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バングラデシュの貧困とそれを救う福岡の企業(後編)

バングラデシュで知った日本との差

原口社長は、バングラデシュの従業員を仲間であり「職人」と呼ぶほど1人1人を「人として敬う」のと同等に、製品へのクオリティも当然ですが求めます。しかし工場で製品を作っているのは元々読み書きができなかったりする人がほとんど。十分な教育を受けて来られなかった人がほとんどです。それは製品作りに大きく影響します。まずは、製品加工の工程においてマニュアルを作っても読むことができないので、共有が難しく効率的に作業を進められないということが挙げられます。一つ一つ手作りとは言え、製品を大量に作ることも必要です。バングラデシュの従業員の賃金を確保するには、賃金の元となる売り上げが必要なため、それに見合う分の商品の量は欠かせません。

そしてもう一つ、僕がなるほどと思わされたことがあります。それは、商品の販売先は日本で、例えば財布などの製品を作るのに「牛革を縫い合わせる際に2~3ミリ程の隙間ができてしまうことも商品の価値が下がってしまう」という感覚がバングラデシュの多くの方々にはないということです。ビジネスレザーファクトリーの製品は自社工場を持っているので他社の本牛革製品に比べると価格設定は半分または3分の1程です。しかし、クオリティがそれに伴って下がっては、売れる商品は作れません。日本人は精巧でち密な製品に慣れ、個体差やいびつさに違和感を持ち、完璧な製品を好みます。製造スタッフが日本人であれば、隙間ができるのは良くないことだという感覚が説明せずともあり、そうならないように縫製していくはずですが、バングラデシュの人々には「なぜ隙間があってはいけないのか」がベースとして理解できない部分があるそうです。それを教えていく、伝えていくことがすごく大変だったと原口社長はおっしゃっていました。つまり教育です。

教育の重要さ・大人が誰でも先生に

工場での取材を終え、中心地へ道中、原口社長が言う「教育」の重要さが車窓から見える景色と結びついてきました。道路脇にはビニールや何かの容器、食べ物のカスがたくさん落ちています。川沿いには正体は分かりませんが、何かしらの廃棄物が山積みされています。あくまで個人的な感想ですが、バングラデシュの多くの人には「財布の縫製で隙間が出来てはいけない」ことと「街にごみを捨ててはいけない」ことが同列なのかなと感じました。言葉で表すと「モラル」ということでしょうか。バングラデシュの子供達に「モラル」も文字の読み書きも含めて、教育を受ける機会を増やすには「貧困問題の解決」は欠かせません。人には最低限の「教育」は必要であるならば、そのためには「貧困」を解決はしていかないといけない。そのためには「教育」が必要。そんなことを考え出したら、思考がグルグルと回転するだけで、何から始めたらいいのか分からなくなってきます。しかし、ビジネスレザーファクトリーの原口社長は解決に向けて動き始めている。その圧倒的な行動力には屈服します。

学校に行って教育を受ければそれでいいのかというと、それだけで全てが解決するとは思えません。「街のごみ問題」「モラルの欠如」などは、バングラデシュだけで起きている問題ではありません。僕たちが住む日本でもこのような景色や場面を何度も目にしたことがあります。日本は「リサイクル」という名目だとは言え、自分たちが出したごみの処理を海外に押し付けているという側面から考えると「モラル」は大きく欠如しています。他にも、先進国は、食糧難で困っている国で作っているトウモロコシなどを使ってバイオマスのレジ袋を作ることもどこか歪んでいるように感じてなりません。

最近、学校の先生は忙しすぎるとよく耳にします。「教育」が学校だけでできる時代ではないのは明白です。様々な社会問題において、子どもたちに伝えていくことは、先にこの世に生まれた大人たちの最低限の義務ではないでしょうか。

P.S.
原口社長は2022年3月1日付で代表取締役を退任されると発表がありました。なんでも、ビジネスレザーファクトリーは新しい方に引継ぎ、ご本人は西アジアの貧困問題解決に取り掛かるそうです。このコラムで西アジアからの報告が出来る日を楽しみにしています。

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