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国会議員の香典に捜査のメス「特捜部は裏金の捜査をあきらめていない」

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政治とカネの問題が相次いでいる。7月30日、岩手県選挙区選出で自民党の広瀬めぐみ参院議員が、公設秘書の給与を国からだまし取った疑いがあるとして、東京地検特捜部が議員会館事務所や自宅を詐欺容疑で家宅捜索。今月には同じ自民党の堀井学衆院議員が、選挙区内の有権者に違法に香典を渡していたとして特捜部から家宅捜索を受け、事情聴取を受けている。8月2日、RKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した、毎日新聞出版社長・山本修司氏が「特捜部は裏金の捜査をあきらめていない」とコメントした。

パーティー券の裏金に比べたら小粒でも…

新聞やテレビの報道では「政治とカネ」と表記されていますが、私は金のかかる政治といった制度やシステムが抱える問題というより、政治家個人の倫理観や資質の問題と捉えていますので、現役記者当時から「政治家とカネ」と言っています。

1995年施行の政党助成法により、今年は総額315億円ものお金が共産党を除く政党に配られるのですから、本来はこの範囲内で政治は行えると考えるのですが、特に自民党はこのほかに巨額の企業団体献金を受け取り、さらに派閥で政治資金パーティーを開き、議員によっては千万単位の巨額の裏金が還流していたわけです。

しかし、この件では巨額の裏金を得た大物政治家は立件されることもありませんでした。それに比べれば今月強制捜査を受けた2件は小粒だと感じる人は少なくないようです。

公職選挙法は議員本人が葬儀に参列した場合を除き、選挙区内で香典を渡すことを禁じていますので、秘書に繰り返し香典を持って行かせた行為は明らかに法に違反します。しかし、私も含め、通夜や葬儀にどうしても参列できないときに香典を託すことは普通にしますし、今週発売のサンデー毎日には、田中角栄元首相が野党の議員に50万円も香典を渡したエピソードが出ていますので、堀井議員の事件がそんなに悪質なのかという疑問は残りことは理解できます。

ただ、堀井議員の事件に、私は注目すべき点があると思っています。今回はこれが焦点になります。

裏金問題の捜査から新たな犯罪の掘り起こしに

ちょっと裏金問題を振り返ると、あの裏金は、派閥が政治資金パーティーを開く際、ノルマ以上にパーティー券を売った議員にその分を戻していました。この金は派閥から議員本人への寄付にあたり、政治資金収支報告書に記載していれば、法的には問題のないお金でした。しかし、多くは記載しておらず、つまり政治資金として処理していなかったため「裏金」とされました。

これは政治家個人の所得だから、税務申告していなければ脱税ではないかという指摘もありましたが、記載ミスと主張されればそれを覆すのは容易ではありませんし、いろんなお金と一緒になってしまえば、お金に色はついていませんので、どれが還流資金を判断するのも難しく、立件されることはなかったというのが現状です。

ただ、もし何らかのきっかけで使途がはっきりすれば、罪に問える可能性が出てきます。今回の堀井議員の事件がそれなのです。

堀井議員が還流を受けた2196万円を政治資金収支報告書に記載しなかったとして大学教授が5月に政治資金規正法違反容疑で刑事告発し、特捜部が使途や原資についても捜査する中で今回の違法な香典が明るみに出ました。

今回の事件では、仮に原資が裏金だと判明した場合、派閥パーティーの還流資金が大規模な香典の配布、これにはいずれ来る選挙で票につなげたいという意思が見えますから、広い意味での選挙買収に使われたという事実が判明することになります。これは悪質ですね。

何よりも私が注目するのが、特捜部は裏金の捜査をあきらめていないことです。使途が判明すれば、裏金の性質が明らかになります。政治資金規正法の不記載というある意味形式犯でない、新たな犯罪が掘り起こされることになるわけです。

検察と国税当局による立件は過去にも

私が経験した事件には、政界のドン、最高実力者といわれた金丸信・元自民党副総裁が逮捕された巨額脱税事件がありますが、これは1993年のことです。その前年に、金丸元副総裁は東京佐川急便から5億円のヤミ献金を受けながら、政治資金規正法違反(量的制限違反)で罰金20万円の略式起訴処分としたことで、検察が猛烈な批判を受けたことがありました。

検察の判断はいかに巨額であっても、この件では政治資金規正法で同一企業からの献金は年間150万円までと定めた量的制限違反にしか問えないというものでしたが、これには世論も納得できず、東京の霞が関にある検察庁の看板に抗議の黄色いペンキがかけられ、私もそのとき現場におり、もう検察は終わりではないかなどと本気で思ったものです。

しかし翌年3月、特捜部は金丸元副総裁を脱税容疑で逮捕し、起訴しました。これはヤミ献金をしつこく捜査した結果という構図ではなく、東京国税局査察部が密かに調査を進め、金丸元副総裁の不正な蓄財を探し当てていたというものでしたが、特捜部が金丸元副総裁の捜査をあきらめていたら、国税局の極秘調査も日の目を見なかったと思います。

裏付け捜査の中で、金丸元副総裁への大手建設会社からの献金の実態もこのときに明らかになり、最終的には建設大臣の贈収賄事件にも発展したゼネコン汚職につながりました。

堀井議員の事件が、自民党派閥のパーティー券をめぐる裏金問題の大物議員の立件につながっていくかどうかは分かりません。ただ、裏金の使途を解明する過程で別の事件が明るみに出たことを私は重視しています。

金丸元副総裁の巨額脱税事件の立件の裏に、国税当局がいたことも忘れてはなりません。国税局のマルサといわれる査察部門に加えて、「料調」と呼ばれる資料調査課という組織もあり、常に金の流れを調べています。脱税事件の大半は、マルサが告発して検察が起訴などの刑事処分をしていますので、両者には強い関係があり、マルサの職員が特捜部の組織にも加わっているのです。

「政治家とカネ」の問題について、世論の我慢は限界に来ています。自民党議員が派閥から裏金を受け取っていたのはおおむね2018年ごろから22年ごろですので、まだ時効にも時間があります。私は少し長い目で検察の捜査に注目していきたいと思っています。

 

◎山本修司(やまもと・しゅうじ)
1962年大分県別府市出身。86年に毎日新聞入社。東京本社社会部長・西部本社編集局長を経て、19年にはオリンピック・パラリンピック室長に就任。22年から西部本社代表、24年から毎日新聞出版・代表取締役社長。

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