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地震・裏金・原爆…元雑誌編集長が語る「この夏忘れてはいけないこと」

潟永秀一郎

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パリオリンピックでの連日のメダル獲得に沸く日本。そんな2024年の夏に「忘れてはいけないこと」を3つ挙げたのは、元サンデー毎日編集長の潟永秀一郎さんだ。8月9日に出演したRKBラジオ『立川生志 金サイト』で語った。

初めての南海トラフ地震臨時情報

まずは昨日(8月8日)の夕方、宮崎県で最大震度6弱を記録した、日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震からです。鹿児島や熊本、大分など九州は広い範囲で揺れたようですが、余震も続いていて、鹿児島出身の私も他人(ひと)ごとでなく心配しています。そしてさらに心配なのは、気象庁が今回初めて発表した「南海トラフ巨大地震」の「注意情報」に関して「忘れてはいけないこと」です。

「南海トラフ」は、東は静岡県の駿河湾から西は宮崎県・日向灘沖まで、およそ600キロにわたって連なる水深4000m級の深い溝です。ここでは海側のプレートが年に3~5㎝くらいずつ陸側に動いて、日本列島がある陸のプレートの下に沈み込んでいます。境目では陸側のプレートの端が海側のプレートに引きずり込まれていて、90年から150年程度で限界に達すると、跳ね上がって大きな地震が起きます。

主な被災地域別に▽東海地震▽紀伊半島などの東南海地震▽四国から東九州にかけての南海地震――の3つの大地震が、同時か相次いで起こる可能性があり、これが南海トラフ大地震です。

今回起きたのは、この震源域の南西の端ですが、どこであれ震源域の中でマグニチュード6.8以上の地震が発生した場合、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報」を発表して、巨大地震と関連があるかどうか、専門家と共に検討を始め、危険度によって「警戒」か「注意」か「調査終了」の、いずれかの情報を出します。

「注意情報」を機に備えを!

今回はプレートの一部が割れたとして、「注意」=日頃の備えを確認するよう呼びかける=内容となりました。会見では、新たな大規模地震の発生可能性が「平常時より数倍高くなった」として、震源域のすべてで少なくとも1週間は注意するよう求め、さらにその後も備えを万全にするよう呼びかけています。

ちなみに「平常時の数倍」というのがどれくらいの確率かというと、専門家は1週間以内に起きる可能性が「千回に1回程度だったのが、数百回に1回になった程度」としています。これをどう考えるかは私たちにゆだねられていますが、私は震源域の東九州はもとより、福岡など離れた地域でも備えを再確認してほしいと思っています。

まずは震源域の、特に海沿いの地域では「避難経路」を再確認してください。南海トラフ巨大地震の最大震度と津波の分布図は、ネットで「気象庁」「南海トラフ地震」「地図」と検索すれば出てきます。お住まいの方はもちろん、実家が心配な方もぜひ見て、避難経路や避難先を確認してください。特に10mを超えるような津波の襲来が予想される所では、避難タワーや高台への最短の道を、実際に歩いてみることをお勧めします。ご実家が危険地域の方は、帰省の折にでも、ぜひお願いします。

次に、ここからはすべてのリスナーの方に向けて。まず、家具の転倒防止です。壁にねじなどで止めるタイプが頑丈ですが、賃貸物件などでそうもいかない場合、突っ張り棒のタイプもあります。テレビの転倒防止も忘れずに。私はベルトで壁に固定しています。また、食器棚の扉が開くと危険なので、ドアロックを付けておくこともお勧めします。

それから、このコーナーで何度も呼びかけていますが、非常袋は大丈夫ですか? 私は大きなリュックサックに現金や、保険証のコピー、懐中電灯や万能ナイフ、携帯の充電器や救急セットなどを詰めて、別に非常食と水は1週間分用意しています。非常袋はまだ、という方は、中身もセットになったものが売っています。自宅はもちろん、ご実家が心配な方は、この機会に送ってあげてはどうでしょう。

くどい、と思われるかもしれませんが、私が繰り返し「備え」をお願いしているのは、記者当時に多くの災害取材をし、時に被災者と一緒に泣いた経験があるからです。とりわけ阪神大震災の発生日、小学校の講堂を埋めたご遺体とご遺族と共に明かした夜は、生涯忘れることはないでしょう。備えをして、でも何事もなく注意報が解除されて「何もなかったね」でいいんです。どうか今、出来る備えはしてください。

何の意味も持たない「説明責任」

全く話は変わって、ここからは「政治家とカネ」の問題。とりわけ永田町ではもはや何の意味も持たなくなった「説明責任」という言葉について、です。7月に2人の自民党議員がカネに絡む問題で、東京地検特捜部の家宅捜索を受けました。北海道の堀井学・衆院議員は、選挙区で違法に香典を配った公職選挙法違反容疑▽岩手選挙区の広瀬めぐみ参院議員は、秘書給与を詐取した詐欺容疑――です。

どちらも離党届を出して党が即日受理したのも一緒なら、茂木幹事長が出したコメントまで、名前を除いて一言一句同じ、コピペという対応でした。その文言が「今回のような事態に至ったことは極めて遺憾です。現在、捜査が進んでいる状況ですが、今後、堀井(広瀬)議員にはしっかり説明責任を果たしてもらいたいと考えています」です。

ご存じの通り2人とも今日現在、容疑について何の説明もしていませんし、党としては「離党した議員のことは知らないよ」ということでしょう。裏金問題で、岸田首相は自民党総裁として「信頼回復のため、日本の民主主義を守るためには、自民党がみずから変わらなければならない」と言いましたが、オリンピックで、みんな忘れたとでも思っているんですかね。相変わらずの「トカゲのしっぽ切り」だし、説明責任なんて、最初から果たす気なんかないとしか思えません。

政治家とカネを巡る事件が6年で10件

実例を並べますよ。まずは裏金問題です。自民党の調査で、派閥の裏金作りに関与した党国会議員らは85人にのぼりましたが、うち73人が国会の政治倫理審査会(政倫審)で弁明することなく、先の国会は閉会しました。この中には、先ほど言った堀井学衆院議員や、安倍派5人衆の1人で2700万円以上を受け取っていた萩生田光一衆院議員なども含まれます。

このほか、去年までの5年間に東京地検特捜部に逮捕・起訴された自民党議員は何と8人に上りますが、そのほとんどが今回の堀井議員や広瀬めぐみ議員と同じパターン=発覚後に離党や辞職表明をして、党は知らん顔です。潔白を主張して有罪判決を受けた秋元司氏を除いて、容疑についての会見もありませんでした。

大臣クラスで言えば、2019年参院選での大規模買収事件の河井克行・元法務大臣夫妻や、2021年鶏卵汚職事件の吉川貴盛・元農林水産大臣、選挙区内で現金などを配った公選法違反事件の菅原一秀元経済産業大臣が含まれます。このうち河井氏と菅原氏は共に大臣辞職の際「説明責任を果たしたい」と言いながら、その後雲隠れしました。

もうこうなると、自民党で「説明責任」というのは「果たさない」のが常識で、おそらく堀井議員も広瀬議員も先輩諸氏に倣(なら)って、立件されれば辞職して幕引きを図るのでしょう。また、裏金問題も「500万円未満は不問」という、あの大甘の党内処分だけで、政倫審での説明も大半が拒んだまま、国民が忘れるのを待つのでしょうか。

でも、私は忘れません。裏金問題も、政治家とカネを巡る事件がこの6年で10件に達したことも、説明責任が果たされていないことも。忘れてはいけないと思っています。

広島と長崎で異なる「被爆体験者」への対応

最後に、今日8月9日は長崎原爆忌です。私も記者と支局長で計6年、長崎に勤務した者として、そのことに触れないわけにはいきません。一つだけお話しさせて下さい。「被爆体験者訴訟」についてです。

あの日、同じキノコ雲の下にいながら、国が定めた「被爆地域」の外にいたとして被爆者と認められていない「被爆体験者」らが、長崎市や県に対して被爆者と認めるよう再び求めた裁判で、来月9日に判決が言い渡されます。同様の裁判は広島でも起こされ、広島地裁・高裁でいずれも原告が勝訴し、当時の菅政権は最高裁への上告を断念して、広島では被爆者手帳の交付手続きが進んでいます。

ところが、長崎では被爆地域の外で広島のような「黒い雨」が降った記録がない、として認められず、国の対応は正反対になっています。広島高裁の確定判決は、被爆地域の外であっても「(放射能を含んだ降下物で)汚染された飲食物などを通じて、『内部被曝』による健康被害の可能性がある」としていて、それは長崎も同じなのに、です。放射能に汚染された水を飲んだり野菜を食べたりして、体の中から被爆した被害ですね。

そんな原告の一人、長崎市の岩永千代子さんは原爆投下の1週間後から髪が抜け、歯ぐきから血が出て、成人後も「甲状腺機能低下症」に苦しみましたが、被爆地域のわずかに外だったため、今も被爆者と認められていません。

あの日から79年を経てもなお、国が引いた1本の線で人生を翻弄(ほんろう)されてきた人たちがいること▽同じ被爆地でありながら、広島と長崎で被爆者認定に明らかな差が生まれていること▽核兵器はこれほどまでに長く市民を苦しめる、非人道的な兵器だということ――を、今日11時2分の「長崎の鐘」の前に改めてお伝えしたくて、お話ししました。

岩永さんは今日、被爆体験者として初めて、岸田首相と面談します。最初の訴訟で387人いた原告は、いま44人。亡くなった方々の、無念の思いも背負っての面談です。広島出身の首相が何を語るのか、注目しています。

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この記事を書いたひと

潟永秀一郎

1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。