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コメ先物廃止で日本のコメ価格が中国市場に握られる!?

江戸時代に世界で最初の取引を開始し、本上場を目指していた大阪堂島先物取引所の“コメ先物”が廃止されることになった。取引量も順調に増え、市場価格の目安を示す存在となっていたにもかかわらず、なぜ本上場がかなわなかったのか?RKBラジオの朝の情報番組『櫻井浩二インサイト』で、明治大学准教授・飯田泰之さんが解説した。

飯田泰之さん(以下、飯田):コメの価格がどう決まっているのか、現状では非常に不透明です。日本のコメの流通のうち、4割は農協系です。どのタイミングで、どの銘柄を出すのか、または買うのか、農協の意向が価格に大きく反映されすぎてしまっています。次に大きいのが、農家とレストランなどとの直接取引ですね。一対一の相対取引なので、これもどう価格が決まってるのか、わかりづらいんです。農家側も大口需要側(菓子メーカーや飲食チェーン)も「価格指標が欲しい」という声は強くあったんです。その期待を担って試験上場していたコメ先物は、取引自体どんどん増えていて、今年に入ってからも出来高は過去最大を記録していて「いよいよ本上場だろう」と言われていた中での廃止のニュースなので、かなりショックを受けた方も多いです。

櫻井浩二アナウンサー(以下、櫻井):農家の皆さんからすると、先物で価格が先につくから、安心できるんですよね?

飯田:農業全般そうなんですけれども、農薬や燃料など、費用は日々確定していきます。その一方で、作物がいくらで売れるかがわからない。蓋を開けてみたら安い値段で売らざるを得なかった、となると困るわけですよね。もちろん、逆に思ったより高く売れて得をするということもあるわけですが、そういった(価格の)凸凹を防ぐために、先に価格を決めてしまうというのが先物取引です。

櫻井:それが廃止になるっていう背景には何があるんですか?

飯田:これは非常に政治的なものだと思います。上場廃止を決定した農林水産省は「参加する生産者が増えていない」と言っていますが、これは先物市場というものを全然理解していない発言です。先物市場って、業者として実際に米を動かすのはそんなに多数じゃなくていいんです。大規模農家さんが参加して取引を行うことで、その他の米農家にとっても価格が安定する、という機能の方が重要です。そもそも「参加者が増えていない」というのは、本上場の条件にもなっていない話です。あと、農水族議員は「取引が新潟産コシヒカリに偏っている」って言うんですけれども、米の価格変動全体に対して(傾向を)見たいので、コシヒカリを作っていない生産者が「新潟産コシヒカリ」という先物商品を使って保険をかけることもあるんです。大体似たような値動きをしますから。

櫻井:要するに基準になるってことですよね。

飯田:大阪堂島取引所の最大株主である、SBIホールディングスの北尾吉孝社長は「(コメ先物を否定するやからは)無知蒙昧である」とかなり激しい言葉で批判してるんですけれども、この本上場廃止によって、日本のコメ価格の主要指標というのが、大連取引所つまり、中国の取引所に握られる可能性さえ出てきました。一昨年、大連取引所ではジャポニカ米(日本米)の先物市場がスタートしています。これが拡大していくことによって、江戸時代(18世紀)からやっていた世界最初の先物取引を手放し、日本人の主食の米なのに、その取引所は中国にあるという状態を、みすみすオウンゴールで作り出してしまったような感じにならないかと、心配されるんです。
櫻井:その背景には何か利権みたいなものがあるんですかね?

飯田:ひとつは「主食であるコメを取引所で(投機の対象として)取引するなんて」という感情的な忌避感はかなりあります。もうひとつは、農協系列の価格支配力が薄くなるという理由です。しかし、中国がジャポニカ米の先物市場を立ててしまったら、元も子もないんですけれども、どうも目先の感情であったり、目先の業界の利益というのを重視するあまり、大きな利益を取りこぼした状況だと思います。本来であれば、こういうところで大きな意思決定をするためには、政治の力というのが必要なんですが、構造改革・規制改革という側面について、ほとんどノータッチになってしまっています。規制改革担当大臣とかがぐっと背中を押してくれないと「これまで通りでいきましょう」っていう慎重な意見に抗することができないですよね。政策実行力の低下、というものを感じざるを得ないのではないでしょうか。

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