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台湾・民主主義の深化は「野党の出方がカギ」ウォッチャーが解説

来年1月に迫った台湾総統選。総統、副総統の候補者を、11月24日までに中央選挙委員会に届け出る必要がある。与党・民進党は正副総統候補を届け出たが、野党側は、野党統一候補を立てられるのか?

来年1月に迫った台湾総統選。総統、副総統の候補者を、1124日までに中央選挙委員会に届け出る必要がある。与党・民進党は正副総統候補を届け出たが、野党側は、野党統一候補を立てられるのか? 1123日にRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した、飯田和郎・元RKB解説委員長が台湾総統選について解説した。

米中首脳会談でも、台湾問題は焦点の一つ

習近平主席はバイデン大統領に、台湾について「中国はやがて統一するだろうし、必ず統一する」と言い切った。一方、大統領は、「台湾の選挙のプロセスを尊重するよう」求めた。総統選挙に中国が介入することに懸念を深めているからだ。総統選挙の投票日まで、緊張は高まっていくだろう。

 

その台湾総統選。総統、副総統の候補の名前を、1124日までに、中央選挙委員会に届け出る必要がある。与党・民進党は正副総統候補を届け出たが、一方の野党側は、野党統一候補を立てられるのか、野党側が分裂したままなのか、締め切り間際になっても、わからない。

 

それは、先ほど紹介した「総統選挙への中国の介入」があるのか、ないのか。どこまで進むのか、にも関係してくる。

 

与党の民進党の総統候補は、頼清徳氏。1120日に決まった副総統候補は、女性で駐アメリカ代表の蕭美琴氏だ。民進党は初めて国民党から政権を取った2000年以降、総統・副総統を「男・女」、または「女・男」のペアにしている。次の総統選も同じように「男・女」の組み合わせで臨む。

 

民進党の女性副総統候補の蕭美琴氏。以前、このコーナーで「アメリカでの活発な活動を通じて、アメリカ政府と緊密に連携している」と、紹介した。日本の神戸出身で、台湾人の父親とアメリカ人の母親を持つ。中国は、彼女の活動を非難して、「戦争を引き起こしかねないトラブルメーカー」と呼んでいる。

候補の統一が難航する野党側

野党側は、候補の一本化を決めたものの、立候補を表明している最大野党・国民党の侯友宜氏も、民衆党の柯文哲氏も自分が「総統候補となる」という意向。昨日(22日)現在、まだ調整がついていない。

 

野党統一候補がまとまるかどうか。最近の世論調査では、支持率は与党・民進党の頼清徳氏が33

%、最大野党・国民党の侯友宜が26%、民衆党の柯文哲が18%。この構図のままなら、与党の頼清徳氏が逃げ切れるかな、という感じだ。

 

逆に一本化されれば、数字の上では野党の2人が、与党を上回る。挑む野党側は、単独では与党に対抗できないと判断し、野党両党は統一候補を立てる方針で一致した。そうなると、情勢は一転、政権交代が起こる可能性も出てきた。だが、なかなかうまくいかない。

 

このまま野党が分裂したままで、与党の頼清徳氏が勝てば、台湾で1996年に総統選挙が始まって以来、同じ政党の候補が3期(=12年)連続で総統の座に就くことになる。しかも、中国と距離を置く民進党の総統が続くわけだ。だから、24日までにはっきりする野党統一候補の成否が注目される。

 

特に、国民党と組む柯文哲氏の民衆党の判断が大きい。民衆党の支持者は、これまでの総統選挙で続いてきた、大まかな構図、つまり民進党か、国民党か――ではなく、「既成の大政党ではだめだ。台湾は閉塞感の中にある。政治文化を変えるんだ」という有権者、特に若年層からの支持を集めている。

 

だから、仮に2つの野党が、一本化して正副総統を立てることになっても、民衆党の支持者からは「なんだ。国民党と一緒にやるのか。ガッカリだ」と失望するかもしれない。つまり、1+1=2にならないかもしれない。難しいところだ。

 

民進党として、総統の座を維持しなくてはいけない頼清徳氏の方はどうだろうか? 確かにこのところ、話題が野党側ばかりだ。各種調査をみても、頼清徳氏自身の支持率が上がってこない。民進党は誕生以来、若い世代が支持してきた。その若者たちの「民進党離れ」が進む。柯文哲氏の民衆党に流れている。

民進党政権を倒したい中国は…

中国はひと言でいうと、民進党政権を倒したいと考えている。ましてや、蕭美琴さんが副総統候補になった。彼女は、かつては独立志向をあからさまにしていた頼清徳氏に比べても、より中国と対峙する発言をしてきたこともある。

 

台湾の副総統は、総統に万が一のことがあれば、総統になる。つまり中国がトラブルメーカーと名指しして非難する蕭美琴さんが台湾のトップになる。さらに、副総統は4年後、8年後の総統の有力候補になる可能性がある。中国はとても歓迎できない。

 

今回に限らず、台湾総統選は中国との関係が最大の焦点だ。それは1996年に初めて、台湾総統直接選挙が始まって以降、毎回、変わらない。

 

野党統一候補が成立するかどうか。それによって、総統の座を守りたい与党・民進党サイドの選挙戦術は変わるだろう。それに、中国側が投票日に向けて、台湾の有権者に向けた仕掛けも変化してくるはずだ。習近平政権は、すでにシミュレーションを終えているだろう。

 

中国を念頭に有権者は野党を選ぶのか?

 

中国は軍事力を日々、増強している。ロシアによるウクライナ侵攻も、台湾有事を連想させる。台湾の有権者は、「中国と、ことを構えたくない。中国に融和的な野党を選ぶ」――そんな選択肢が出てくる。

 

もちろん、戦争は嫌だ。中国の硬軟織り交ぜた仕掛けに対し、心理的な圧力もあるだろう。ただ、「自分たちは中国人とは違う。台湾人だ」――。つまり、台湾住民の間で、「台湾人意識」が強まっている。そうなると、今の民進党路線の流れが続くのではないだろうか。

 

だから、現時点では中国側も様子見だ。先週の米中首脳会談、日中首脳会談のいずれにおいても、習近平氏は、カメラの前では穏やかな表情を貫いた。笑みまで見せていた。中国経済が厳しい状況にあるから、外資を呼び込むため、という解説があった。そうかもしれない。ただ、一方で、習近平主席の表情を、台湾の有権者も見つめていた。習近平主席は、台湾も意識したソフト路線だったのではないか。

 

台湾の総統選は、アメリカの大統領と同じで14年、同じ人は2期までだ。有権者が総統候補と副総統候補のペアを選ぶ仕組み。現職の蔡英文総統は現在2期目だから、与野党いずれにしても、新しい総統が生まれる。

 

投票日は2024113日で、もう2か月を切った。それまで、なにが起こるかわからない。3回目の総統直接選挙が行われた2004年のこと。投票日前日に、立候補していた現職の総統、副総統が最後の遊説中に、銃撃された。不利が予想されていた、その現職は同情票も集まって、再選された。当選した人、落選した人の得票差は、わずか0.228%。だから、なにが起こるかわからない。

 

言えるのは、一つ。台湾はこのような民選=直接選挙を経るたびに、民主主義がさらに深く根付いていく――ということだ。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計27年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

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