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これだけ違う「二つの北京五輪」見えてくる中国の政治状況

北京五輪は2月4日に開会式を迎える。五輪史上初の夏冬同一都市開催でしかも、その間隔がはわずか14年。だが、この14年の時間の経過とともに、中国自身の変化、国際環境の変化も見えてくる。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が、出演したRKBラジオ『櫻井浩二インサイト』で、2008年夏と今冬の「二つの北京五輪」から見えてくる中国の政治状況の違いについて解説した。  

自由主義国のボイコットで際立つ強権国家との付き合い

アメリカなどの「外交的ボイコット」もあったが、25か国の首脳が北京を訪れる。この機会を利用して習近平国家主席との首脳会談も分刻みで行われる。だが、その顔ぶれと傾向が14年前と違う。

まずはロシアのプーチン大統領だ。ウクライナ情勢が緊迫している中、プーチン大統領が“わざわざ”やって来るのは、アメリカやNATO(北大西洋条約機構)の国々をにらんで中国との蜜月ぶりをアピールするためだろう。旧ソ連諸国では、国内での暴動を鎮圧して自身の権威を高めたばかりカザフスタンのトカエフ大統領が堂々の北京入りをする。

そんな中、私が注目しているのは世界第2位の産油国サウジアラビアのムハンマド皇太子だ。まだ36歳だが、事実上サウジの政治や経済を支配している。記憶に新しいところでは2018年にトルコでサウジ出身のジャーナリストが暗殺される事件があったが、アメリカ政府は昨年「ジャーナリストを拘束または殺害を承認していたのはムハンマド皇太子」だと結論づけている。そんなサウジは中国にとって極めて重要な関係だ。そのほかの国を含めて権威主義、強権的な国が目立つ。

これに対し、2008年夏の北京五輪には、日本の福田康夫首相、アメリカのブッシュ大統領、フランスのサルコジ大統領が開会式に出席した。このほか、イギリスやドイツは元首相を派遣した。

2008年は日中関係が良好だった。五輪の前の5月、当時の胡錦濤主席が日本を公式訪問。日中首脳会談を行い、新しい日中共同声明を発表した。胡主席は五輪直前の7月、洞爺湖サミットにも出席している。また、五輪後の11月には麻生首相が訪中した。これらを含め、2008年は5回も日中の首脳が相互訪問している。

それが今年=2022年は、国交正常化50周年と節目の年なのに、五輪開会式どころか、日本からの首脳訪中や中国首脳の訪日すらメドが立たない。2月1日には、中国を名指しこそしないものの、衆議院で新疆ウイグル自治区や香港などでの人権悪化を懸念する非難決議を採択した。

二つの北京五輪を比べると、開会式に参加する外国首脳の顔ぶれに象徴されるように、自由主義国家からの出席は減ったことで、強権国家を中心とした付き合いが際立ってしまっている。

2008年は台湾との関係が前進したが2022年は摩擦を引き起こす

中台関係においても、二つの五輪開催を比較したい。2008年当時、台湾の総統は中国と融和的な国民党の馬英九氏で、五輪を機に中台間の緊密化はさらに進んだ。同年12月には中台の間で、通信、通商、通航の直接往来がスタートした。

一方、今の総統は、台湾の独自路線を進める民進党の蔡英文氏。今回の五輪では、台湾選手団はいったん、開会式・閉会式ボイコットを決めている。IOCからの説得で翻意したが、原因は名称の漢字表記を巡る中台間の摩擦が原因だった。

「今ではあり得ない」デモの開催許可地があった2008年の北京

実は14年前の北京五輪の際、今では信じられないような措置が講じられていた。北京市の行政が五輪開催期間中に北京市内3か所の公園を、デモや抗議集会の開催許可地として指定していたのだ。いわば、デモ活動の場所を当局が用意したということだ。実際には、デモ開催の申請が数件あったものの、当局との協議を経て「自主的に撤回」されている。事実上、許可されなかったということだが、それでもデモの「窓口」は用意されていたのだ。

翻って今はどうだろう。北京に駐在する日本メディアの記者に電話すると「あり得ない」という答えだった。記者は「中国人の記者仲間が『北京五輪の悪口さえ言えない』とボヤいているぐらいなのに、承認を得てのデモ活動なんて考えられない」と、現地のピリピリムードを語ってくれた。

「表現の自由」と言えば、昨年夏の東京五輪で敵・味方が一緒になって人種差別に反対するパフォーマンスをしたのは記憶に新しい。開幕前にIOCは五輪憲章の規定を一部緩和し、条件付きながら、選手に政治的な発言や行動を認めるようになったためだった。しかし、そこも危うい。北京五輪組織委員会は先ごろ「五輪精神に反した行動や発言、とりわけ中国の法律や規則に反する行為は、すべて処罰の対象にする」と明言した。中国の少数民族差別を連想させるパフォーマンスは断固として許さない、というものだ。

コロナ感染を封じ込めるために、選手団やマスコミを徹底的に隔離する、いわゆるバブル方式が今回の北京五輪の特徴の一つだが、言論や表現も同じように封じ込められながら、開幕する。「中国のための五輪」「習近平氏のための五輪」などと、外の世界から極めて奇異に見られていることに、おそらく中国自身も気づいている。しかし、それが分かっていながら、邁進せざるを得ないのが中国のいびつさであり、弱さでもある。必ず閉幕後は「成功だった」と総括するだろう。旧態依然とした国威発揚型の五輪をじっくり観察していきたい。

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