福岡アジア美術館開館25周年!展覧会「アジアン・ポップ」とは
福岡アジア美術館で開催中の展覧会「アジアン・ポップ」。アート初心者の方には入門編として楽しめるうえに「アート」の奥行きにも触れられるだけでなく、玄人の方にもしっかり満足してもらえる面白い展示になっていると、RKBラジオ「田畑竜介GrooooowUp」に出演したクリエイティブプロデューサーの三好剛平さんが語った。
●福岡アジア美術館のコレクションにおける特徴
まず本展の正式名称は「開館25周年記念コレクション展」と銘打たれている通り、アジア美術館に収蔵されているコレクション作品の数々に光を当てていく展覧会です。担当学芸員さんにお話を聞いたところ、今回のコレクション展を準備するにあたっては、まずはじめに、他所の美術館とは異なる「アジア美術館ならでは」のコレクションの魅力がどこにあるのか、今一度考えてみるところからスタートしたそうです。
福岡アジア美術館は、アジアの近現代美術を専門に収集・保存することを使命とした世界で唯一の専門館とも言われていますが、開館の99年当時はまだアート業界においてもアジアの現代美術の価値は十分に評定されていなかった時期でもあり、彼らの収集活動は未開の地に自分たちで道をつくっていくような、かなり先駆的な取り組みでした。
そうやって繰り返しアジア各国の現地を訪れ、リサーチを続けるなかで、彼らはあることに気づいていきます。それは、アジア各国ではどこも、アートの業界で既に価値が認められている「ファインアート」の領域にある作品群とは別に、まだ「ファインアート」としては認定されていないが市民の暮らしに深く浸透している「民俗芸術」や「大衆美術」がとても豊かに根付いている、ということでした。「民俗芸術」とは土地ごとの信仰や習俗から生まれた表現、そして「大衆芸術」とは地元で流通している広告や娯楽における表現、そして「美術家」ではない現地の人々がアートのつもりもなく生み出した結果、卓越した技術やメッセージを備えてしまっているような、独自の表現の数々でした。
当時のアジア美術館の人々は当初収集に向かった「ファインアート」とこうした「民俗芸術」や「大衆美術」の間に強い影響関係があること、そしてこのまだ価値化されていない「民俗芸術」や「大衆美術」にも看過できない芸術性があることを引き受け、なんとこの民俗芸術・大衆美術もコレクションしていく、という方針を打ち立て、現在彼らのコレクションの多くがこうした作品群によって占めているそうです。
以上から、今回の展覧会はアジ美のコレクションの特徴のひとつである「大衆美術」にフォーカスしていくと決めた学芸員さんは、次にそれをどのようなテーマで構成すれば、いま・この街で生きる観客にも届く展覧会として編み上げられるかと考えた結果、ついに導かれたのが「ポップアート」という切り口でした。
●「ポップアート」と「アジアン・ポップ」
「ポップアート」は1950年代から60年代にかけて、イギリスやアメリカで隆盛しその後世界に広がった美術動向です。「ポップアート」と聞けば、アンディ・ウォーホルのマリリンモンローやトマト缶の作品などは誰もが連想されるものだと思います。「ポップアート」とは、大量消費社会が生み出した商業広告や、「ファインアート以外」が生み出したイメージをアート表現に取り込み、現代や社会を皮肉も込めながら見せていくアート表現です。
今回、その「ポップアート」の切り口をアジア美術館のコレクションに重ねてピックアップされた作品群で構成されるのが、今回の「アジアン・ポップ」展です。展示作品はどれも一見明るく華やかですが、社会や時代を鋭く突く皮肉や風刺を効かせたものが多く、いずれも楽しく鑑賞しながらもその後にまでずっと考えさせられるような作品がたくさん揃っています。
また、この展覧会のお話をお聞きする中で、学芸員さんが今回の展示には「今をたくましく生き抜くためのヒントが詰まっている」と仰った点も少しご紹介しておきたいと思います。というのは、展示作品が制作された当時どのアジアの国においても、時の政権批判や、国の情勢に対する違和感を作品によって表明することは、ともすれば逮捕・収監や表現活動の停止など、その後の作家人生にかなり大きなリスクを伴う行為でした。しかし、それを表明しないわけにはいかないとき、作家たちが選んだのが「ポップアート」的な表現だったというのです。何故ならそこには、あらかじめ作品に参照する「ポップな」表現の数々は広告を通じて既に民間に流通しているおかげで、その作品への解釈や考察は市民側で引き受けられる、記号的表現の宝庫だった、というわけです。それと言わずとも、そう理解される。その効果によって、作品にメッセージをその通りに描き込まずとも、あるいは「その通り描かない」でいることで一層、強いメッセージ性を帯びた表現が実現できていたりする。決して容易ではない社会的状況のなかで、そうした作家一人ひとりの葛藤や意志を見届けられるのも、この展覧会の特徴かもしれません。
●作品を見てみる
さてここで、せっかくですからそんな「アジアン・ポップ」が堪能できる作品を1作品だけでも見てみましょう。本展のポスターにも使われているこの絵ですが、実はこのメインの絵の横に2つの写真が添えられた3つのピースで成り立つ作品となっています。お二人はこれどんな作品だと思いますか?
この作品は台湾の作家であるメイ・ディンイーが制作「トロツキーに捧ぐ」という作品です。
中心の赤い背景に白黒で描かれたのは、あの有名なフライドチキンチェーンの創業者であるカーネル・サンダースに見えますが、その顔にもうひとり、ロシアの革命家であるトロツキーの顔が組み合わされた二重の「肖像画」になっています。そしてその絵の左右に添えられた写真は、どちらもそのフライドチキンチェーンが中国に第1店目を出店した際の写真です。片方は、第1店舗が北京の天安門すぐそばに出店された際、それが天安門から風水学的に良い場所に出店されたことを示す写真。そしてもうひとつは、店内の窓から見た風景の先に何が見えていたかを示す写真になっています。
これらを組み合わせて見ると、当時の中国の共産主義政治と、欧米からやってくる資本主義が何重にも混濁して結びついてしまっていることを示す作品であることがわかってきます。共産主義を連想させる赤い背景は、奇しくもあの会社のテーマカラーと同じであり、僕らはこの一枚を見るだけで「欧米の資本主義の記号」として即座にあの会社を連想することができる。しかしそれを直接言わないでいることで、無数の考察や「問い」を呼び込む装置になっている、というわけです。面白いですね。
こんな調子で素敵な作品がたくさん紹介されている「アジアン・ポップ」展ですが、これ以外にも、僕らが普段何気なく広告や娯楽を通じて無自覚に浴びているメッセージにはどんなものが込められていて/またどれだけ周到に「見えないように隠されている」かに気付かされるような作品もあり、皆さんの今後の日常生活をも“面白く”してくれるビビッドな視点が得られる展示になっています。みなさんも9月3日までの会期中にはぜひ、足を運んでみてください。
●三好剛平さん登壇のイベントも!
そして、今週末5/25(土)の夕方17時からは、美術館7階で参加無料の「アジアン・ポップ☆ナイト」というスペシャルイベントも企画されています。
当日は会場にアーティストの下寺孝典さんらが出店する「アジア屋台」のスペシャルメニューが楽しめたり、「アジアン・ポップ」展に出店されているアート作品と深い関わりを持つ、1975年のインドの伝説的国民映画「炎 Sholay」という映画について、インド圏の映画に詳しい評論家・バフィ吉川さんをゲストにお迎えした解説トークなども企画されています。この解説トークには三好も僭越ながら一緒に登壇しますので、ご興味ある方は展覧会の鑑賞とともに、ぜひ遊びにいらしてみてください。
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