今でこそ和食の天ぷらにワインを合わせる店は珍しくありませんが、ほんの10数年前まで一部の高級店以外でワインを提供する店はほとんどありませんでした。ソムリエの荒木剛さんが、大名に「ワインと天ぷら あら木」を創業したのは2010年のこと。福岡で天ぷらとワインのマリアージュを提案する店をいち早く開店した先駆者です。
荒木さんはバーテンダーに憧れて飲食業界に入り、高校を卒業してすぐに地元・小倉のバーでキャリアをスタート。縁あって福岡のフランス料理店「ラ・ニッシュ」に入り、ワインの世界にどっぷりハマることになります。その店のオーナーシェフこそ、「ミシュランガイド福岡2019」で星付きレストランに選定された「Nishimura Takahito la Cuisine creativite」の西村貴仁氏。西村氏の薫陶を受けてソムリエ資格を取得し、日本人ならではの感性を生かした料理とのマリアージュを追求した結果が「ワインと天ぷら」でした。西村氏の指導も仰ぎながら天ぷらを独学で研究し、「あら木」開店から現在に至るまで、ワインとのマリアージュを提案し続けています。
現在、福岡市内に3店舗ある「ワインと天ぷら あら木」の中でも警固本店はオーナーソムリエの荒木さんがカウンターに立ち、自ら天ぷらの調理まで行っています。さぞかし大変と思いきや、「お客様に合わせながら、すべて自分でサービスしたいので」と笑うのは、さすがに百戦錬磨のソムリエです。天ぷらはワインに合わせて厳選した食材を使った創作性の高いもので、今回は「おまかせコース」(4,500円)にワイン5種の「ペアリングセット」(5,500円)でお願いしました。
コースは天ぷらを中心とした全13品で、ワインに合わせた順番で提供されます。1杯目のシャンパーニュに合わせるのは、イカの天ぷらにボッタルガ(イタリア産カラスミ)とミモレットチーズに卵黄のソース。「よくシャンパーニュに魚卵は合わないといわれますが、そんなことはありません」と、あえての組み合わせです。
樽熟香のあるブルゴーニュのシャルドネには、椎茸と海老のすり身にアオサをまとわせた天ぷらを。海と山のミネラルを合わせた秀逸なペアリングです。
大根おろしにカボスを絞った天つゆにマイタケの天ぷらは定番の組み合わせですが、これにイタリア産オレンジワインを合わせのが荒木流。「日本の柑橘類に近い酸味があるので、よく合うと思いますよ」と、意外性のあるマリアージュを提案してくれます。
そして、色鮮やかな伊万里の赤絵皿で提供されたのは、フォアグラにマッシュした紅はるか(サツマイモ)をまとわせて天ぷらにしてもろみ味噌を添えたスペシャリテともいえる逸品。フォアグラの旨味、紅はるかの甘味、味噌の塩味が一体となり、口に入れた瞬間は一体何を食べているか分からないほどでした。この複雑な味を受けとめるのが、荒木さんお気に入りのブルゴーニュの赤ワイン。山椒のスパイシーな香りと、ピノノワールの爽やかな酸味がトレビアン!です。
天ぷらの合間に箸休め的な小鉢と季節の果物を使ったサラダをはさみながら、シメのご飯物でフィニッシュ。この日はキノコの炊き込みご飯をあられ揚げにした出汁茶漬けでした。レンゲで崩しながら食べると鰹節と昆布からとった出汁と三つ葉が香り、ほどよい満腹感とともに食事を終えることができました。
店内には大小6台ものワインセラーが設置され、クラシックなフランス産からナチュールまで約300本がストックされています。特に荒木さんがこよなく愛するブルゴーニュワインは、飲み頃のヴィンテージが揃っています。
今回紹介した警固本店のほかにも、天ぷらをアラカルトで注文できる大名店、立ち飲みスタイルでカジュアルに楽しめる都ホテル店があります。各店舗ともにソムリエが天ぷらとワインのペアリングをアドバイスしてくれるので、TPOに合わせて使い分けてください。
ジャンル:天ぷら、ワインダイニング・ワインバー
住所:福岡市中央区警固2-18-13オークビル1-5F
電話番号:092-715-1610
営業時間:18:00~24:00
定休日:日曜
席数:カウンター6席、テーブル4席
個室:なし
メニュー:天ぷらコース4,000円、ワインペアリング5,500円、グラスワイン1,200円~
URL:https://www.winesalon-araki.com
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