業時間:12:00~OS15:00/18:00~OS20:00

定休日:日・月・火曜
席数:カウンター6席
メニュー:昼:アルティメットミールス(ノンベジ)2,000円、ベジタリアンミールス1,200円、ビーガンミールス1,500円/夜:アルティメットミールス2,500円、ベジタリアンミールス1,700円、ビーガンミールス2,000円、コース料理4,000円~ ※夜はワンドリンク制

URL:https://currychakra.com/

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この記事を書いたひと

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