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【特集】松の木が車に直撃し男児死亡…3年経っても「景観と安全」課題に

佐賀県唐津市の国の名勝「虹の松原」。3年前、ここを走っていた車が折れた松の木と衝突し、小学生の男の子が命を落とした。自治体は事故をきっかけに、倒木のおそれがある松を伐採したものの、遺族や樹木医は「まだ危険な状態にある」と指摘する。景観の保護と安全対策の両立は――。
「これもちょっと道路にせり出してるので、傾斜で言ったら危険度を含んでますね。重心がたぶん道路の真上ぐらい。空洞があるとあそこから幹折れする可能性があります」(樹木医・三宮洋さん)
約100万本の松が4キロにわたって連なる国の特別名勝「虹の松原」。しかしその美しさに潜む危険性を指摘するのは、北九州市で造園業を営む樹木医の三宮洋さんです。およそ6年前から虹の松原の樹木調査に携わってきました。多くの車が行きかう道路にせりだして伸びる松の木。周囲には倒木に注意を呼びかける看板などが設置されています。
「改めて通ってみてやっぱり危険だなという木はあります。ちょっと気になる怖いなと改めて思いました。事故の可能性はありますね。このままであれば」(三宮洋・樹木医)
事故は、今から3年前起きていました。2019年7月、県道を走っていた軽乗用車に折れた松の木1本が直撃。母親が運転する軽乗用車に乗っていた当時、小学5年生の川崎辿皇さんが松の木の下敷きになり、死亡しました。
遺族は今年2月、国や佐賀県、唐津市に対し松の木の安全対策を怠ったなどとして、約3000万円の損害賠償を求める訴えを起こしました。母親の内山明日香さんは、裁判が続く間にも再び痛ましい事故が起きるのではないかと危惧しています。
「(提訴時の会見)事故後も被害者が出ていないとはいえ倒木が続いているのが現状です。身内、友人と知人、誰が被害にあうかわからないだけでなく、被害にあわないという保証はどこにもありません」(母親の内山明日香さん)
虹の松原の松の木は国の委託を受けた唐津市が伐採を許可する権限を持っています。一方、間を通る道路は県道で管理は佐賀県です。事故直後、佐賀県は、唐津市の許可を得て折れた木を含む県道沿いの松29本を緊急で伐採しました。県はその後254本についても伐採を申請しましたが――。
「やっぱり254本切ると、あそこの景観がかなり変わるのではなかろうかと思う」(唐津市長)
当時、佐賀県は樹木医の三宮さんらに現地調査を委託。道路沿いの松を中心におよそ330本を調べたところ、7割にあたる228本が5段階評価で最も危険度が高い「E判定」倒木のおそれがあることが分かりました。
「全部が全部倒れないとしても、半分近くは危険性が十分高いと思いますので、もし伐採対象の本数は何本かと聞かれると、半分近くは伐採するべきかなと思います」(樹木医・三宮さん)

しかし、佐賀県と唐津市が伐採したのはこれまでに13本だけ。残りの200本あまりは、「経過観察」として今も残されたままです。倒木の危険性が指摘されながら伐採に及び腰なのはなぜでしょうか。唐津市に改めて聞きました。
「文化財保護の観点で、簡単に伐採することはできない。伐採と判断する理由や根拠が必要だ」(唐津市の担当者)

唐津市は、虹の松原が国の特別名勝に指定されていることから、伐採するにしても、文化財保護法に照らして検討する必要性を強調。樹木医の診断でE判定の松が228本に上ったにも関わらず、伐採が13本のみにとどまったのは、最終的に「県が13本を伐採し、200本あまりを経過観察とする意見を出してきたから」と説明しました。
多くの人に愛されてきた松林。唐津市などによると、地域のシンボルを守ろうと、少なくとも200を超える団体、およそ8000人が、地元の協議会に登録して、清掃活動などを行っています。地元住民とともに活動する団体の代表は危険な木は積極的に伐採すべきとする一方で景観保護に対する思いも口にしました。
「もう400年も樹齢が大きいものは簡単に切っていただきたくないなという思いはあります。ただし、それが危ないのであれば、(伐採は)やむを得ない話ですけどもね。自然と暮らしと安全を両立できるような松原になればいいなと思っています」(西脇理事長)



景観保護と安全対策を両立することはできないのでしょうか。樹木医の三宮さんは伐採以外にも対策は可能だと指摘します。


「何らかの方法で危険度のリスクが少なくなるような対策、支柱なりロープで引っ張るケーブリングなり何らかの対策をしないといけないと思いますね」(樹木医の三宮さん)



幼い命が失われた事故からもうすぐ3年。虹の松原ではその後も、高さ16メートルの松が地面に落下したり、折れた松が車にぶつかったりする被害が起きています。一刻も早い対策が必要です。

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