立川生志 金サイト

金曜 6:30
ラジオキャンペーンで生まれたユーミンのベスト盤の2曲を読み解く

ラジオキャンペーンで生まれたユーミンのベスト盤の2曲を読み解く

RKBラジオ『立川生志金サイト』のコメンテーター、潟永秀一郎・元サンデー毎日編集長はかつて作詞家を志望していた。そこで毎月一回お送りしているのが「この歌詞がすごい」という解説コーナー。9月30日の放送では、デビュー50周年を迎えた、松任谷由実の記念ベストアルバム「ユーミン万歳」から2曲の歌詞を読み解いた。

 

2万通のリクエストからできたベスト盤

このコーナー最多登場。「またか」と思われるかもしれませんが、デビュー50周年ということでご容赦ください。何度も言いますが、ユーミンは曲も素晴らしいんですが、詞がまたすごい! 美大卒、日本画をやっていただけあって、歌詞がすべてそのまま映像です。だから私はこれからユーミンにぜひやってほしいのは「映画」。映画を撮ってもすごい監督になるんじゃないかと思っています。

 

さて、10月4日に発売される50周年記念ベストアルバム「ユーミン万歳」、5月16日から29日までの2週間、全国のラジオ99局による「ユーミンリクエストWEEK」に寄せられた、およそ2万通のリクエストから、全国のラジオスタッフと、ユーミン自身の選曲で選ばれた50曲を収録しています。RKBラジオでも5月に『カリメン』などで募集しましたから、リスナーさんの中にも「あ、私がリクエストした曲だ」というのがあるんじゃないでしょうか。

夕陽から宵闇へ変わった「翳りゆく部屋」

このアルバムの中から「映像が浮かぶ曲」を。まずは荒井由実時代の「翳りゆく部屋」です。

 

発売は1976年3月、結婚前の最後のシングルカットです。前奏のパイプオルガンが印象的で、目白の東京カテドラル教会での録音です。ちなみに松任谷正隆さんとの結婚式は横浜のカトリック山手教会でした。

窓辺に置いた椅子にもたれ

あなたは夕陽見てた

――という歌い出しから、全編映画。視点は彼女です。

 

どんな行き違いがあったのか、彼女はまだ彼に思いを残しながら、修復不可能な関係になっていることは次の歌詞

なげやりな別れの気配を

横顔に漂わせ

――という彼の表情で分かります。

 

もう未来がない二人ですから、「二人の言葉はあてもなく 過ぎた日々をさまよ」います。おそらく話をつなぐのは彼女、終われば彼は出ていくからです。

 

そして、凄いのは次の歌詞

ふりむけばドアの隙間から

宵闇がしのび込む

――です。

 

これだけで時間の経過=夕陽が宵闇に変わっているということ=と、彼が出ていったこと、部屋に宵闇がしのび込むように、悲しみがひたひたと胸に迫ること――を伝えます。

 

続く2番の歌詞はさらに映像的で、

ランプを灯せば街は沈み

窓には部屋が映る

――目に浮かびますよね。暗い部屋に明かりをともすと、外の風景は消えて、窓ガラスに映るのは自分、一人になった自分です。

 

その現実に呆然として「冷たい壁に耳をあてて 靴音を追いかけ」ても、おそらく、もう靴音は聞こえません。本当は部屋を飛び出して追いかけたいけれど、無駄だと分かっているから、せめて靴音を追うのです。

 

そして、情景描写の後にくり返されるサビは、

どんな運命が愛を遠ざけたの

輝きはもどらない

わたしが今死んでも

――です。「死んでも」という劇的な表現が違和感なく受け入れられるのは、その前の歌がまるで舞台劇のように展開するからで、22歳でこんな描写ができるユーミンは、やっぱりすごいです。

ユーミンが「一番完成度が高い」と挙げた曲は“ホラーの短編映画”

荒井由実時代の名曲に続いては1982年、松任谷由実となってから9枚目のアルバム「PEARL PIERCE」から「真珠のピアス」です。

 

もうずいぶん前になりますが、何かの番組でユーミンが「一番好きな自分の曲」を聞かれて、確か「一番完成度が高い」というニュアンスで挙げたのがこの曲でした。今回3枚組になっている50周年アルバム「ユーミン万歳」で、「翳りゆく部屋」の前はこの「真珠のピアス」です。こちらもまさに短編映画で、しかもちょっと「ホラー」入っています(笑)

ボックスの内容

 

よくサスペンス映画で、冒頭が事件現場、という入り方がありますが、この曲もそう。いきなり「Broken heart 最後の夜明け」ですから、「傷ついた翌朝」という舞台設定で何が起きたかと言うと、「彼のベッドの下に片方捨てた Ah…真珠のピアス」。そう、眠っている彼を見つめながら、彼女はベッドの下にそっと、真珠のピアスを投げ入れるんです。ね、ホラーでしょう(笑)

 

ありきたりの言い方をすると、彼は二股をかけていた。ただ、おそらく「真珠の彼女」は、元カノ。私がそう読んだのは2番の次の歌詞、

古ぼけた広告でヒコーキを折ってみる

高台の部屋の案内

いつか住もうと云って微笑んだあの夢へ

せめてヒラリと飛んでゆけ

――です。

 

かつてはマンションのチラシを見ながら、「こんな所に住もうね」と言った2人に何があったのか…。彼女はそれでも、彼が戻るかすかな期待をしていたのでしょう。でも彼が結婚するらしいと聞いて、最後にもう一度だけ会いに行きます。彼もダメですねえ、それでまた一夜を過ごしてしまうんだから。ただ彼女の帰り際、ちょっとゾッとしたと思いますよ。次の歌詞です。

肩にアゴをのせて耳元でささやくわ

私はずっと変わらない

背中に回す指の力とはうらはらな

あなたの表情が見たい

部屋を出ていく前、振り向いてハグしてきた彼女に「私はずっと変わらない」とささやかれても…ねえ。動揺を隠して強く抱き返しながら、おそらく彼の視線は泳いでいたでしょう。彼女はそれすらお見通しで、心の中で呟きます。

もうすぐかわいいあの女(ひと)と

引っ越しするとき気づくでしょう

――そう、ベッドの下に投げ入れた、あのピアスに、です。怖いですねぇ…。彼は何て言い訳をするんでしょう?そして私が思う、この歌の最も凄い歌詞はこれです。

どこかで半分失くしたら

役には立たないものがある

そう、ピアスと恋人の掛詞(かけことば)ですね。片方を失くしたら終わり、だと。そしてこのワンフレーズで、結ばれなかった2人の物語を、すべて回収しています。「結局こういうことなのよ」と。ユーミンがかつて自賛したように、本当に完成度の高い曲だと思います。

 

今回紹介した2曲。22歳、荒井由実時代の「翳りゆく部屋」は「イメージとしての別れ」でしたが、妻となった28歳のユーミンが描いた別れは、もっとシビアで現実的な痛みでした。

 

その「真珠のピアス」からも、はや40年。私はこうして思春期からユーミンと同じ時代を生きてこられたことを、本当に幸せだったと思います。ユーミンの歌がない50年だったら違う人生だったかもしれない、と思うほどです。

特別番組「Takara Leben Group presents 民放ラジオ99局特別番組 “スピーカーでラジオを聴こう”キャンペーン WE LOVE RADIO 松任谷由実 50th ANNIVERSARY~日本中、ユーミンに包まれたなら~」RKBラジオでは10月7日(金)21:52から放送します。

 

 

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過去の放送内容

2022.11.25
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