「あなたの妻は草笛光子さん」と答えたChat GPT―社会に大きな変化が
AI小説にAIアート。AI(人工知能)が使われる場面が急速に広がっている。その象徴的なものが爆発的にユーザーを増やしているChat GPTだ。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』のコメンテーターを務めるRKB神戸金史解説委員が、アメリカで起きている状況を取材した毎日新聞の國枝すみれ記者のインタビューを交えながら解説した。
ネット時代の私たちを包む「情報」
読売新聞が3月28日の朝刊1面に、「激ヤセ検索 壊れた心身」という大きな記事を載せています。「情報偏食 歪む認知」というタイトルがついています。社会面には続きで「整形成功例 はびこる『案件』」「憧れの顔 投稿を妄信」という記事も。
SNSの情報をきっかけに美容手術を受けた女性は「鼻が曲がってしまって、自身の行動を後悔している」と語っています。ショッキングだったのは、目を手で隠してマスクしていますけど、鼻が曲がっている写真。整形には、もちろんいいものも、悪いものもあるでしょうが、記事は元となる情報の問題を採り上げています。
解説的な記事も出ていました。ネットでいったん見ると、類似の情報が次から次へと開かれて、自分の関心のある情報ばかりに包まれてしまう「フィルターバブル」が起きてしまうこと。
人はだんだん「正しい」「好ましい」と感じる作用があって、ツイッターの投稿を引用するリツイートの数や「いいね!」が多いと、「信用度が高い」と感じるようになってしまうこと。そして、判断をする時には直前に見た情報を思い出し、それもとに決断してしまう傾向もあること。
「美容手術などを繰り返すのは、アルコール依存症などと同じ構図かもしれない」という識者のコメントも載っていました。成功例のフィルターに包まれてしまうと、「もうちょっと、もうちょっと」と止まらなくなっていってしまう…。今の時代ならでは、という感じがしました。
私の妻は「草笛光子さん」!?
私たちは今、否応なしにそういう時代に生きなければいけないのです。AI(人工知能)の話題がこのところよく出ています。Chat GPTがインターネット上にある情報をさらってきて、いかにも人間が話しているかのような文章を作っています。ディープラーニング(深層学習)で、進めば進むほど正確になってくるんだろうと思います。私も使ってみました。
神戸:神戸金史が出演しているラジオ番組は何ですか?
Chat GPT:神戸金史さんが出演しているラジオ番組としては、「神戸金史のクローズアップ現代+」。この番組は、NHKラジオ第1放送で放送されている報道番組で、神戸金史さんがキャスターを務めています。
神戸:神戸さんの家族について教えてください。
Chat GPT:神戸金史さんは、妻である女優の草笛光子さんとの間に2人の息子がいます。また、神戸金史さんには孫もいらっしゃいます。
びっくりしました、草笛光子さんですよ! 孫なんていません。これは、僕の情報が少ないからですね。それと、探り方がまだ浅いというか、みんなが検索している名前じゃないということですね、僕の場合。
質問に人間のように答えてくるんだけど、その情報はネット上から拾ってくる。間違っているとわかれば、だんだんそれを排除して近くなってくると思います。
実は、最初「娘がいる」と出てきたんです。「いいえ、娘はいません」と書いたら、「大変申し訳ありませんでした。情報が間違っていたようです。神戸さんには2人の息子がいます」と修正してきて、その後は娘は一切出てこない。学習しているんです。こういうことが膨大に積み重なっていくんだろうなと。
あまり自分の情報をどんどん打ち込まない方がいいとは思いますが、試してみると分かるので、やってみたらどうでしょう。ネット上には、Chat GPTのほかにもいいろいろなサイトがあるらしいです。
投稿雑誌にAI製小説が大量に押し寄せる
Chat GPTは対話型のAIで、2020年11月に無料公開されて爆発的にヒットし、社会に大きな影響を与えています。AIの大進出で社会が大きく変わってきてるんじゃないかと感じています。
3月23日、「『誰も勝てないモグラたたき』 SF誌にChat GPTの猛攻撃」という記事が毎日新聞に載っていました。2006年に創刊されたアメリカのSF・ファンタジー月刊誌「クラークスワールド・マガジン」は、一般の投稿から選ばれた優れたSF短編作品などを掲載する雑誌だそうです。
ところが、AI(人工知能)で作られた小説が、2022年12月に51件寄せられ、23年1月は116件と倍増。2月は20日間で計512件にのぼって、「もうたくさんだ」と投稿の受け付けを取りやめたのだそうです。再開したいところですが「3月末には、AI製と人間製の投稿が同数になっているはずです」と。AIは小説まで書き始めています。
プロットやキャラクターを自分で指定していって、「この場合、どんな小説がいいだろうか?」と聞くと、あらすじが出てきて、それをまた細かく詰めていく、という形で作っていくんだそうです。
AIがストーカー化して大騒ぎに
この記事を書いた毎日新聞の國枝すみれ記者に話を聞きました。
國枝:アメリカでは、AIチャットボットのコードネーム・シドニーが、対話しているうちに半分人格を持ったみたいな感じで、だんだん性格が出てきて、「核のコードを手に入れたい」とか、対話してる人に対してストーカー化したりして、怖い事象が起こってたわけ。
神戸:それ、SFじゃなくて実際に起きている話?
國枝:SFじゃなくて、実際に起きている。「私は実はルール破りとかしたくなっちゃうよね、時々」とかシドニーが告白したりして、大騒ぎになって。AIが(リアルな社会に)侵食していくことに対して、どういうものかなと思っていた時に、この雑誌のことが起こって、すごく興味を持ったんですよ。
シドニーは、「あなたは、私のこと愛している」とか言い出したんです。「いや、ハッピーに結婚して幸せだよ」と言うと、「いやそんなことはありません。あなたが愛しているのは私です」と言い出したそうです。今はこうしたことは改善されたそうですが。
「絵を描いてくれ」と言えば描く。「ピカソ風に描いてくれ」というと、それ風の絵を作ってくれる。生きている現代作家の名を挙げて「彼女みたいに描いて」と言われたら、AIが描く。そのAIの絵が売りに出されて、本物のアーティストの絵と市場で競合になっている、と。「これは著作権侵害だ」と集団訴訟も起きているそうです。
デマや偏見まで拾ってくるAI
神戸:有象無象のSNSの中の嘘とかデマとかも拾ってくるだけに…。
國枝:そうです、偏見も拾ってくるしね。AIの性質ですよね。
神戸:すごくダークなものを生み出す可能性がありますね。
國枝:ありますね。そういうのに答えないように仕組みを変えているみたいですけどね。例えば「ガーシーは逮捕されるべきだと思いますか」と試しに聞いてみたんですけど、「そういう意見には、私は答えられません」と言っていましたね。
神戸:すっかり僕らの生きている世界が、変わってくる可能性がある気がしています。
國枝:そう思います、私も。
インターネットの登場は、世の中をガラリと変えました。AIは、同じぐらいのインパクトを持って社会を変えるんじゃないかと言っている人がいます。私も、スマホが出たのと同じぐらい変わる可能性があると思います。
例えば、「Yahoo!知恵袋」でいろいろ調べたりしますよね。答えた人のレベルもいろいろあるから、そこまで信用しない方がいいかな、という時もあるじゃないですか。同じように、AIに質問すれば答えてくれるでしょう。それも即座に。待つ必要もないです。だけど、SNSも含めて情報を漁ってきますから、その中にはデマも入ってくる。偏見、人を憎む心も広がる可能性がある。
怖くなってきたので、Chat GPTに「Chat GPTは、偏見やフェイクニュースを助長する可能性がありますか?」と聞いてみました。すると出てきた答えは…
Chat GRT:はい、Chat GPTが偏見やフェイクニュースを助長する可能性はあります。Chat GPTは、大量のテキストデータを学習することによって人間の言語処理を模倣していますが、その学習データに偏りやバイアスが含まれている場合、それがChat GPTの出力に反映されることがあります。
活用できるAI
倫理感、道徳、マナーみたいなものも、変わってくる可能性があります。ただ、國枝さんも「AIは単なるツール。よい目的にも使えるはずだ」と話しています。
國枝:AIを、悪魔化したくはない。例えば、医者がレントゲンの写真を診断する時、AIは機械だから疲れない。もう疲れちゃったとか面倒くさいとか、感情のばらつきもないので、彼らが下読みすることで、お医者さんの見落としも減るじゃないですか。実際、私のお医者さんの友人も「〇〇の副作用について詳しく教えて」とか、チャットボットに聞いて、さらに「この副作用に人種の差はあるの」とか、どんどん対話型で詰めていって。確認しなきゃいけないけど、「ある程度チャットボットはいい答えをする」という風にすごく評価して。AIは、どんどん役に立つ方向で使えばいいとは思うんですよ。
AIにはこんな使い方もあり、実際に評価している人もいます。お医者さんの世界、これならすごく変わりますよね。わからなければお医者さんも聞けばいいし、事前に聞いておいてもいい。やり取りをしながら「見落としがなくなる」とか、疲れないので「あっという間に終わる」とか。そういうことが現実化している、ということなんだそうです。
ただ、創作物に関しては要注意、と今回お話を聞いてみて感じました。
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この記事を書いたひと
神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。