虐待相談は年々増加し20万件超に…「里親」不足の解消が急務
目次
事情があって家族と住めない子供たちが里親と暮らす「子どもの村」が福岡市西区にある。運営団体が先日、里親への理解を進めるための活動報告会を開催した。「子どもの村」を継続的に取材しているRKB毎日放送の神戸金史解説委員長が、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で伝えた。
福岡市にある「SOS子どもの村JAPAN」
(福岡市にある「子どもの村福岡」)
認定NPO法人「SOS子どもの村JAPAN」という団体が、福岡市西区今津で「子どもの村福岡」という施設を運営しています。募金などで建てられた一軒家が5つ敷地の中にあり、真ん中にはキャッチボールができるようなスペースがあります。
里親3人が住民票を移して住み込み、家庭の事情で親と一緒に住めない子供を3~4人ずつ預かって、3軒の家で暮らしています(あと2軒は別にショートステイなどに使っています)。
(キャッチボールもできる敷地=SOS子どもの村提供)
福岡市中央区赤坂に運営団体の本部事務所があって、私は「何でもお手伝いしますよ」と飛び込みで話をしたことがあります。ただ、新型コロナでなかなかお手伝いのチャンスがないのですが、できることがないかと見学に行って、この番組で過去2回お伝えしたことがあります。
2022年12月27日 不足する里親 「SOS子どもの村」現地ルポ
https://news.radiko.jp/article/station/RKB/81077/
2023年5月16日 類いまれな美声「カウンターテナー」が支援する子供たちの「村」
https://news.radiko.jp/article/station/RKB/88604/
「里親」とは
先日「SOS子どもの村JAPAN」の活動報告会が福岡市で開かれました。夜間だったのに20人以上集まって、熱心に話を聞いていました。事務局次長の藤本正明さんが説明に立ちました。
(活動報告会で説明する藤本さん)
藤本:里親は、大きく分けて2種類あります。1つは「養子縁組」です。これは、本当は里親と言わないんですけども、養子縁組を前提として、里親として待機するみたいな感じです。子供を自分の戸籍に入れて、ちゃんと姓も同じにして生活をします。
藤本:一方、「里親」は、実のご家族の元で生活できない子供を家族の一員として迎え入れて生活をともにする、ということです。虐待も含め、様々な事情で親御さんと生活できない子が里親家庭で「一定期間」生活する。
事情があって親と住めない子供は、心にいろいろな痛みを感じています。そういった子供たちを、わが子同様に迎え入れて暮らします。普通の里親は、自分の家で子供を養いますが、「SOS子どもの村」は、一軒家を建てて里親に住んでもらい、「個人事業主」として一定額が支払われます。大変な仕事でもあり、生活です。
(募金を元に建てられた「こどもの村福岡」の建物)
里親をサポートするためにいろいろなカウンセラーがついています。里親が病気になったり、都合で実家に帰らなければならなくなったりした時には代わりに入るスタッフもいて、子供の生活を支えています。企業や個人の寄付金をもとに、2010年にスタートしました。
「虐待」児童相談所の相談対応は20万件超
里親が預かる子供には様々な事情があって、その中には虐待もあります。虐待の現状を、藤本さんが参加者にこう説明しました。
藤本:児童虐待の統計を取り始めたのは1990年です。毎年少しずつ増えていって、1999年に1万件を突破しました。今大体どれぐらいの件数でしょうか。
参加者:2万人弱?
藤本:もっと多くて、20万件です。1日に500件以上。3分に1件のペースで、「虐待かもしれない」と行政に連絡が行って対応している、ということです。ただ、「虐待そのものが増えた」と捉えると、ちょっと間違えるかなと思っています。虐待に対する認知が上がって、「虐待かもしれない時に何をしたらいいか」が明確になったので、「今まで発見されなかった虐待が発見された」が正しい捉え方かな、と。
(児童相談所での児童虐待相談対応件数=SOS子どもの村提供)
原因としては、子供の頃に虐待を受けていた親もいるかもしれないし、格差社会の中での生活の苦しさ、1人親で相談する相手もいないケースも多いんじゃないかな、と話しています。
特に福岡は転勤族も多くて、周りに知っている人、頼れる人がいないという面もあるので、「子どもの村」ではショートステイ事業もしています。建物5棟のうち2棟を使い、数日間から2週間、子供を預かります。その間に、心身の健康を取り戻してもらうという取り組みです。
利用する理由の半数近くは「育児疲れ」。追い込まれた時に「ちょっとでいいから時間が欲しい」と悩み苦しんだ時の逃げ道になっています。
30年間ずっと変わらぬ「定員」
ところが、里親自体が日本ではすごく少ないのです。これには、文化の違いが横たわっているようです。
(里親への委託率(国際比較)=SOS子どもの村提供)
藤本:「やっぱり実の親御さんに戻すのは難しい」となった場合は、「社会的養護」という法の枠組みの中で、子供たちは育っていくことになります。一つは「里親家庭」、もう一つは「児童養護施設・乳児院」です。ここでしっかり子供たちを引き受けて育てる。この法の枠組みのことを社会的養護と言います。「社会が責任持って育てましょう」というのが法の理念です。
藤本:社会的養護下で生活している日本の子供は、大体4万2000人ぐらいます。実は、とても日本は少ないんです。1万人あたりの児童人口で比較すると、日本はとても少ない17人。多い国では100人ぐらい。カナダ、デンマーク、フランスなどがそうです。
藤本:少なくて「日本はやっぱりいいよね」ということじゃなくて、理由があります。社会的養護の子供たちの数はこの30年間ほぼ変わらず、4~5万人の間でずっと推移しています。まさに「里親家庭の数」「児童養護施設・乳児院の定員の数」そのものです。30年間、ほぼ同じ数で推移しているということです。
一方で、児童虐待相談対応件数は増えています。明らかに定員を超えている。このギャップの部分は「実のご家庭でちょっと厳しいながら生活をしている可能性のあるお子さんがいる」と捉えた方がいいんじゃないかと思います。
施設を増やすだけでは足りないので、里親家庭がもっと増えていかないといけません。里親のニーズはまだあると思います。
(虐待対応相談対応件数の増加と、社会的養護の子ども数の対比=SOS子どもの村提供)
日本はなぜ里親が少ない?
会場の参加者からは、いくつもの質問が飛びました。
参加者:里親の役割で「一定期間、家族の一員として迎え入れる」という話があったんですけど、「一定期間」とは、何か制度的に決まっていて、最大の年限が決まっているものなのか、教えていただければ。
藤本:ちょっと私見を含みますが、お伝えします。まず法律上「児童」は18歳未満ですが、今は22歳まで社会的養護で生活することができます。例えば、「大学に進学したい」ということであれば可能です。
藤本:ただ、やっぱり里親は、情が入るわけです。だから現実的には、措置期間後もそこが自宅になったりすることもあるし、経済的な援助を行っておられる方もけっこう多くいらっしゃるのは現実かなと思います。ただ、社会に出た後の金銭的なケアは、制度としてはありません。「やはり必要だよね」となりつつある状況です。
参加者:なぜデンマークやフランスは里親の数が多いのですか?
藤本:施設自身がない国もけっこうあるんです。そもそもない。
参加者:里親が多い理由が、「施設がないから」かもしれない、ということですか?
藤本:そういうことです。
参加者:なるほどー。
「家族を超えて、地域で育つ」トークセッションも
地域社会から子供が孤立ことですることで生じてしまう家族の問題が、日本ではあまり目に入ってこないのですが、何とかしなければなりません。「SOS子どもの村」では、里親と子供が暮らす家を3棟用意しているほかに、2つの建物をショートステイ事業に充てています。
行き詰まっている親が、子供を一時的に預けられ、一息つけるようになっています。この日は、ショートステイの活動紹介もありました。
「SOS子どもの村」の活動は、寄付を柱にしています。支援会員は個人がおよそ1200人、企業は230社あまりが支えていますが、活動が広がっていることから、さらに支援を求めています。
10月28日(土)午前10時から、「家族を超えて、地域で育つ」をテーマにしたトークセッション『福岡みんなで子育てカイギ2023』が、電気ビル共創館(福岡市中央区渡辺通)3階で開催されます。参加無料で定員は45人、先着順。申し込み締め切りは10月22日、「SOS子どもの村JAPAN」のホームページから申し込みできます。
【認定NPO法人 SOS子どもの村JAPAN】
https://www.sosjapan.org/
事務局 福岡市中央区赤坂1-3-14 ブランシェ赤坂3F
子どもの村福岡 福岡市西区今津2017-2
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この記事を書いたひと
神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。