障がい者の“きょうだい”に生まれて 自閉症の弟の存在を友人に隠し、進学先は県外を選択「可愛いけど恥ずかしい」「自分の運命を呪った」障がい者の兄弟姉妹の苦悩
重い自閉症と知的障がいのある弟と一緒に、アートビジネスを立ち上げた男性がいる。絵を描くのは弟。個展の開催や販売などを兄が行う。二人三脚で歩む2人だが、兄は弟の存在を長い間“隠して”いた時期があった。障がい者のきょうだいに生まれたからこそ感じる悩み、葛藤、そして気づきがある。
目次
心境の変化「弟の絵を見て涙」
太田信介さん(49)
「就職後、実家に帰ると宏介の作品があちこちに飾られていました。当時就職した会社で、売り上げや人間関係などのプレッシャーに押しつぶされそうになっていた時で、弟の作品になんか癒される…更に絵を通じて『小っちゃいこと気にしなくていいよ』と言われている気がしたんですね。それで自然と涙が出て。『弟の絵って、こういう感情を持たせる力があるんだな』と初めて気づきました。」
「弟って、画家になるんだな」と思った瞬間
弟の宏介さんは、10歳から絵画教室に通っていた。宏介さんの才能は、絵画教室の先生の目にとまり、2002年転機が訪れる。福岡市美術館で開催された「ナイーブな絵画展」で、宏介さんの作品が展示されたのだ。ルソー、ピカソ、岡本太郎、山下清といった有名画家と一緒に、宏介さんの描いた絵画2作品が並び、すぐ隣には草間彌生さんの作品が展示されていた。
太田信介さん(49)
「草間彌生さんの作品の前には人だかりが2重3重に出来ているんです。その作品の横に弟の作品が飾ってあるんですけれども、その前で「この絵いいね、素敵だね」と皆さんが仰っているのを聞いて「ああ、弟って、画家になるんだな」と思ったんですね。」
兄弟の母・愛子さんの気持ち
宏介さんの個展とともに開催される母・愛子さんの「トークショー」も人気だ。我が子の障がいが分かった時の事、絵画教室に通わせた話などをユーモアを交えて赤裸々に語る。
母 太田愛子さん(75)
「宏介は支援学校で粘土を教えてもらったんです。その手つきが凄く良くて『この子器用なんだ』って思ったんですよ。2時間でも3時間でもずーっと粘土遊びをしていたんです。実は兄の信介はとても不器用で絵も描きません(笑)。だから宏介の手先を見た時「こんなに器用なら何かできることがあるかもしれない」と絵画教室に通わせることにしました。」
宏介さんは姉と兄の信介さんに続いて、3番目に生まれた子供。愛子さんは、宏介さんにかかりきりで、ほかの2人の子に時間を割くことが出来なかったと振り返ります。
母 太田愛子さん(75)
「ごめんねって思っていました。『とにかく私は、自分の意思を伝えることすら出来ない宏介の事をやらなきゃいけないんだから、何もしてやれなくてごめんね』って、見て見ぬふり。『なんか大変やろ』とか『学校でどんな』とかそんなこと絶対聞かなかったです。『辛いことがあるだろうな。でもごめんね』って感じ。ごめんね、という言葉も言っていません。言ったら涙が出てくる。」
お兄ちゃんだから宏介にやさしくしなさい、とも言わなかった。
母 太田愛子さん(75)
「全然、言った事がないです。だって十分にそれでやってくれていて私に何を言うわけでもない、もうおつりがくるくらい十分と思っていたからですね。」
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