「公立高校で学食は当たり前!」 “学食天国”福岡を支える熱い思い
福岡県では、県立の高校・中等教育学校95校のうち、90校に学食があります。お隣の佐賀県では33校中に2校だけ。恵まれた福岡県ですが、いま物価高騰など様々な問題が起きています。
目次
「安くておいしい!」
福岡県須恵町にある県立須恵高校を訪ねました。広い食堂は、昼休みと同時に生徒たちでいっぱいに。一番人気は熱々の「肉うどん」(260円)です。男子も大満足の「日替わりB定食」(400円)は、お好み焼風オムレツ+からあげ。売り切れ御免の人気メニュー「オムライス」(320円)などなど――。
女子「安い!」
男子「もう最高です。おいしいです」
女子「温かいものが食べられるし、(弁当のように)荷物がかさばらないからいいです」
女子「学食のおばちゃんが優しいから」
安くておいしいだけではなく、作ってくれるスタッフとのふれあいも、学食の
大きな魅力です。
福岡が“学食天国”になった訳は?
そもそもなぜ福岡県の高校でこれほど学食が普及してきたのでしょうか。
福岡県公立高校長協会・三宅竜哉会長(福岡高校校長)「昭和40~50年代にかけて、『朝課外』が福岡県で早くから始まろうとしていたので、『朝早く学校に行く生徒たちにちゃんとした食事をとらせたい』という要望が保護者の方から上がったことからそうなったと聞いています」
さらに「福岡県ならでは」の事情も…。
福岡県公立高校長協会・三宅竜哉会長「以前は、夜間の定時制が20数校あったんです。働いてきた子たちに給食を提供する役割を学食がずっと担ってきたのが、一つの理由にもなったのかもしれない、という気がします」
「子供が減った…」赤字の学食も
そんな要因もあって、現在でも県立高校95校中90校に学食がありますが、実は今、学食が窮地に立たされています。福岡県南部給食センター(本社・みやま市)は1986年に設立、現在約30高校で学食を運営しています。
福岡県南部給食センター 原翼専務「業界全体として、非常に厳しい、苦しい状況となっています。10年前と比べれば、生徒数が明らかに減少しています」
福岡県内の高校生は約12万人(2022年度)で、10年間で約1万人減っているのです。
福岡県南部給食センター 原翼専務「それから、やはり新型コロナの影響。家計が苦しくなってお小遣いが減らされたとか、アルバイトをしていた生徒さんはバイトそのものがなくなってしまって、今まで食堂で使えていたお金がなくなったのも、原因としてあると思います」
新型コロナで長期休校になった損失も取り戻せない状態に、さらに追い打ちをかけるような事態が襲います。
福岡県南部給食センター 原翼専務「食材費、燃料、人件費などの経費が年々高騰していますので、実際に運営する学食の中で複数の高校で採算が取れていない。“赤字経営”に陥っている学校も実際にあります」
「誰かが学食を絶対守らなければ」
原材料費は2022年から約20%以上値上げされていて、経営は圧迫される一方。学食の赤字は病院や施設給食などの事業で補てんしていますが、立ち行かなくなった学食の運営を引き継いだこともあるそうです。
福岡県南部給食センター 原翼専務「かなり昔から、個人で食堂を運営されていて、生徒たちと家族のような思いで運営されてこられていました。その思いをしっかりと引き継ぎながら、子供たちのために誰かが絶対守らなければいけないと思っています。そんな強い思いで運営しているというのが現状です」
県立高校の場合、学校単位で学食の運営に当たっている会社と契約し、福岡県教育委員会がとりまとめます。県教委は「施設使用料のほぼ全額を減免しているが、義務教育でない高校は学校給食法の対象外で、支援策には限界がある」と話しています。
「のせ弁」とは?
学食を盛り上げるための企画で、人気となっているのが「のせ弁」。自宅でご飯だけを詰めた弁当箱を、休み時間に学食に預けます。そこに出来たてのカツとじやカツカレーなどを載せて、“ガッツリ丼”風のお弁当になる、というもの。ほかにも、鳥のから揚げ丼、チキン南蛮丼、牛丼など、どれも300円です。
そのほか、お得な回数券なども用意して、学食が活気づくような取り組みも進めています。
スマホで注文・決済する新型の学食
学食にとって厳しい状況が続く中、新風を巻き起こしている学校も――。福岡高校(福岡市博多区)です。昼休みに食堂に入っていく生徒たちの手にはスマートフォン。みんな、QRコードをスキャンしています。食事の受け取り口で待っている時も、手にはスマホが。
男子「アプリを開いて、あらかじめ自分が食べたいものを選んで、QRコードを読み取ったら食堂に通知が行って、それで食えます」
スマホ注文・決済サービスの「エクスオーダー」というシステムで、学食のメニューを事前に選んで注文できるようになっています。受け取りも、入口でQRコードを読み取るだけ。自分が注文したメニューの窓口でスマホを見せれば、キャッシュレスで食事を受け取れます。
男子「食券の購入で並ばなくていいから、時間短縮のメリットがあるかな」
女子「お金を持たなくていいから、使いやすいです」
男子「けっこう頼みやすいから。しかも普通に味もめっちゃおいしいから、頼みたくなっちゃいますね」
学食運営に乗り出した著名店
学食の名は、「竹乃屋 福高食堂」。ぐるぐるとり皮が人気の飲食チェーン「竹乃屋」(本社・福岡市)が2019年から運営しています。メニューには「牛すじカレー」(390円)に「から揚げ定食」(490円)、そして「鶏からチリ丼」(490円)と、豪華なラインナップ。中でも、限定30食の「日替わり定食」(590円)は大人気で、当日午前7時から注文を受け付けます。
日替わり定食を食べる男子「これは、けっこうおいしいです」
男子「7時5分に見たら、もうない。みんな7時になった瞬間、(連打で)30食みんな頼むから」
こんな仕掛けもあって、連日大盛況ですが…。
タケノグループ 竹野孔社長「利益を出そうとは、初めからあまり考えていなかったです。母校でもあるからね。『まあ、トントンやったらいい、赤字はちょっとキツイかな』と。でも結果的には赤字ですけどね」
学食でも「看板」に恥じないクオリティを
生徒たちが利用しやすいように価格は500円前後ですが、「竹乃屋」の看板を出している以上、食材や味に手抜きはせずにお店と同等のクオリティで提供しています。
タケノグループ 竹野孔社長「(赤字は)多い時で……月に30万円くらい。きっちりフルに授業があれば、何とかトントンまで持っていけるように今はなりましたが」
OBとは言え、赤字を出してまで学食経営を続けるのには訳があります。
タケノグループ 竹野孔社長「“竹乃屋”の看板を上げとるから、『宣伝広告費と思っておけばいいんじゃないかな』と社内では言っています。卒業生がいずれはうちのお客さんになってくれるよ。そう考えれば、目の前の利益を追っかけんでもいいんじゃないのかって」
「もっといろいろなアイデアを」
新しいオーダーシステムで効率化をはかり、経費をスリム化。さらに、学食が生徒たちのために進化していくアイデアも――。
タケノグループ 竹野孔社長「食材を、何らかの形で県が応援してくれるとか。地産地消の食材をきちんと食べていって、例えば食材の生産工程が食堂にはってある、とか。生徒たちを竹林に連れて行ってタケノコを掘らせて、それを僕たちが料理して『はい、タケノコ食べるよー』となれば、これに勝る食育はないんじゃないですか。もっといろいろなことができるのは」
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