PageTopButton

南京事件88年 ・中国、日本は「ドイツと異なり、未だ反省しない」

飯田和郎

radiko podcastで聴く

南京事件から88年を迎え、中国では追悼式典が開かれた。東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、12月15日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、ドイツとの比較を通じて日本を批判する中国外交の狙いについて解説した。

南京追悼式典の特別な意味

日本と中国の関係が凍りついたまま、中国では12月13日、日中戦争時に旧日本軍が多くの中国人を殺害した南京事件から88年を迎えました。事件が起きた江蘇省南京の「南京大虐殺記念館」では、国家が定めた追悼の日として大規模な追悼式が開かれました。

式典は国営テレビで全国に生中継され、私もスマートフォンで見ていました。今年の式典に出席した党幹部は、中国共産党トップ24人の一人である石泰峰・組織部長でした。

今年は戦後80年の節目であり、中国側は9月の「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」で歴史問題に一旦区切りをつける腹づもりでした。しかし、台湾有事を巡る高市早苗総理の発言を契機に、中国は再び日本非難に転じました。その流れの中での南京事件犠牲者追悼式は、中国にとって非常に特別な意味を持つイベントとなりました。

「軍国主義復活」を演説に盛り込む

今回、式典で演説を行った石泰峰・組織部長は、地方の末端に至るまで団体人事を決める部門の最高責任者であり、共産党中央の最重要部門の一つを率いています。この追悼式典は、国家のイデオロギーを体現する一大イベントなのです。

石泰峰組織部長の演説には、昨年はなかったこんな一節が盛り込まれていました。

「軍国主義を復活させ、戦後の国際秩序に挑戦し、世界の平和と安定を壊そうとする企ては必ず失敗に終わる」

これは、名指しはしていませんが、高市総理の発言と過去の歴史認識問題を絡める、ここ1カ月の中国のやり方に沿ったものです。88年前に南京事件を起こした日本に対し、「軍国主義の復活」という言葉を使って強く牽制したわけです。

犠牲者「30万人」を掲げる記念館

南京事件は、日中戦争勃発から5カ月後の1937年12月13日に起きました。中国政府は犠牲者数を「30万人」と主張していますが、日本の外務省は「非戦闘員の殺害や略奪は否定できない」としつつも、被害者数はさまざまな説があるという立場です。

私も訪れたことがある「南京大虐殺記念館」は、日本人としては館内で声を出して日本語で話すことを避けたいと感じるほどの施設です。館の正面には、中国側の主張する犠牲者数「30万」という大きな数字の表記があります。1985年の開館後、2007年にリニューアルされ、展示面積はリニューアル前の12倍に拡大しました。これらは、中国にとって南京事件が日中戦争での被害の象徴であることを示しています。

日本とドイツを比較する王毅外相

日本国内で今年3月、長崎原爆資料館にある南京事件も含めた旧日本軍の侵略や加害行為の展示をめぐって、資料館の運営委員の一人が「南京事件は中国によるでっち上げだ」と発言しました。

中国は、この発言などもウオッチしており、日本政府だけでなく、日本人が過去をどう捉えているかに関心を寄せています。

日中間の歴史問題に関連して先週、中国の王毅外相が訪中したドイツのワーデフール外相と会談した際にも、日本への批判が展開されました。王毅外相は、

「ドイツと異なり、日本は戦後80年が過ぎても、侵略の歴史の反省が徹底されていない」

と発言し、さらに「日本の現職の指導者による台湾を巡る誤った発言が重大な危害をもたらしている」と付け加えました。

これは、先の対戦で同盟を結び、他国を侵略した「日本とドイツ」を並べ、「片や歴史上の過ちを大いに反省している(=ドイツ)」「片や植民地支配した台湾に対する認識を含め、まったく反省していない(=日本)」という対比を強調する手法です。

つまり、あえてその場にいない日本を批判し、目の前にいるドイツ外相を持ち上げ、賞賛することで、ドイツとの関係も大切にしながら、日本を意識することに重点を置いたと言えるでしょう。

重苦しい空気に覆われたまま、日本と中国の関係は年を越しそうです。

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう

この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。