さまざまな事情で、実の親と離れて暮らす子どもに、一軒家を提供して里親と暮らしてもらう「子どもの村福岡」(福岡市西区今津)は、虐待防止のためのショートステイ事業など、里親活動以外にも子どもの暮らしを支援する取り組みを進めています。RKB毎日放送の神戸金史解説委員長が、10月14日放送のRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』で、村が市街地に作る新たな拠点について、事務局次長に話を聞きました。
「村」の外に飛び出す
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神戸金史解説委員長(以下、神戸): この番組でたびたび取り上げてきた「子どもの村福岡」。今日はスタジオに、「SOS子どもの村JAPAN」の藤本正明事務局次長にお越しいただきました。
藤本正明事務局次長(以下、藤本): よろしくお願いします。
神戸: 「子どもの村福岡」は、福岡市西区今津に一軒家を5軒持っていて、そのうち3軒に里親さんが住み込んで子どもたちと暮らすという、かなり特殊な場所ですよね。
藤本: そうですね。日本ではあまりないと思います。
神戸: 里親さんは普通、自分の家に子どもさんに来てもらって養育に当たる形がほとんどですが、「村」に住み込むというすごく変わった暮らしをしていたので、私たちも興味を持って取材してきました。その「子どもの村福岡」が西区今津から外に飛び出す取り組みを始めようとしている、というお話をうかがいました。どういうものですか?
藤本: 福岡市西区の姪浜に新しい拠点を作ることになりました。姪浜駅から徒歩10分くらい、旧唐津街道沿いの古い町並みの生活の場に拠点を作るのですが、その意味をお話しする前に、社会的背景から少しお伝えします。
年間22万件超の虐待疑い通報
藤本: 児童虐待について、政府が統計を取り始めて30年以上が経過しています。2000年に児童虐待防止法が成立・施行されてから社会的機運が一気に高まって、「虐待かも?」となったらすぐ行政に連絡する、今はそんな状態です。統計は1回も減少することなく、直近では全国の虐待相談対応件数が年間22万件くらいになっています。行政が「虐待かもしれない」と対応しています。
神戸: 実際はもっと多いと思われる…。
藤本: かもしれません。単純に365日で割っても、1日600件以上。2~3分に1件のペースで、「ひょっとしたら虐待かもしれない」という情報が寄せられています。虐待はやはり、家庭のいろいろな事情によるものが大きいんですが、一方で共通する背景として、やはり「孤立」なんですよね。
神戸: 1人で子育てをしているという意味ですか。
藤本: はい、社会的孤立ですね。特に福岡市は典型的な事例なのですが、結婚や就職、転勤を機に移り住んで来る方がたくさんいらっしゃるので、身近に知り合いがいないまま、子育てをすることになるわけです。子育てって、いいこともたくさんあるのですが、困る瞬間も誰にでもありますよね。助けが欲しい時に、核家族だと頼る人が誰もいない状態になってしまうのです。子育て自体の困りごとが、家族の中にとどまってしまう現象が起きるんです。
神戸: なるほど。
藤本: 身近に頼れる人がいれば困りごとは小さいうちに解消できるのですが、なかなかそうならない方がいて、その1つの現象として児童虐待があるのかな、と思うのです。
神戸: 「子どもの村」では里親事業のほかに、ショートステイ事業といって、一時的にちょっと困ったお母さんがお子さんを預ける、という取り組みもしてきましたね。
藤本: 「子どもの村」はもともと、「親元を離れて暮らすお子さんを家庭的環境で育てよう」というのが取り組みの趣旨だったのですが、やはり親子が離れ離れにならない方がいいので、孤立を防ぐためにどういった取り組みができるのか。こちらで相談を受けたり、逆に地域に出向いて相談を受けたり、育児疲れを背景として「ちょっと子どもを預けたい」という方の受け入れ先になってみたり。あとは、社会的孤立が最も典型的に出やすいヤングケアラーの相談窓口にもなっています。
神戸: 「村」では里親活動だけじゃなく、専門の知識を持ったスタッフがそういう事業に取り組んできたわけですよね。
藤本: はい。そういった孤立現象を、どうやったら解消できるのかということで、新拠点建設の着想に至ったということなんです。
神戸: もっと人が集まりやすい街中に出て、取り組みをしようということですね。
ショートステイは緊急避難
藤本: 相談は事前に電話で予約が必要なのですが、土日はひどい時には2か月待ちになっています。相談したいと思ってもすぐ相談できない状況が続いているので、それを解消するために、地域のこども食堂や子育てサロンに相談員が出向いて、自然にお母さんと出会うような形で相談をお受けする取り組みをしています。建物に来ていただくだけではなく、地域に出向いていって子育ての悩み事になるべく早めに触れられる仕組みを作ろう、と。
神戸: 来てもらうだけじゃなくて、相談員の皆さんが逆に町中にすぐ出ていくための拠点でもあるわけなんですね。
神戸: 「子どもの村」を取材してすごく印象的だったのは、子どもを一時預けたいとショートステイを利用するお母さんたちの多くは、理由を「ちょっと体調が悪い」とか、いろいろなことを挙げるけれど、本当は子育てに悩んでいて、表面的な理由とは違うということ。本心を言えなくて、別の形で相談してくる。でも、一時的でも預けられたらSOSを受け入れてくれたことになり、立ち直るケースが多いという話を聞いて、「なるほどな」と思ったのです。ニーズは本当にありますね。
藤本: かつては、ご近所の方との付き合いの中で預け合ったりして悩みが解消されたこともあったと思うんです。でも今、なかなかそういうことがしづらい。地域との関係性をもう1回作ろうと思った時、例えば公的な仕組みを使ってしっかり安定したものに制度を作り上げていって、その後に任意で預け合ったり助け合ったりという雰囲気が生まれてきたら、よりよいことなのかな、と。
神戸:人と人の付き合いって都会では少ないのはやはりあるかな。
田畑竜介アナウンサー(以下、田畑): 旧唐津街道沿いには、昔の旧家も残っていて、雰囲気がとてもいい場所ですよね。
藤本: 歴史のある街の中に造ることの意味もあるな、という風に思います。
5階建てビルを建築へ

藤本: 姪浜の新しい拠点では、私たちが行っている5つの家族支援事業を1つの建物の中に集約する形で立ち上げようとしています。そこには「相談機能」があったり、「子どもの居場所」があったり、私たち自身が出向いていって相談をしたり、ヤングケアラーの当事者が集まれる場所にしてみたり。
神戸: ヤングケアラーは孤立してしまうケースが多いから、すでに支援されていますね。
藤本: その建物に来れば、困りごとが解消するかもしれない。ワンストップサービスを少し目指した建物になります。一方で、「相談する」ということは、誰にとっても結構心理的ハードルが高いんです。自分の負の部分を認めて、それを相手に話すという行為なので。そういう意味で、相談すること自体が当たり前になっていくための象徴的な建物になっていけばいいと思っています。
神戸: 建物はビルですか?
藤本: はい、5階建てで、屋上があります。土地の広さは40坪しかなく、5階まで高くせざるを得なかったのが実情ですね。
田畑: 姪浜となると、広い土地は難しいかもしれませんね。けっこうな費用がかかるだろうと思うんですが。
藤本: 運営資金自体は、福岡市から事業を受託することでそれぞれの相談機能が賄われているので、ランニングコスト的にはそんなに負担感がない面もあります。ただ一方で、新たな拠点を作るときは、自前で作らなければいけません。建設代金の8割を日本財団が助成すると採択してくれたことが大きな後押しになりました。
神戸: とはいえでも自己負担も多いということですね。
藤本: 8割といっても、約1年前に採択された当時の割合で、その後は資材の高騰があったものですから。
神戸: どこもそれで困っているみたいですね。
藤本: 残り2割と資材高騰分も含め、自己資金で賄えるところは何とか捻出しよう、と思っているんですが、やはりどうしても足りません。クラウドファンディングを立ち上げるのと同時に、私たち職員が1社1社アポイントを取ってお願いに上がることもずっと続けています。

田畑: クラウドファンディングには、どうやったらたどり着けるのですか?
藤本: READYFORという運営会社で10月6日にスタートしました。金額は2,000万円という大きな額です。12月26日までです。
藤本: 正式には「多機能都市型児童家庭支援センター建設事業」。あまりにも呼びづらいので、「まちのあかりプロジェクト」という名前を付けました。姪浜は漁港も近く灯台があり、私たち自身も明かりみたいな頼れる存在になれればいいな、と。
神戸: 着工はいつからですか?
藤本: 年内にできたらいいかなと。
神戸: 悩んでる人がいっぱいいますから、受け皿になる場所が必要ですね。
「まちのあかりプロジェクト」クラウドファンディング(外部サイト)
https://readyfor.jp/projects/sosjapan2025

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この記事を書いたひと

神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。






















