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「強度行動障害」とは?発症した青年と家族の苦悩に密着したテレビ番組

突然大声を上げたり、自分の頭を壁に打ち付けたり…思春期を迎えた障害を持つ人に起こる2次障害「強度行動障害」。メディアでほとんど取り上げられることはないが、RKBの若手記者が家族を取材し、ドキュメンタリー番組でつぶさに明らかにした。自らの家族に障害者がいる神戸金史・RKB解説委員が、この障害についてRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説した。

若手記者 渾身のドキュメンタリー

5月21日の朝、RKBテレビ『JNN九州沖縄ドキュメント ムーブ』で、「居場所を求めて 強度行動障害を生きる」というドキュメンタリーが放送されます。私も制作をお手伝いしました。
 


番組を担当したのは、RKB北九州報道制作部の黒木秀弥記者。もうすぐ28歳になる若手記者です。2022年から、福岡市に住む「強度行動障害」の青年・雄斗さん(19)と母親の志穂さんに密着し、ニュース番組でも放送して、非常に大きな反響がありました。これを30分にまとめ、九州・沖縄の系列局でも放送します。

「強度行動障害」とは?

雄斗さんは普段は穏やかですが、突然大声を出したり、頭を打ちつけて自らを傷つける「自傷」行為を取ったりしてしまいます。頭部を守るためのヘルメットは欠かせません。こうした、日常生活を送るのに問題のある行動を取ってしまう人の「状態」を、「強度行動障害」と言います。放送で採り上げられることは極めて少ないと思います。
 

志穂さん「中学3年生になって、大声・自傷・睡眠障害が顕著になってきて、夜中起きられるとみんな寝られる状況ではない。声も出すし、ジャンプもするし。うるさくて近所迷惑になるから、ドライブに連れて行かないといけない状況になって、都市高速を何周もしないといけなくて、やっぱりきつかったですね。ずっと運転はきつかったです。トイレ休憩もできない。眠いけど寝られない、危ない。いつか事故を起こすんじゃないかって」

雄斗さんに現れた「強度行動障害」とは、生まれながらに持っている障害ではなく、自閉症や重度の知的障害の人などが、後から起こす「2次障害」です。コミュニケーションが取れないことによる不安や、生活環境や人間関係などによるストレスによって引き起こされる症状で、雄斗さんも小学校低学年までは家族でキャンプやプールに行くこともできていましたが、思春期を迎えてこういう症状が出始めました。

自閉症や知的障害のある人全員に起こるわけではありませんが、全国に少なくとも4万人いると推定されている、なかなか大変な障害です。

実はたくさんいる“自閉症グレーゾーン”

私の長男も、結構程度の重い自閉症を持って生まれてきました。4歳までは、ほぼ意思疎通できませんでした。

自閉症は、「自ら閉じこもる」という漢字表記なので、「引きこもり」「引っ込み思案」と勘違いされやすいのですが、先天性の脳の機能障害です。新生児100人に2人程度は生まれてくる、と言われていて、家族や親戚に1人くらいいても不思議ではない存在です。障害者と健常者(定型発達)との間の“グレーゾーン”の人たちもいっぱいいる、裾野の広い障害です。

「相手と自分の関係がよくわからない」「お互いの立ち位置が理解しにくい」ので、対人コミュニケーションに障害が起きます。

一方、知的障害を伴わないと、言葉もしゃべれて大学に進学する人もいます。外見からは障害がわかりにくいのですが、軽度で普通にしゃべる人でも「何か変だな」と思います。妙にばか丁寧にしゃべったり、逆に相手のことで普通は絶対に言わないことを口にしてしまったり。例えば、女性に向かって「太っていますね!」と言ってしまうとか。相手がどう思うかという、想像力に問題が起きる障害なのです。

「空気が読めない」といじめの標的になったりします。学校の教員の中でも理解が進んでいないので、障害の特性に合わせて取り組めばいろいろなことができるのに、そのまま放置されていじめが発展してしまうということも起きているので、「自閉症についての知識が広まるといいな」といつも思っています。

居場所を見つける難しさ

私の長男のように、重い自閉症や知的障害を持つ子供の場合、思春期に何らかのきっかけで強度行動障害を起こすと、なかなか大変なことになります。中身は私たちと同じ普通の人間ですから、何かのきっかけが間違いなくあるんです。

ただ、対人コミュニケーションが取りにくいというバリア(障害)で周りをくるまれていて、嫌なことがあったのに表現できないので、ストレスを発散してしまう。それが習慣になってしまうこともあります。でも、周りはなぜなのかが分からないのです。

私の妻も、長男が思春期になった時に強度行動障害を起こすんじゃないかと大変心配していました。幸いそれはなかったのですが。

雄斗さんの母親・志穂さんは、強度行動障害を受け入れてくれる福祉施設を探しましたが、まったく空きがありませんでした。家族だけでの生活が限界になって、ヘルパーによる介護を行うために、雄斗さんのための家を借り、4年前に自ら事業所を立ち上げました。
 


ヘルパーの料金については、「重度訪問介護」という国の福祉サービスがあるとはいえ、家賃に加え騒音対策などで多額の費用がかかっていることも番組では紹介されています。家族と離れ1人で暮らすことができる当事者も少ないと思うので、チャレンジをしているなと思いました。私は、他人事とは思えませんでした。

ゆっくりと、でも確実に成長する子

このゴールデンウイーク、長男と2人で熊本と島原に旅行をしてきました。自閉症の程度は重いのですが、文字を覚えてから、相手に文字を書けば自分のしたいことを伝えられるとだんだん分かってきて、ずいぶんパニックは減りました。少しでも意思疎通できることがストレスの発散になるのは間違いないのです。

半年も前から、何時の新幹線に乗って、どこで昼食をとって、熊本城を見て、島原に行って……とスケジュールを何度も何度も書いて見せにくるのです。「うるさいなー」と思う一方で、4歳までは意思疎通できなかったことを考えると「すごいなー」とも。どんな子でもゆっくりと、でも一歩一歩確実に成長していると思います。雄斗さんも時にとてもいい表情を見せます。

番組の中で、強度行動障害を起こした人を受け入れている施設がでてきます。そこで2年かけて強度行動障害が収まってきたという男性が紹介されていました。何かきっかけがある。それを福祉サービスの人たちが一生懸命考える。家族も考えて、ささいなことを一つ一つ見つけていくリアルな映像をつむいでいるのです。

世の中に障害を持って生まれる子は必ずいて、自分の家族になるとは私も思いませんでしたが、誰でも親になったり、孫を持ったりする中で、障害を持つ人を家族に持つことがあるかもしれません。その立場で見ると、志穂さんがいかに頑張っているか、よく分かります。
 


九州・沖縄ブロックネットのドキュメンタリー番組『JNN九州沖縄ドキュメント ムーブ』、RKB黒木記者が取り組んだ「居場所を求めて ~強度行動障害と生きる~」、RKBテレビでは5月21日(日)午前5時15分からの放送です(そのほかの局では同日それぞれの時間で放送されます)。私が18年前に取材した映像も使われています。

各局の放送時間はこちら(番組ホームページ)

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』(2019年)やテレビ『イントレランスの時代』(2020年)を制作した。

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。