障がい者の“きょうだい”に生まれて　自閉症の弟の存在を友人に隠し、進学先は県外を選択「可愛いけど恥ずかしい」「自分の運命を呪った」障がい者の兄弟姉妹の苦悩

兄・信介さんも、両親や家族の誰にも、弟の障がいに関する不安や悩みを打ち明けたことはない。互いに悩んでいることが分かっていたからだ。障がいについて話すのはタブー、というのが暗黙の了解だった。母・愛子さんも、同居していた夫の母とそのような話をしたことがない。

母　太田愛子さん（７５）
「言うと愚痴になりそうだし、そういう話を引き出すのはきついなと思っていました。だって答えようがないことだから。姑に話したら『まさかこんなこととは思わなかったのよ』から始まって、思うことはたくさんあるだろうし、話したらどうなるかと思うと話せなかったんです」

厚生労働省の調査によると全国に、身体障がい者は４３６万人、知的障がい者は１０９万４０００人、精神障がい者は６１４万８０００人いる。（２０２３年版障害者白書）国民の９．２％に何らかの障がいがある計算だ。（２０２３年版障害者白書）兄弟姉妹の数は、さらに多くなると考えられる。

太田信介さんは、障がいのある人の“きょうだい”たちの役に立ちたいと、２０１７年、知人と一緒に「福岡きょうだい会」を立ち上げた。福岡市の福岡市市民福祉プラザ（ふくふくプラザ）で２か月に１回、土曜日の夕方に開催する「福岡きょうだい会」には、毎回約１０人が参加。毎回テーマを決め、ひとり一人が悩みを語り互いにアドバイスする。

“きょうだい”たちの多くが子供時代、障がいのある兄弟姉妹が原因でいじめに遭ったり、恥ずかしい思いを経験している。そしてそのことを親に相談した人は皆無だという。信介さんは“きょうだい”たちが抱える悩みや不安の中でも、最も大きいのが「結婚」と「親亡き後」だと話す。

太田信介さん（４９）
「個展に来た方から『お兄さんは結婚されているのですか』とよく聞かれるんです。どの地域でも同じだったんですよ。『自分の娘や息子が、一度も恋人をつれてきたことがない。もしかして障がい者のきょうだいがいるから難しいのでしょうか』と聞かれます。自分もそうだったのですが、悩みで一番大きいのは結婚。結婚というのはどうしても親亡き後のことが絡んでくるから、中々踏み入れないところがある。これは大きな社会問題だな、と思いました。」

信介さんは３３歳の時、理解ある伴侶を得た。信介さんの妻は「障がいのある弟の宏介さんを切り捨てるのではなく、家族皆で守っている様子を見て安心した」と結婚を決めたそうだ。しかし、きょうだい会のメンバーの中には、交際相手や配偶者の理解を得られず自ら別れを選ばざるを得なかった人も少なくないという。「自分の運命を呪った」と母に告げて号泣された、というメンバーもいる。

９年前に父が亡くなった。４年前には母の愛子さんが大病で１０か月入院した。その頃から「親亡き後」のことを家族で話し合うようになったという信介さん。将来、母が弟・宏介さんの面倒を見ることができなくなっても、弟と一緒に住むことは考えていない、と話す。

太田信介さん（４９）
「弟は支援学校の寮で洗濯やベッドメイキングなどの技術は身に着けていますし、食事の買い物もひとりでできる。幸い親が実家を残してくれているので、将来はこの家をシェアハウスのような場所にして、今までと同じ環境で絵を描き続けられるようにするのが、一番良いと思っています。“きょうだい”たちには『自分の人生だから自分らしく生きてほしいな』と思います。面倒を見たいという人はそれでいいと思いますが、自分の子どもや配偶者がどう思うのか一番に考えてほしい。きょうだいよりも優先して考えるべきだと思います。自分で何もかも責任を持たないといけないなんて思うと、生きづらさだけが残りますが、きょうだいの会をやっていると、経験豊富な先輩や専門家から「うまく社会サービスを利用して、全て自分で背負う必要はない」と教わりました。だから全てを自分だけで背負おうとは思っていないです。」

きょうだい会に集う“きょうだい”たちの事情は十人十色。中には家族の関係が悪化してしまうケースもある。次回は、母親との関係がこじれてしまったケースを伝える。