電気料金が4割上がる!?九州電力“大幅値上げ”のからくりを解説
大手電力会社10社で、2024年7月請求分から電気料金が値上がりする。なかでも九州電力は1年前の6月に比べて、43.8%の値上げになる見通しで、利用者の間で驚きの声が上がっている。日経BP「日経エネルギーNext」編集長の山根小雪さんが5月29日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説した。
なぜ九州電力の値上げ率は高いのか?
値上げの原因として一番大きいのは、今年5月末に補助金が終わることです。1年前の九州電力の6月の電気料金は、標準家庭(4人世帯)で5,251円だったんです。それが7月は試算で7,551円に上がるということで、これらを比較すると約43%、2300円ぐらいのアップということになります。ちなみに今年4月は6,676円、去年6月に比べると13%アップです。つまり今ある補助金は30%分に該当するということです。
九州電力の利用者が驚いたのは、テレビの情報番組などで大手電力10社の料金プランを並べて、値上がり幅で順位付けをしたからでしょう。そのランキングによると、関西電力と九州電力の値上がり率が40%超。「なんでーっ!」って叫んだかもしれません。でも、そもそも去年6月の九州電力の電気料金は、めちゃくちゃ安かったんです。
絶対額で比較すると、今回の値上げ後の試算を見ても九州電力の7,551円というのはすごく安いんですよ。沖縄電力は9,663円、北海道電力は9,523円、よく話題になる東京電力と比べても8,930円で、九州電力よりも1,500円高いんです。「値上がり率」で見ると、もともとが安い分、補助金がなくなったインパクトがより大きく効いて、割合として大きくなってしまったということ。
つまるところ九州電力の電気料金は、今なお全国10社の大手電力の中でトップクラスに安いっていうことです。
複雑な料金体系が生まれた背景
ところで、電気代の料金体系ってややこしくないですか? せっかくなのでこれを機に複雑な料金体系についても説明します。先ほどの値上がり幅は「規制料金」と呼んでいる料金体系で比較しています。電気料金には規制料金と自由料金にまず分かれます。
大手電力会社は長い間、それぞれのエリアで独占企業でした。戦前までは電力会社がたくさんありましたが、終戦後にGHQが入ってきて、戦後復興を効率よく、しかもGHQがコントロールしやすくするために、日本を10のエリアに分けて、各エリアに大きな電力会社を1社だけという形に再編したんです。
そうすることによって、戦争で焼け野原となった国土に発電所から送電線、電柱や鉄塔といった設備を効率よく作れました。ライバル競争がないから、電力会社は心配せずに設備投資ができ、確実に電気料金で投資した分を回収できました。地域独占になったのは、そういう理由です。
もう一つ、総括原価方式といって、かかったコストは全部電気料金で確実に回収できる制度があります。電力会社は民間企業ですが、設備を安心して作れる環境としてこの制度ができました。戦後復興から高度経済成長期の間は「電気があれば、GDPが伸びる」と言われました。常に電気が足りなかったんです。「電気があれば工場が作れる」「電気があれば、家電製品が増やせる」みたいに、電力=国力みたいな感じだったんです。発電所を造れば造るほど、日本経済は伸びるという時代でした。
ところが、高度経済成長も終わって「失われた30年」になってくると、もっと効率よく経営し、競争して電気料金が下がった方が国民のためになるのではないか、という議論が起きました。さらに福島第一原発事故もあって、2016年に電力は自由化されます。今は九州に住んでいても、九州電力以外からでも電気を買えるようになりました。
とはいえ、現状は「規制なき独占」。新規参入できるようになったとはいえ、今でも九州で約8割の家庭が九州電力を使い続けています。電力会社を切り替えるって、契約とか面倒じゃないですか。だから、今も規制料金というものがあって、国が審査をしています。電力会社が値上げを申請するたびに、適正かどうかを国が確認しています。そのチェックを経て、去年6月に規制料金が値上げされました。
ところがそのとき、九州電力は値上げしなかったんです。10社中7社が値上げしましたが、差が出た理由は火力発電です。特に東京電力は福島第1・第2原発が廃炉となり、柏崎原発も動いてないので火力発電の割合が高くなっています。ロシアがウクライナに侵攻して天然ガスや石炭の値段が上がって「コストが大変です、値上げさせてください」ということになりました。
その点、九州電力は原発が稼働しているうえ、太陽光発電設備も数多くあります。きょう(5月29日)のような快晴の日はものすごい量の発電をしています。だから値上げしないで済みました。規制料金に関しては既に去年6月の段階で電力各社でかなり差がついてます。自由化によって新しい料金プランがいくつもできましたが、比較しやすい規制料金を用いて電気代が上がったか下がったを報道しているんです。
時代に合った新たな料金プランも
電気料金の値上げにはどんな対策ができるでしょうか? 九州電力のほかのプランを選択することもできます。ほかに、携帯電話を契約している人であれば、その携帯電話会社が出しているセットのプランもあります。新電力であれば楽天などを選ぶこともできるし、ケーブルテレビ会社やガス会社のセットプランを選ぶこともできます。そうやって自衛する方法もあるので、調べてみる手はあると思います。
あと九州電力の場合、もうひとつ新しくて面白いプランがあるんです。「おひさま昼トクプラン」というもので、今年2月に九州電力が発表しました。先ほど言ったとおり九州では太陽光発電で電気が余っています。火力発電は昼間止めて、太陽光と原発でほぼまかなっている状態。それでも余っています。
だから、出力制御といって、太陽光発電を止めるようにしています。需給バランスが合わないと停電するからですが、それってもったいなくないですか? これまでは夜の方が電気代は安く設定されてきました。夜余る電気を使ってほしいから、より安くしてきたわけです。今は時代が変わって、昼の方が安いんです。
おひさま昼トクプランは10時から16時の電気代が安いんです。例えば洗濯乾燥機を予約で動かすとか、オール電化の家庭にあるエコキュート(給湯器)はこれからは夜間ではなく昼間に沸かすようにしてください。規制料金の半額ぐらいです。その代わり、火力発電を動かさなければならない時間帯は高く設定されてます。すごく時代に合った料金プランなんです。
そうすると太陽光発電の電気を捨てないで済むし、火力発電で使う石炭や天然ガスの量が減ればCO2の排出量も減ります。しかも、太陽光発電は設備さえあれば、もうお金は要りません。燃料を入れることなく、ただ置いておくだけで、使えば使うほどお得な設備なんですよ。
普段なかなか電気のことを考える機会はないので、こうした値上げのニュースがあるときに、どうなっているのかを見直してみるのもいいと思います。
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