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「値上げの10月」庶民の味方・第三のビールから税金考えるきっかけに

10月から酒税法が改定されて「第三のビール」などの酒税が上がる。世のなか値上げラッシュで、今年に入って食品だけでその数およそ3万品目にも及ぶが、今度は「庶民の味方」も対象となる。9月22日にRKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した、元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんは「税金の使い道を考えるきっかけに」と呼びかけた。

そもそもなぜ「第三のビール」なのか?

今回の酒税改定は6年前、2017年にすでに決まっていて、3段階に分けて実施される2回目です。上がるのは第三のビールとワイン。下がるのは、ビールと日本酒です。ただ、第三のビールの上げ幅が大きくて、節約のためにビールから替えたご家庭も多いでしょうから、「痛い」という声が多くて、実は、かく言う私もそうです。


まずはビールの区別から復習します。酒税法上「ビール類」には三つの種類があります。一つ目はビールで、国税庁の定義は、「麦芽比率が全体の50%以上で、米や果実、香味料などの副原料が麦芽重量の5%以内のもの」です。銘柄で言うと、アサヒ・スーパードライやキリンラガー、サッポロ黒ラベルなど。


ちなみに、ビール大国のドイツでは600年以上前にできた「ビール純粋令」に「ビールは麦芽、ホップ、水、酵母のみを原料とする」とあって、日本で当てはまるのはキリン一番搾りやサントリー・プレミアムモルツ、エビスビールなどです。


二つ目は発泡酒で、こちらは麦芽比率がビールより低い「50%未満」で、副原料はビールで認められていないものも含めて、「麦芽の5%以上」使えるなど、条件が緩やかです。代表格は「淡麗グリーンラベル」です。


そして、そのどちらにも当てはまらないのが「新ジャンル」とも呼ばれる第三のビールで、銘柄で言うと「本麒麟」や「金麦」「クリアアサヒ」や「麦とホップ」などが該当します。製法など詳しくは後でお話しします。

発泡酒を狙い撃ちした増税

では次に、酒税の税率がどう変わってきたか――です。というか、酒税の変遷が新しいビール系飲料を生んできたとも言えます。


転換点は今からおよそ30年前の1994年でした。一般家庭に冷蔵庫などなかった戦後の復興期、「ビールはぜいたく品」だったので日本のビールの税率は高く、令和の時代になった今でもドイツのおよそ20倍、消費税も含めるとビール代のおよそ4割は税金という状況です。


そこで「味は、ほぼビール」でも「酒税法上ビールにならない酒」を造ろうと、サントリーがこの年発売したのが、発泡酒の「ホップス」でした。当時、酒税法はビールの定義を「麦芽の使用率67%以上」としていて、それを下回ると税率の低い「雑酒・発泡酒」が適用され、65%のホッブズは安く出せたんです。他社も参入して、ビール系の発泡酒というジャンルが生まれました。


ところが、政府は2年後の1996年に酒税法を改定し、麦芽率50%以上の発泡酒の税率をビールと同じにします。発泡酒を狙い撃ちにした増税で、各メーカーは麦芽比率50%未満の商品開発でこれに対抗しました。おりしもバブル崩壊後の不況期、安さが受けて発泡酒のシェアは2000年代初め、ビール類の半分近くを占めるまでになります。


するとまた狙い撃ちです。2003年5月に発泡酒は増税されて、以後、市場は徐々に縮小します。そこに現れたのが「第三のビール」でした。ビール、発泡酒の次だから「第三の」なんですね。

こんどは第三のビールを増税対象に

この第三のビール、実は2種類あって、一つは「麦や麦芽以外の穀物から作るもの」。もう一つは「発泡酒に麦類を原料とする蒸留酒を混ぜて作るもの」で、ベースは発泡酒なのに、別の酒を混ぜると税率が下がるという酒税法の盲点を突いた商品です。増税されてはかいくぐるという、いわばメーカーと国税庁の知恵比べですね(笑)。最近のヒット銘柄はこちらのほうが多くて、新ジャンルの主流になっています。
 

その後、2006年にその第三のビールも増税されるなどして、今回の改定が決まった2017年当時の酒税額は、というと、350ミリリットル缶換算で▽ビールは1本77円▽発泡酒はおよそ47円▽第三のビールは28円――でした。
 

それが2020年の1回目の改定で、▽ビールは7円減税されて1本70円に▽発泡酒はすえ置かれ▽第三のビールは10円弱の増税でおよそ38円――になりました。
 

そうして今回、10月からの改定で▽ビールはさらに7円ほど減税されておよそ63円になり▽発泡酒は今回も据え置かれ▽第三のビールはまた10円弱あがって、ついに発泡酒と同じおよそ47円になりました。
 

つまり、この3年で350ミリリットル缶のビールはおよそ14円減税され、発泡酒は変わらず、第三のビールは20円近く増税されたんです。

買いだめには「覚悟」が必要

きのう、近所のスーパーで改めて値段を確認しましたが、ビールは350ミリリットル缶24本のケース売りで安くても4千数百円。一方、第三のビールは3000円を切っていましたから、そりゃあ物価高の今、うちもそうですが、家計の厳しいお宅は第三のビールですよ。


もちろん10月になればビールは下がりますから、それを待つという考え方もありますが、それでもおそらく1ケース4000円そこそこ。値上げ後の第三のビールと比べても、まだ1000円近くは高いはずです。


ということで私、先日2ケース買いました。第三のビールを(笑)。ただし、ここで気を付けなければならないのは、家にいっぱいあるからと、つい飲み過ぎてしまうこと――って、それ私なんですが(笑)。いつもは1本のところを2本飲んでたら、節約どころか高くついて、健康にもよろしくない。


防ぐには冷蔵庫に入れる本数を制限することで、今まで1日1本だったら1本しか冷やさない――買いだめにはそれくらいの覚悟が必要だ、と、これも私がカミさんに言われたことなんですが(笑)。いま駆け込み需要で、店によっては品薄になっているところもあるようなので、生活防衛には(あくまで飲み過ぎない決意の上で)、買い置きも有りかと思います。

3年後にはもう一つの庶民の味方「酎ハイ」も…

ちなみに今回の酒税改定では、冒頭お話ししましたが、ほかに日本酒が減税され、ワインが増税されます。上げ幅下げ幅共に1リットル当たりおよそ10円ですが、実際には資材の高騰などで日本酒はほとんど下がらず、ワインは若干上がるか据え置きのところが多いようだと、大手酒販会社の幹部は話していました。なので、ワインは慌てて買い置きする必要はなさそうです。
 

さて、2017年に決まった酒税改定。最後の3回目は3年後の2026年10月で、ここでまたビールは減税、発泡酒と第三のビールは増税されて、ついにビール類は3種類すべて同じ税額になります。メーカーがあれこれ知恵を絞って税金の安いビール飲料を開発してきた歴史も、多分これで終わり。しかも次回の改定では、この間ずっと据え置かれてきた庶民の味方「酎ハイ」類の税額も7円上がることが決まっています。
 

国税庁は改定の目的を「同じような酒の種類なのに税率に差があり、商品開発や販売数量に影響を与えている状況を改め、税負担の公平性を回復する」ため、としていますが、消費者側からすれば、生活防衛のために、ビールから発泡酒、発泡酒から第三のビール、さらには酎ハイへと逃れてきた庶民を追い詰めるように映るのも事実です。

値上げを機に税金の使い道を考える

今月、私はこのコーナーで2回、税金の使い方がおかしくないですか、という話をしました。車を持っていない人にはほとんど恩恵のないガソリン代補助に数兆円も使う一方で、国立大学や学術機関では研究費や冷房代にも事欠く始末だったり、「予備費」という国会の承認なしで使える予算がチェックの甘さで悪用されていたりといった問題でした。


納税は国民の義務ですし、酒税の改定も6年前に私たちが選んだ国会議員が多数決で決めたことです。ただ、庶民に厳しい増税をするなら、その使い道は決して選挙対策などでなく、国民のため、この国の未来のために使って欲しいと、心から願います。


私たちも後で「何でこんなことに…」と後悔しないように、選挙で1票を投じなければいけないと心した、苦いビールの話でした。

 

◎潟永秀一郎(がたなが・しゅういちろう)
1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。

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