PageTopButton

松尾潔・日本版DBS法成立に「加害者の治療も同時に推し進めることが必要」

Spotifyで聴く

6月19日、子供に接する仕事に就く人に性犯罪歴がないかどうかを確認する制度「日本版DBS」創設を盛り込んだ「こども性暴力防止法」が成立した。旧ジャニーズ事務所の性加害問題について提言を重ねてきた、音楽プロデューサーの松尾潔さんが6月24日に出演したRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』で、「加害者への治療も同時に推し進めることが必要」と語った。

犯罪歴のある人物を教育や保育から遠ざける法律

6月19日に国会で日本版DBSを創設する法律が成立しました。ただ、同じタイミングで政治資金規正法の改正案が通ったり、都知事選がスタートしたりで、どうしても日本版DBSがテレビニュースや新聞紙面に割かれた割合は乏しいような印象もあります。

DBSはもともと、2012年にイギリスで制定されたものです。Disclosure and Barring Service(ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス)といい、ディスクロージャーは「情報開示」と訳されますが、この場合は性犯罪歴などの前歴を開示するという意味です。

また、Barring(バーリング)の動詞のBarは「檻に閉じ込める」などの意味で、「前歴者就業制限」つまりは性犯罪の、特に小児性愛の前歴のある人たちを、教育や保育の現場から遠ざけるための規制を設けるということです。

ベビーシッターによる性暴力事件で導入の声高まる

もう少し詳しく解説すると、18歳未満の子供を対象に1日2時間以上接する仕事を希望する人は、基準に触れる犯罪、犯歴がないという証明を取得して、就職を希望する先に提出することになります。こういう規制が今に至るまで無かったということ自体、子供の人権が守られてこなかったんだと感じています。

日本でこの制度の導入を求める声がにわかに高まりを見せたのは、2020年にベビーシッターの仲介サービスに登録し派遣されていた2人の男性シッターが、保育中の子供への強制わいせつ容疑で相次いで逮捕されたことがきっかけです。2人のうちの1人は、20人の男児に性暴力・性犯罪を繰り返していたと言われています。

学校や保育園というのは、親にとっては子供を預ける先として「最も安全である」という信頼のもとに、長い時間をそこに託しているわけですが、そこで指導者の立場にある人が、よからぬ心持ちとか、そういう行動の癖があったりすると思うと、親の立場としてゾッとしてしまいます。

法律の成立と両輪で加害者への治療の推進も

犯罪を未然に防ぐために、登録・確認する制度ですが、犯歴は最長20年前までさかのぼるとされています。拘禁刑で実刑を受けている場合は、執行が終了して20年、執行猶予の場合は裁判の確定日から10年、罰金刑の場合も刑の執行終了から10年というように段階があります。

では20年と1日が過ぎていたら、その人は野に放たれるのかという不安も当然湧きますし、20年とか10年という数字にどういう根拠があるんだろうという話にもなりますよね。

ですから法律を成立させたからといって、それで終わりではなく、国全体で性加害を繰り返す人の治療を推し進めていくということが必要になってきます。

性加害の要因は複雑です。もちろん加害者を擁護するようなことを言うつもりは一切ありませんが、性犯罪に限らず、何かの過ちを犯してしまう人は、幼少期にトラウマとなるような経験をしていたり、家庭の影響があって、それらが複合的な要因として絡み合ったりしていることが多いのです。これは社会全体で取り組まないといけないということになります。

完璧な法律が出来たわけではないという意識を持つべき

福岡県には性暴力根絶条例というものがあり、4年前から性暴力の加害者を対象とした相談窓口ができています。「痴漢や盗撮をやめたいけれどやめられない」という人たちに対応するもので、この4年間で340人から相談があったそうです。

そういった、加害者側のケアを同時に行っていかなければ、この日本版DBSの効力は十分に発揮されないんじゃないかと思います。また、対象となる範囲も学校や保育園・幼稚園などで義務化ということですが、そこから民間は漏れています。大手の塾や学童サービスは取り入れるでしょうが、個人で行っている家庭教師などは、どこまで浸透するでしょうか。

DBS導入の時間的・費用的なコストも関わってくると、教育産業は大手の独占になってしまうのではないかと心配する声もあります。もっとも、法律が成立したばかりですから、進めながらベストの形を社会全体として探っていくということが必要でしょう。

子供に対する性犯罪については、イギリス以外のヨーロッパ諸国、特にスウェーデンやフィンランドなどの北欧はで意識が高く、DBSの運用事例もそれらの国々から日本に伝わっているので、そういったものを参考にしながら、日本にベストのものをカスタマイズしていく、という意識が必要で、法律が出来たことによって抜け道もまた明確になる、ということにならないようにしなければいけませんね。

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう