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クリエイティブプロデューサーの三好剛平さん

劇場で見るべき!フランス映画「バティモン5 望まれざる者」

フランス映画『バティモン5 望まれざる者』。前作で長編映画デビューすると同時に世界の映画賞を総ナメにしたラジ・リ監督の長編2作目にして大傑作。間違いなく今年の年間TOP10入り確定の太鼓判を押したい素晴らしい作品だと、RKBラジオ「田畑竜介GrooooowUp」に出演したクリエイティブプロデューサーの三好剛平さんは語った。

 

●ラジ・リ監督とモンフェルメイユ

まずこの監督のご紹介から。ラジ・リという珍しい名前のこの監督は西アフリカのマリで生まれ3歳のときに両親とともにフランスへ移住、パリ郊外のモンフェルメイユという街の団地で暮らしてきました。

2005年に、2人のアフリカ系少年が警察からの逃亡中に変電施設で感電死したパリ郊外暴動事件に衝撃を受け、暴動のようすをビデオに記録しドキュメンタリー映画とした『クリシー=モンフェルメイユの365日』を2007年に発表。その後2017年には短編映画『Les Misérables』を発表し、その2年後の2019年に同じタイトルの長編映画として『レ・ミゼラブル』を発表。

これ、「レ・ミゼラブル」といってもあのジャン・バルジャンやコゼットが出てくるヴィクトル・ユーゴーの「ああ無情」の物語ではなく、彼の地元であるモンフェルメイユを舞台に、警官に黒人少年が怪我を負わされた様子を別の少年がドローンカメラで捉えてしまったことから街を巻き込んだ一代暴動に発展していくようす(つまり限りなく監督自身の物語でもある)を描きました。ちなみに、ユーゴーの「レミゼ」とは違うと言いましたが、実はこのモンフェルメイユはユーゴーの「レミゼ」の舞台のひとつとなった街でもあるうえに、「ミゼラブル=哀れなる」社会底辺に追いやられた人々の物語であるという意味では、現代の「レ・ミゼラブル」でもあると言えるものでもあったのでした。

この作品がカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、以降もフランスのアカデミー賞と言われるセザール賞で最高賞を含む四冠、そして米国アカデミー賞においても外国語映画賞にノミネートされるなど、長編デビュー作にも関わらず一気に国際的な映画監督に上り詰めます。

そして長編2作目として発表されるのが、今回ご紹介する『バティモン5 望まれざる者』という作品です。まずこの聞き慣れない「バティモン bâtiment」という言葉ですが、これはフランス語で「建物」を意味していて、タイトルをそのまま日本語に訳したら「5号棟」というような意味になります。

また「望まれざる者」と副題がついているのは前作の「Les misérables(レ・ミゼラブル/ 哀れなる者)」からのシリーズタイトルとして本作を当初「les indésirable(レ・ザンデジラブル/望まれざる者)」というものを想定していた背景によるもので、実は監督は次作も含めた3本の映画でここ30年で郊外で起きたことを描きとっていく「郊外三部作」としていく構想があるとのことです。

 

●5号棟で起きたこと

さてここから作品の中身について触れていきたいと思いますが、いつものごとくお二人に質問です。

あなたは家族とともに安心して過ごせる家を求めて、ついに分譲住宅を購入しました。20年以上も時間をかけて高い金利のローンを払い続け、ようやく自分のものになった、家族の思い出が詰まったその住宅が、突然取り壊すので今すぐ立ち退いてください、と言われたらどう感じますか?

田畑:「なんでだ!なんでだ!」と言って反対しますよ。

田中:そりゃないよ~ってなりますよね。

三好:そうですよね。本作のあらすじはこうなっています。

いくつもの団地が立ち並ぶパリ郊外。労働者階級の移民家族が数多く暮らしているこのエリア=バティモン5には、老朽化が進んだ団地を取り壊していく再開発計画が進められていた。前市長が急逝したことで、突如臨時市長となった小児科医のピエールは、汚職を追及されていた前任とは異なり、クリーンな政治活動を行う若き白人政治家として担ぎ上げられ、自身も居住棟エリアの復興と治安改善を政策にかかげ理想に燃えていた。

一方、バティモン5の住人で移民たちのケアスタッフとして働く黒人女性アビーは、住民たちが抱える問題に向き合いながら、強硬な再開発を進めようとする市議会に憤り、民衆とともに抗議活動を牽引していく。

バティモン5の治安改善のために市民の一人ひとりの暮らしを度外視した強行策へ傾いていく市長ピエールと、理不尽に追い込まれる住民たちを先導するアビー。その両者間の均衡は崩れ去り、いよいよ5号棟を舞台にした激しい抗争へと発展していく――。

映画に登場する、突然立ち退きを強要された5号棟のエピソードをはじめ、物語に登場するすべての人物とそのセリフは、監督自身が実際に出会い・経験してきたものをベースにしています。もともとドキュメンタリー映画出身でもある監督のそうした手腕もあって、映画はどのシーンも「この場面には見覚えがある」「これはフランス郊外の話なはずなのに、私たちの街で起きていることとまったく同じだ」と感じさせられる場面に満ちています。

さらにこの映画は、市議会と民衆、そのどちらも単純化することなく真摯な視線から一人ひとりの登場人物とその行動原理を見つめ続けます。誰もが大きな状況に巻き込まれるようにしてみるみる状況が進行していき、ついにその導火線が発火するようにして始まってしまう悲劇。しかしこの映画はその悲劇をただ見せつけ悲嘆に暮れるのではなく、あくまでその悲惨な状況、この腐った世界においてなお、そこに残された変革の可能性に賭けるような姿勢もあり、ぜひこの点も見逃さずにいてほしい点です。本当に素晴らしいのです。

 

●ラジ・リ監督の映画作り

最後に。監督は自身の地元であるモンフェルメイユで、恵まれない若者に無償で映画作りを教える映画学校を2018年にスタートし、今ではマルセイユやセネガルなどでも展開する活動に発展していると言います。ご自身も独学で映画を学んできた監督自身が、裕福なエリート層が多い映画業界のなかで、当時の自分のようにお金も人脈もコネもない人々にも学びの機会をひらき、民主化することで、そういう人たちだからこそ語り得る物語、映画が生まれる土壌を育むような活動です。

監督自身は自身の映画作りについて「郊外を取り巻く状況がどれほど壊滅的だとしても、良くなると信じることをやめてはならない。それには闘い続けることが必要だ」と語っている通り、ラジ・リ監督はその活動ひとつひとつには確たる意志が一貫しています。本作の公開を機に、インターネットでは日本語で読める監督のインタビュー記事も多数公開されているので、ぜひ映画と一緒にご覧いただけたらと思います。

映画「バティモン5 望まれざる者」はKBCシネマほか、ユナイテッドシネマなかま16、ユナイテッドシネマトリアス久山で5/24より現在公開中です。僕はこの映画、何としてでももう1回劇場で見たいと思っているくらい本当にオススメ出来る一本です。公開期間それほど長くないかもしれないので、どうかお早めに、ぜひ劇場で、ご覧ください!

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