カレー歴8年、20歳で独立。色と香りを操る日本家屋のカレー店

カレー歴8年、20歳で独立。色と香りを操る日本家屋のカレー店

「去年の11月、大牟田に予約制のカレー店がオープンしたらしい」
「店主は13歳でスパイスカレーに目覚めて、20歳で店を開いたんだって」
そんな話を耳にして、俄然興味が湧きました。こんな話をされては、もうじっとしていられません。
どんなカレー?
どんな人が作ってるの?
ドキドキしながら予約して、ゆらゆらと電車に揺られて行ってきました。

最寄り駅は、西鉄天神大牟田線の倉永駅やJR鹿児島本線の吉野駅。国道208号線沿いに建つ「古着屋 西海岸」のお隣で、この小さな坂がお店への入口です。近隣には、専用の無料駐車場が3台分用意されていましたよ。

坂を登って目に飛び込んで来たのは立派な日本家屋。
門扉の先に、さらに白い暖簾がかかった中門があり、飛び石をまっすぐ進んだ先の右手が入口(写真右)となっています。
玄関でなく勝手口と化している窓から入る感じも、ちょっぴりドキドキします。

「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えてくれたのは、サラリとした黒髪の好青年。
店主の上池千優さん(以下ちひろさん)、その人でした。ここは、元々ちひろさんの曽祖父の家で、ほぼ何も改装しないまま一部を店舗にしているのだそう。
木彫りの細工が施された書院欄間や透かし彫りの照明、窓から望む庭も見事です。

そして、そんな純和風の空間にさり気なく合わせたアンティークのテーブルや椅子。これだけでも、ただならぬセンスの持ち主であることが伺えました。

13歳から始まったカレー人生

13歳で初めて食べたインドカレーの美味しさに衝撃を受け、突如開いたちひろさんの“カレー道”。元々料理やお菓子作りは好きで、自分でもスパイスからカレーを作ってみるようになったといいます。

作り出すと、今度はその面白さと難しさに気付き、美味しく作るコツを知りたくなる……。
そうして14歳になった頃には、月3千円のお小遣いをやりくりしてカレーを食べ歩くようになりました。初めて1人で出かけたのは大楠にあった「ALUK かもめ食堂」。
やがて15歳で「スパイスロード」(現「薬院スパイス」)の高田健一郎さんが開くカレー教室「魁!!カレー塾」の門をくぐります。

ちひろさんが13歳の頃に書いた日記(ブログより)

中学卒業後は「アルバイトができて、昼間に食べ歩くこともできるように」と単位制の高校へ進学。
薬院の「回Kai」や高砂の「カレーNADO」(一時閉店・移転準備中)でバイトをしながらカレーを学び、バイト代を貯めては福岡や大阪、東京など県外のカレーも食べ歩く日々を送ります。

左:2015年7月「カレー&スパイス伝道師 渡辺玲さんのスパイス教室!」
右:2018年9月「モリトネリ」を間借りして、初めてワンオペ営業した際に作ったカレー(共にブログより)

食べ歩いた店のことや試作・スパイス研究の様子は、小学生の頃から書いていたブログ「高校生の福岡カレー日記」に記録。カレーイベントやスパイス教室・講習会への参加、数日限定の間借り営業など、活発に活動していたこともあり、この頃にはすっかり「カレー高校生」として全国のカレー好きにも知られる存在になっていました。

また、18歳になってからの1年間は、とある南インド料理店へ通い詰めて武者修行。
自宅から3時間かけて店へ行き、土曜は早朝から行ってそのまま日曜日まで泊まり込みで、働きながらカレーを習う日々。夏休みなどの長期休暇は、1週間泊まり込むこともあったそうです。

“ちひろさん色”のカレーコース

そんな経験を経て悩んだ末、母親の後押しもあり、進学よりも独立を選んだちひろさん。20歳となった2021年11月に「Curry Toiro」を開業しました。現在のメニューは「Toiroのカレーコース」1種類のみ。季節や日によって変わる3品のカレーと食後のドリンクがセットになっています。

最初に運ばれてきたのは、深い緑色をした「和山椒のグリーンカレー」です。山椒の葉をペースト状にしてカレーのベースに。山椒の実はスパイスと合わせてオイルにし、仕上げに垂らしています。

口に運べば、たちまちに広がる鮮烈な香り。
ソリッドで洗練された味わいに、思わずのけ反りそうになりました。複雑なのに、一切の雑味がない! 軽やかなスパイス使いで後切れはよく、ジューシーなズッキーニと新ゴボウの食感の対比にも楽しさがあります。

「19歳で自分の店を開こうと決意したとき、“自分のカレーを作ろう”と思い、カレーのどんなところに魅力を感じてきたのか考えました。僕はスパイシーな刺激や辛さよりも、スパイスの持つ香りや色が好き。食材と調和して広がる味わいに惹かれたんです」と、話してくれたちひろさん。

――なるほど。だからこのカレーはどこにも似ていないんだ。
無農薬野菜など、季節の食材に合わせてスパイスや調理法を選び仕立てるちひろさんのカレー。初めて食べる味のようで、どこか懐かしいような、不思議な美味しさがあります。

続いては「新じゃがいものドライカレー」が登場。
台所から客席まで届いていた香ばしい匂いの正体は、下に敷かれた自家製のチャパティでした。タコスのように挟んでかぶりつくと、最初に広がるのはヨーグルトソースとマンゴーパウダーの酸味。
このパキッと鮮烈な酸味が、新じゃがいものまろやかで優しい味わいを引き立てます。ふわりと残るスパイスと小麦の香りも心地よく、いつまでも余韻に浸りたくなる一皿でした。

3品目はマスタードが黒い真珠のように輝く「カブと焙煎マスタードのキーマカレー」。
ご飯の量は小・中・大から選べます。蒸し煮して柔らかな甘味を引き出したタマネギと鶏挽肉の旨味がたっぷりで、ご飯もぐんぐん進みます。オイルの中で焙煎して香りを引き出したマスタードが何とも香ばしく、焼いた赤カブと白カブの歯ざわりもたまりません。

これだけしっかりと旨味が引き出されているのに重さがなく、塩気が強すぎることもなく、後口はスッキリ。
鶏肉、タマネギ、マスタードなどのスパイス……どれが勝つでもなく調和して、繊細なカブの味わいが生きているなんて。鍛えられた技術、食材やスパイスに対する真摯な思いが伝わってくるようです。

ちなみに、ご飯を盛った皿は、柳宗理デザインのもの。最後の一粒までご飯をすくいやすくて、細部にまでカレー愛が行き届いているなぁと感じました。

食後のドリンクは甘く香ばしいチャイ。こちらも季節や日によって作り方を変えるそうです。この日は茶葉をふんだんに使って煮出した、リッチで濃厚なタイプでした。
時折聞こえる鳥や虫の鳴き声、電車の走る音、スーッと吹き抜ける風を感じながら和室で味わうチャイは、また格別な美味しさがありますね。

入口の脇には色とりどりのショップカードが置かれていました。裏をめくってみると「what color?」の一言が……。
「店名の「Toiro」は、“十人十色”からとりました。味わいや好み、作り方は十人十色。カレーには無限の可能性があると感じています。自分が素敵だと思うスパイスや食材の色、香りをとりどりに表現していきたいです」
そう楽しそうに話すちひろさんが作るカレーは、この先どんな色を見せてくれるのでしょうか? 無限の可能性を秘めた若き店主の姿にワクワクが止まりませんでした。

店名 Curry Toiro(カレートイロ)
住所 福岡県大牟田市倉永1040
電話番号 なし
営業時間 11:00〜、13:00〜(2部制)※完全予約制
定休日 水〜金曜
URL https://www.instagram.com/curry_toiro/

※この記事は取材時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等は変更の場合があるため、
おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。
※撮影時にマスクやアクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。

外部リンク
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THE WRITER

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