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米軍がベネズエラを武力攻撃し大統領拘束…中国「激しい怒り」の理由

飯田和郎

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2026年が始まって早々、世界に衝撃を与えた、アメリカ・トランプ政権によるベネズエラ攻撃とマドゥロ大統領夫妻の拘束。東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、1月5日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、この衝撃の背景と「最大の後ろ盾」である中国の激しい怒りの理由を解説した。

米軍が首都カラカスを制圧・マドゥロ夫妻はニューヨークへ

2026年の幕開けは、国際秩序を根底から揺るがす衝撃的なニュースで始まりました。現地時間の1月2日(日本時間3日)、アメリカ軍が南米ベネズエラに大規模な武力攻撃を行い、ニコラス・マドゥロ大統領とシリア夫人の身柄を拘束。夫妻は航空機でニューヨークへと連行されました。

トランプ大統領はSNSやフロリダの私邸での会見を通じて、「大規模な攻撃に成功した」と発表。マドゥロ氏をアメリカ国内の法廷で裁く意向を示すとともに、暫定的な政権移行までアメリカがベネズエラを「運営する」と言い切りました。

トランプ政権は以前から、アメリカへ流入する麻薬テロの背景にマドゥロ政権の関与があると主張し、カリブ海等でベネズエラ船舶への空爆を続けてきました。しかし、主権国家の首都を直接攻撃し、最高首脳を強制的に排除した今回の行為は、国際法違反の疑いが極めて強く、ウクライナ侵攻以来混乱が続く国際秩序にさらなる打撃を与えたといえます。

「最も怒っている」中国…ベネズエラは命綱

この事態に対し、いち早く、そして最も強い反発を示したのが中国です。1月3日の午後、私のスマートフォンに入れている中国メディアのアプリには中国メディアからの速報が次々と飛び込んできました。それもそのはず、中国にとってベネズエラのマドゥロ政権は、「反米」をキーワードに結ばれた南米における最大の関係国であり、中国こそがその最大の後ろ盾だからです。

ベネズエラは1990年代に反米・社会主義国になり、マドゥロ氏は2013年に、大統領になりました。中国は、経済が破綻状態のベネゼエラを積極支援し、中国の国営企業がベネズエラのインフラ整備を進めています。

一方、ベネズエラの石油埋蔵量は、中東勢を抑えて世界第一位ともいわれています。中国の政府系企業、そして民間企業が競うように、ベネズエラの油田の開発・精製に、資金・技術両面で協力しています。ベネズエラ政府は、膨らんだ中国の債務の多くを、原油で支払う形です。

ベネズエラのすべての歳入のうち、その95%を石油による収入が占め、その最大の輸出先は中国。実に、産油量の8割が中国へ向かいます。

一方、中国からすれば、石油の総輸入に占めるベネズエラ産の割合は1割以下。つまり、中国にとって、ベネズエラは投資先としては大きな存在ではありませんが、ベネズエラにとって中国は命綱なのです。

アメリカに拘束されたマドゥロ氏は中国、そしてロシアといった反米・強権国家との結びつきを深めてきました。昨年5月、ロシアは対ドイツ戦勝80年を祝う式典をモスクワで開きましたが、マドゥロ氏はモスクワへ駆けつけ、そこで習近平主席とにこやかに会談していました。

「弱い者いじめ」と非難する王毅外相

中国外務省は3日夜に声明を出し、「主権国家に対する蛮行を強く非難する」と表明。トランプ政権の行為を「覇権行為」と断じました。

昨年12月、中国の王毅外相はベネズエラ外相との電話会談で、アメリカの圧力を「あらゆる一方的ないじめ行為」と表現し、反対する姿勢を明確にしていました。

今回の武力行使は、麻薬対策という名目以上に、「アメリカの裏庭」であるベネズエラやキューバなど、反米を掲げる国々に、さまざまな支援を行う中国の影響力が増すことを阻止する狙いがあるはずです。

そうであれば、中国は、ベネズエラでの石油利権を失うだけではなく、自分たちが描く世界戦略への分断以外の何ものでもない、と映っているでしょう。

「力による支配」が加速する2026年

もちろん、主権国家への武力行使は許しがたい暴挙です。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻を擁護し続けてきた中国が、今回のアメリカの行為を「国際法違反」として非難する資格があるのか、という点には大きな矛盾を感じざるを得ません。

一方で確実なのは、この事件をきっかけに、中国とロシアが「共通の敵」であるアメリカに対抗するため、これまで以上に結束を強め、共闘を加速させるということです。

「力による支配」がこれまで以上に露骨にまかり通る、混沌とした一年の幕開けとなりました。南米で起きた今回のできごとは、日本を含む北東アジアの安保環境にも必ず波及します。世界がより、混沌とする2026年の幕開けかもしれません。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。