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北九州最古といわれる商店街の灯を守り続ける薪焼きフレンチ

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NALA_市場1

僕が子どもの頃はたいてい家の近所に市場があり、八百屋や魚屋、肉屋の生鮮食品をはじめ、味噌や醤油、漬物、乾物など、毎日の買い物のほとんどをまかなっていた。僕が生まれ育った戸畑の地元には「天六市場」があり、よく祖母に手を引かれて行ったものだ。売り子の威勢の良い掛け声が鳴り響く市場には熱気があり、子ども心にもワクワクしたのを憶えている。大きなところでは「旦過市場」や「黄金市場」が知られているが、北九州最古の商店街といわれているのが八幡東区の茶屋町にある「筑豊商店街」(通称:筑豊市場)である。開業は昭和7年(1932年)で、近くに八幡製鉄の社宅などがあったことから戦後の高度成長期には大いに賑わい、まさに庶民の胃袋を支えていた。時代の流れとともに今では多くの店がシャッターを閉ざしているが、その一角で本格的なフランス料理を提供するレストランが「NALA」である。

NALA_外観

オーナーシェフの松井康さんは、八幡の「千草ホテル」でフレンチの道に入った後、スイス、フランス、スペインで修業を積み、本場ヨーロッパの食文化に触れてきた。帰国後は小倉北区で開業し、当時から食材の仕入れで筑豊市場に通っていたという。そんな縁から市場の一角に土地を得て、2020年に自宅兼店舗を新築移転。「市場の中のフレンチ」というコンセプトをもとに建築家の森敬幸さんが設計した建物は「グッドデザイン賞」を受賞した。

NALA_店内

木立に奥に隠れるようにして建つ店内に入ると、大きく開かれた窓から陽光が差し込むオープンキッチンのカウンターとテーブルを合わせて12席ほど。提供しているのは、完全予約制の「おまかせコース」(ランチ5,500円/ディナー11,000円)のみで、前菜からメインにいたるまで、ほとんどの料理を厨房に設置された薪窯で調理しているという。薪窯の温度や食材の水分量調整のためにランチは12時から、ディナーは18時半からの一斉スタートで、調理は康さん、サービスはソムリエの資格を持つマダムの登紀江さんの2人で切り盛りしている。

NALA_料理1

今回はランチタイムに訪れ、コースの最初に提供されたのは近海ものの魚介を使ったアミューズ3種から。どれもシュー生地やパンと合わせたフィンガーフードで、登紀江さんがペアリングしてくれたアルザスのスパークリングワインとよく合う。

NALA_料理2 NALA_料理3

続いて登場した2種類の前菜は、薪窯で5時間焼いた「薪焼きカリフラワーと自家製黒豚の生ハム」と、ちりめんキャベツで包み焼きにした「玄界灘の魚のムースシューファルシと恒見カキのクリーム」。どちらも薪窯を使った火入れ加減が絶妙で、極めてシンプルな調理法で食材の良さを最大限に引き出す松井シェフの手腕に感嘆するばかりだ。

NALA_料理4

魚料理も、やはり薪焼きにした「波津の釣りサワラ薪焼きわけぎのソース」。香ばしく焼かれたサワラとソースの組合せもさることながら、この料理に合わせてマダムがセレクトしてくれた白ワインがドハマり! あの「モンラッシュ」に隣接する「サントーバン」プリミエクリュのシャルドネで、このレベルのワインをさりげなく合わせてくるセンスに脱帽しきり。シェフ、マダムともに、只者ではありませんよ。

NALA_料理5

メインの肉料理は、都城から一頭買いする黒豚のバラを、なんと一日かけてローストするという「都城黒豚バラと自家製黒豚ソーセージ薪焼き」。普通のレストランではまず不可能だが、自宅兼店舗だからこそ提供できる料理である。本場ヨーロッパの食文化に学び、「田舎のおばあちゃんが作るような暖かい料理」を理想とする松井シェフの料理観を象徴するような一皿であり、昨今もてはやされているイノベーティブなフレンチの対極にあるともいえる。直火を使ったプリミティブな調理法で引き出す食材本来の"旨さ"こそ、より根源的な"食べることの喜び"を感じさせてくれる。

NALA_市場2 NALA_ラーメン

「筑豊市場」で現在も営業を続けているのは8店舗だが、実は「NALA」を含めて3軒を松井さんが運営しており、ここ数年の間に「焼豚らーめん じゅんこ」とベーカリーの「茶屋町パーラー」を出店した。「少しでも市場の賑わいになれば」という思いから、北九州最古の商店街の灯を守り続けている。

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