2500万人が来場し、10月13日に閉幕した大阪・関西万博。来場者の目を奪ったのはパビリオンの外観だ。特に海外パビリオンは、各国の文化やテーマが反映されており、独創的なデザインが立ち並んだ。
これらを支えているのは「膜構造」と呼ばれる建築。膜構造はいわばとてつもなく大きなテント。鉄骨に特殊なテント生地をピンと張ってできている。デザイン性も柔軟で、軽くて丈夫、光を通すのが特徴だ。今回の万博でも半数以上のパビリオンなどに採用されたという。
佐賀県多久市にある山口産業は、大阪・関西万博で8つのパビリオンを含む14の膜構造建築を手掛けた。1972年にテントの縫製工場として創業。高い技術が求められるパビリオンづくりに今回初めて挑んだ。
困難を極めたのがクウェートパビリオン。鳥が羽を広げたような「翼」が特徴だ。クウェートの寛容の象徴だという「翼」。この滑らかなカーブを鉄骨と膜で表現する。海外の事務所はデザインについて一切の変更を許さない。加えて台風シーズンを迎える日本での開催とあって当然雨や風に対しての安全性も求められた。
そもそも話が来たのは2023年の12月。複雑な形状に加えタイトな納期と次々に乗り越えるべき高い壁がそびえ立つ。山口篤樹社長(66)は「挑戦は理念であり社風」と話す。
国際博覧会という最高峰の舞台に挑んだ中小企業の挑戦と膜構造のミライに迫った。
【取材先情報】
山口産業株式会社
佐賀県多久市多久町3555-120
0952-74-2525(代表)
https://membry.jp/
代表取締役 山口 篤樹 さん
取材後記
大阪・関西万博に行きました。会場に入ってまず圧倒されたのが独創的なパビリオンの外観。見たこともない形の建物の間を歩いているだけで、たまらない高揚感を覚えました。そしてこの建物はどうやってできているんだろうと思いました。調べていくと、一部のパビリオンを佐賀県の会社が手掛けたことを知りました。さらにお話を伺うと佐賀で製造・加工され、現地大阪で組み立てられたこともわかり大変驚きました。
山口産業の皆さんとお話をしていくと、「まずやってみよう」という精神が根付いていることに気づきます。クウェートパビリオンは大変複雑な形です。さらに工期はあまりにも短い。聞けば通常は2年半~3年かかるレベルのものだそうです。それを1年ちょっとで完成させなければならない。そんないわば“大変な状況”がわかっていながら、全社一丸となって高い壁に挑み、しっかりと完成させたのです。慣れない海外の事務所との折衝、国家の威信を背負ったプロジェクトへのプレッシャーはいかばかりだったでしょう。それだけに、今回取材させていただいた皆さんからは達成感と誇りを感じました。
膜構造はデザインの自由度が高いだけではありません。軽量であることから輸送時のCO2排出量を削減できます。また透光性もあり照明の電力消費も抑えることできるサステナブルな建築物でもあります。テント自体は運動会やイベントなどでなじみのあるものですが、特性を知ると日陰を作るだけではない膜構造の無限の可能性を感じました。
クウェートパビリオンの「翼」部分は佐賀県内に移設されます(放送時点で時期・場所は調整中)。万博でご覧になった方も初めての方も、その大きな「翼」と携わった方々の熱い情熱を直に感じてみてはいかがでしょうか。
(RKB毎日放送/細谷一希)
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