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※画像はイメージです

つばさの党選挙妨害行為は「法が想定していない」候補者の言動

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政治団体・つばさの党による選挙妨害行為は、ついに警察による家宅捜索という事態に至った。「立候補者による行為」が問題になることは異例だ。だが近年は、選挙を通じてヘイトスピーチを振りまくことへの懸念も起きている。立候補者による想定外の言動をどう考えるか、RKB神戸金史解説委員長が5月14日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説した。

激しい他候補への攻撃

14日の朝刊を見ると、政治団体・つばさの党に、公職選挙違反容疑で家宅捜索に入った記事が大きく取り上げられています。ニュース映像を見ると「取り締まったらいいじゃないか」と普通考えますよね。とは言え、いろいろ複雑な問題がここにはあります。

選挙での発言の自由は非常に重要で、読売新聞でも「選挙活動や表現の自由に配慮しつつ、現行法の運用で積極的な取り締まりを行うか、法改正にまで踏み込むかが焦点になりそうだ」と解説しています。朝日新聞には「自由妨害罪の表現はあいまいな面があるが、乱用されているわけではない。選挙活動に関する規制はできる限り抑制的であるべきで、警察の介入を容易にする法改正は必要ない」という識者の話も出ています。

候補によるヘイトスピーチも想定されていなかった

このニュースを見ながら私は、2019年の統一地方選挙を思い出しました。ヘイトスピーチを繰り広げている団体が、選挙に立候補したんです。これに対して「ヘイトスピーチをやめさせなければ」と考える人たちが事前に勉強会を開いたので、取材に行きました。

どこまでが選挙違反と見なされ、公職選挙法の自由妨害罪と捉えられてしまうか。どのくらいの音量だったらどうなるのか。どれぐらい続けたらどうなるか。いろんなことを、判例を基に勉強している様子を見ました。

正直に言うと、その方々たちはヘイトスピーチの蔓延を防ぐために、いざとなったら「逮捕されても仕方がない」という覚悟を決めていました。非常に悲痛な表情でした。もちろん、誰も逮捕なんかされたくありません。されたくないけれど、ヘイトスピーチが選挙を通じて拡散されていくこと、それが子供たちやお年寄りの耳に届いてしまうことを「何としても防がなければいけない」という顔をしていたのです(注:結果的に、逮捕者は出ていません)。

法が想定していない「候補者の言動」

憲法でも公職選挙法でも、ヘイトスピーチを行うために選挙に出てくると想定していませんし、街頭演説の形で相手候補の演説を妨害する行為も想定していません。

普通、選挙演説カーがすれ違う時は「ご健闘をお祈りします」と、形だけでも言います。昔の言葉ですが、選挙で選ばれる良い人=選良という言葉があります。公務員が「公僕」と言われるように、政治家は「選良」と言われるわけです。

選挙で選ばれるのは良い人たち。当然、立候補する人たちも基本的には社会を良くしたいと思っている良い人たちという前提で、法律は成り立っています。だからこそ、そうではない人たちが立候補してきているのであれば「法改正が要るじゃないか」という議論になるのもわかります。

一方で、「現行法でできる」という慎重な、抑制的な考え方もあります。実際に今回は、選挙後ではありますが、事件として着手したわけですから、できなくはないじゃないか。法律で決めてしまうと、いくらでも発言させないようにできてしまうかもしれない。そのおそれから「現行法で」という考え方もあります。

さらに言うと、「現行法でもできる」場合は、ピシッと決めないということでもあります。その都度、警察が判断することになります。「警察が恣意的に判断できてしまう余地が残るじゃないか」という考え方もできるわけです。

きっちり決まってないことを権力側に運用を任せることの危険性は、戦前から非常に言われてきました。昭和の治安維持法時代には、すぐに演説を中止させて拘束することが横行していました。今、日本の社会で警察がそんなことをするとは思いませんが、余地を残してしまうのではないかというのは、「現行法でもできる」と言う側の弱さではあるわけです。

警察が恣意的に動いたらどうなるか

2019年に北海道警が安倍晋三首相にヤジを言った人を排除した問題がありました。警官は「聞きたい人もいますから、別のところに行きましょうよ」と柔らかいスマイルを浮かべたまま、ゆっくりと排除していく。「どういう法的根拠に基づいているんですか」とその人が言っても、何も答えません。「ジュース買いますから、ちょっと離れて話しましょうよ」とか。

ヤジは公選法違反でも何でもなく、むしろ逆に排除が憲法違反じゃないかと裁判になり、1審・控訴審ともにヤジが「演説自体を事実上不可能にさせるものではない」という判断を示しています。この人たちは当然、拡声器は使っていません。拡声器を使って妨害していない人たちを、警察は既に排除してしまっているわけです。こういうことは、起こりうるのです。

ですから非常に難しい問題をはらんでいます。政治団体・つばさの党がやったことは許されないことだと思いますが、私たちの良識の中でこういったものを止めていくことは必要でしょう。YouTubeを使って動画が拡散することも背景にあると思うので、新しい時代にどう向かい合っていったらいいのかという問題をあらわにしている事件だと言えます。

※選挙ヘイトを巡る現実は、神戸解説委員長が監督したドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』で詳細に描かれている(U-NEXTで有料配信中)。

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。