「めちゃコミ」米ファンドが買収…電子コミックの現状と未来を解説
アメリカの投資ファンド・ブラックストーンが、漫画配信サイト「めちゃコミック(めちゃコミ)」を運営するインフォコムを買収すると発表した。日経BP「日経エネルギーNext」の山根小雪編集長が6月19日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、電子コミック・漫画配信サイトの市場規模や見通しについて解説した。
電子コミックの老舗をファンドが買収
アメリカの投資会社のブラックストーンが「めちゃコミ」を運営するインフォコムを、2750億円で買収するというニュースが飛び込んできました。きょうは子供の頃から漫画ばかり読んで大きくなった私が、漫画配信サイトについて解説したいと思います。
「めちゃコミ」は会員数2100万人といわれている、会員日本で7番手の漫画配信サイトです。電子コミックはかなり激しい競争領域で、上には韓国の「LINEマンガ」それから「ピッコマ」、これらがツートップです。ほかにもAmazonの「Kindleストア」「楽天Kobo」それから「コミックシーモア」といったプラットフォーマーもあります。
加えて、集英社「少年ジャンプ+」、講談社「マガポケ」、小学館「マンガワン」といった、大手出版社で作品をたくさん持っているところは自社コンテンツで配信をしています。
「めちゃコミ」って実は結構な老舗なんです。もともとガラケー向けに着メロを配信していた会社が、ガラケーでひとコマずつ読める漫画として2006年に「めちゃコミ」を始めています。いまでは考えられないかもしれませんよね、ガラケーで漫画を読んでいたなんて。
そこから右肩上がりで成長していて、直近の決算によると売上高は575億円。運営会社インフォコムの売り上げの7割を「めちゃコミ」が占めています。今回、ブラックストーンが買収したのはほぼ「めちゃコミ」が目的と言っていいでしょう。
ところで、結構意外だと思われるのが、インフォコムって帝人の子会社なんですよ。繊維業界の帝人が、社内システムをオペレーションするための情報システム子会社として作ったんです。そのインフォコム、自分たちで何とか売り上げを作ろうと思ってガンガンやっていたら、「めちゃコミ」でめちゃでかい会社になったということです。ここまでになると、さすがに本業との相乗効果がなかなか得られない状況。さらに、今すごく伸び盛りだから「ここで売却しよう」ということになったわけです。
世界三大ファンドが着目した電子コミック業界
一方、買収したブラックストーンですが、昔「ハゲタカ」と言われていたような、いわゆるプライベートエクイティファンドなんですよ。世界三大プライベートエクイティファンドのうちの一つで、機関投資家や個人投資家など、いろんな人たちからお金を集めて、未上場の会社に投資しています。
そして、その会社の経営に入っていって、いろんなことやって企業価値を高めたうえで、株式上場させたり売却したりして利益を得る、というタイプのファンドなんです。彼らはウォルト・ディズニーの元の経営陣が作ったキャンドルメディアという、アメリカのコンテンツ会社も持っています。
今回の買収も、海外で漫画のコンテンツをもっと広げたり、グッズ販売やアニメ化をやって事業を大きくしようと思っているようです。まさに「めちゃコミ」はそれにうってつけの事業だったわけです。
先ほど、未上場の会社に投資すると言いましたが、今回はTOB(株式公開買い付け)をした後、帝人が持っているインフォコムの株を買い取って上場廃止にするパターンです。株式市場に見えない状態にして、いろんなことをやって、成長させてから売却したり、あるいは上場させて利益を取るか、ということなんです。
漫画市場は過去最高を更新中
世界三大プライベートエクイティファンドのブラックストーンが興味を持つぐらい「めちゃコミ」の価値が高いということなんですが、ここで国内漫画市場を見てみましょう。実は私、冒頭で名前を挙げた漫画配信サイトはほぼ全部登録しています。ちょっとしたスキマ時間に最初は「1日1話無料」でも、その続きが読みたいから、気づいたら課金してしまっています。
私のような人が多いから、漫画市場自体が今、過去最高を更新中なんです。約7000億円の規模があります。かつて「週刊少年ジャンプ」の全盛期がといわれていたのが1995年。それが紙で読む漫画のピークで、そこから規模縮小が続いて、2017年に底を打ちました。
その後、電子コミックが伸びていくんですが、そのきっかけは何だと思いますか? 答えは「漫画村の閉鎖」なんです。海賊版の無料で見られるサイトがあって、出版社がやっとの思いで閉鎖させたんですが、その漫画村のおかげで、人々がスマホで漫画を読むようになっていました。
漫画村が閉じた途端、有料サービスたちが跋扈するようになり、2018年からワーッと伸び始めて2020年、コロナで巣ごもり需要がきて、さらに特需。雑誌のコミック誌はこの20年で5分の1ぐらいまで縮小していて、コミック本は横ばい。でも、それを余りあるぐらい電子コミックが伸びていて市場は過去最高です。
私が所属する出版業界も近い状況で、電子コミック一人勝ちなんですよ。紙の書籍は横ばい、紙のコミックも横ばい、何が減っているかといえば、私の故郷である紙の雑誌はもう見るも無残。弊社(日経BP社)も「紙の雑誌は延命はしない、デジタルでやっていこう」って感じです。
韓国発のウェブトゥーンが潮流に
ブラックストーンはこれから世界に「めちゃコミ」を持っていこうとしているということを考えると、世界のコミック市場はどうなっているのか。漫画の世界では、日本がメジャーリーグです。日本が大体、世界の漫画市場の3分の1を占めています。
でも、北米のコミック市場は紙も含めて、この5年で売上高が4倍に伸びています。中国でもものすごく伸びていて、これから世界市場は伸びていくだろうというふうに言われてます。そこでどうやって日本のコンテンツ制作者を増やしていくかが課題です。
そんな中、気になるのは韓国勢。韓国のウェブ漫画をドラマ化するケースも多く、韓国のチマチョゴリを着ているのに日本人の名前に変えた少女漫画もいっぱあります。
漫画アプリは「LINEマンガ」と「ピッコマ」の2強ですが、「めちゃコミ」は実はアプリが弱く、ウェブに誘導しているんです。それは、アップル社などアプリストアに払うお金を抑えて売上高を伸ばすために、アプリよりもウェブに誘導してきたからです。でもそれが裏目に出てしまって、若い世代はアプリで漫画を読むので「LINEマンガ」と「ピッコマ」が席巻しています。
その「LINEマンガ」や「ピッコマ」で課金されているコンテンツはどういうものかというと、韓国で作っているオリジナルコンテンツが売り上げの9割ぐらい占めているようなんです。推定データではありますが、心当たりはありますよね。私も「あれも韓国だな、これも韓国だな」と思いながら見ています。全面カラー、さらにウェブトゥーンといって、縦にスクロールするように読むんですよ。
韓国発できて、日本の漫画家たちも「ウェブトゥーンやらなきゃ」って言って始めていますが、まだまだ韓国の勢いがすごいです。でも韓国勢にしてみると、韓国の漫画市場はあまり大きくないので、日本市場が主戦場。なので、日本を足がかりにして韓国勢はきっとこれから世界に出ていくでしょうね。
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