コンクリートの床で飼育され、足裏の毛が無くなり、血に染まっているうさぎ。体は糞便まみれ、栄養状態は悪く痩せ細り、下半身不随のまま治療を受けられない個体も…。これらは、以前「多頭飼育崩壊、小学校のうさぎ小屋の現状」として詳報した小学校で飼育されるうさぎが直面する、悲惨な現状の一部だ。※関連リンク参照
この特集では、問題を認識しながらも予算不足から何もできず、放置してしまう学校側の事情も浮き彫りになった。一方で、動物飼育のあり方を見直し、新たな取り組みを始めている学校も存在する。「命の大切さを学ぶ」、その理念を実現するための模索が続いている。
◆「動物の些細な変化にも気づき…」“命と触れる”体験
福岡県太宰府市にある太宰府西小学校。2年生の教室で飼育されているモルモットの「ゆきちゃん」は子供たちに大人気だ。「ゆきちゃんの大好物はモコモコなの」、「ゆきちゃんと一緒に暮らしたいな」子供たちの無邪気な声が聞こえる。モルモットの健康状態も良好なようだ。休み時間には飼育係が当番でゲージの掃除や餌の交換をする。
担任教師「ただかわいがるだけではなくて、例えば怪我していたり血がついたりといった、動物の些細な変化への気づきとか、視野の広がりにつながっていると感じます」
実は太宰府西小学校は、動物飼育に自力だけで取り組んでいるのではない。3年前、兵庫県の大手前大学が研究する新たな取り組みのモデル校となったことがきっかけで、動物飼育を始めた。
◆餌代などを国が負担~獣医師のバックアップも
学校での動物飼育には、飼育数にもよるが、餌代や備品代だけでも年間数十万円規模の費用が必要となる。これ以外に、けがや病気で治療を受けた際の医療費も必要だ。この取り組みでは、大学の研究の一環として飼育を行うため、国の補助金を利用することができ、学校側の負担はほぼゼロ。大学の研究としては、動物飼育によって子供たちがどのような体験を得ることができ、それによって情操教育上どのような効果を得ることができるかを検証する。
◆動物飼育の体験を家庭でも“ホームステイ”の取り組み
以前は週末や長期休みは連携する獣医師にモルモットを預けていたが、今年10月から週末限定でモルモットのホームステイを開始した。今では抽選になるほど希望する家庭が増えているという。学校側は、この取り組みで、動物飼育による効果に広がりが出ると考えている。
太宰府西小学校江口壽信校長「命を学ぶこと、小動物を愛する気持ちを学ぶことというのは保護者の方にも体験していただきたい。このような取り組みを可能であれば続けていきたい」
◆課題は予算の確保、補助金終了後は…
いいことずくめのように見える取り組みだが、それは国の補助金が見込めるからであり、1年ごとの申請で、もし認可されなければ、途端に学校での飼育は立ちゆかなくなる。研究を実施している大手前大学の中島由佳教授も、予算の確保が課題だと指摘する。
大手前大学現代社会学部 中島由佳教授「この補助金が終わってしまったときにどうやって継続していけるのかといこと。ひとつの小学校だけのために予算をもらうのは難しいと思うので、餌なら教材費に含めるですとか地域の獣医師会からなんらかの援助をしていただくとか
、あとはホームスティで地域の方々の協力をいただくといった地域との連携も重要かなと思います」
また多くの自治体には学校での動物飼育への支援制度があり、獣医師への相談や、飼育小屋訪問の依頼については、この制度の予算を利用することができる。しかし、福岡県教育委員会によると動物を飼育している328校の小学校のうち、この制度を活用したのは12校にとどまる。(※福岡市と北九州市はデータに含まれていない)制度の周知も課題だ。
◆“学校での飼育ではない”選択肢も
一方、そもそも学校での動物飼育を選択せずに「命の大切さ」を学ぶカリキュラムを実施している自治体もある。福岡県みやま市の水上小学校は、隣の市にある八女農業高校での出張授業を実施している。11種類、700頭以上の動物を飼育する八女農業高校。子供たちは、牛に餌をあげたり、うさぎと触れ合ったりしながら、動物についての正しい知識も学ぶことができる。子供たちの中には、自然と動物への愛情が芽生えているようだ。
出張授業を受けた児童「もし犬とか猫が雨の日に捨てられていたらかわいそうだから病院に連れていってあげたいと思う」
「いろんな動物と触れあって、動物の命も人間の命も大事だなと思い
ました」
◆「学校での飼育がすべてではない」様々な形を模索
大手前大学 中島由佳教授「学校で飼うことがすべてではなくて、農業高校を訪問してもいいし、動物園で触れ合うのでもいい。動物と触れ合わせたいという大人の熱意は必ず子供に伝わるはず。それがどういう形であっても私はいい試みだなと思っています」
学校での動物飼育の目的は、「生徒が命の大切さ、尊さを学ぶこと」である。予算の確保もできないまま飼育することで、逆に命を弄ぶようなことがあっては本末転倒だ。また、教育現場の人手不足、働き方改革で、ただでさえ子供と向き合う時間が減っている中で、無理に学校飼育を実施することは、教員にも生徒にとっても負担が大きい。“動物と触れ合うことで命の大切さを学ぶ”この本来の目的を見失わずに、情操教育の在り方を模索する必要がある。
この特集では、問題を認識しながらも予算不足から何もできず、放置してしまう学校側の事情も浮き彫りになった。一方で、動物飼育のあり方を見直し、新たな取り組みを始めている学校も存在する。「命の大切さを学ぶ」、その理念を実現するための模索が続いている。
◆「動物の些細な変化にも気づき…」“命と触れる”体験
福岡県太宰府市にある太宰府西小学校。2年生の教室で飼育されているモルモットの「ゆきちゃん」は子供たちに大人気だ。「ゆきちゃんの大好物はモコモコなの」、「ゆきちゃんと一緒に暮らしたいな」子供たちの無邪気な声が聞こえる。モルモットの健康状態も良好なようだ。休み時間には飼育係が当番でゲージの掃除や餌の交換をする。
担任教師「ただかわいがるだけではなくて、例えば怪我していたり血がついたりといった、動物の些細な変化への気づきとか、視野の広がりにつながっていると感じます」
実は太宰府西小学校は、動物飼育に自力だけで取り組んでいるのではない。3年前、兵庫県の大手前大学が研究する新たな取り組みのモデル校となったことがきっかけで、動物飼育を始めた。
◆餌代などを国が負担~獣医師のバックアップも
学校での動物飼育には、飼育数にもよるが、餌代や備品代だけでも年間数十万円規模の費用が必要となる。これ以外に、けがや病気で治療を受けた際の医療費も必要だ。この取り組みでは、大学の研究の一環として飼育を行うため、国の補助金を利用することができ、学校側の負担はほぼゼロ。大学の研究としては、動物飼育によって子供たちがどのような体験を得ることができ、それによって情操教育上どのような効果を得ることができるかを検証する。
◆動物飼育の体験を家庭でも“ホームステイ”の取り組み
以前は週末や長期休みは連携する獣医師にモルモットを預けていたが、今年10月から週末限定でモルモットのホームステイを開始した。今では抽選になるほど希望する家庭が増えているという。学校側は、この取り組みで、動物飼育による効果に広がりが出ると考えている。
太宰府西小学校江口壽信校長「命を学ぶこと、小動物を愛する気持ちを学ぶことというのは保護者の方にも体験していただきたい。このような取り組みを可能であれば続けていきたい」
◆課題は予算の確保、補助金終了後は…
いいことずくめのように見える取り組みだが、それは国の補助金が見込めるからであり、1年ごとの申請で、もし認可されなければ、途端に学校での飼育は立ちゆかなくなる。研究を実施している大手前大学の中島由佳教授も、予算の確保が課題だと指摘する。
大手前大学現代社会学部 中島由佳教授「この補助金が終わってしまったときにどうやって継続していけるのかといこと。ひとつの小学校だけのために予算をもらうのは難しいと思うので、餌なら教材費に含めるですとか地域の獣医師会からなんらかの援助をしていただくとか
、あとはホームスティで地域の方々の協力をいただくといった地域との連携も重要かなと思います」
また多くの自治体には学校での動物飼育への支援制度があり、獣医師への相談や、飼育小屋訪問の依頼については、この制度の予算を利用することができる。しかし、福岡県教育委員会によると動物を飼育している328校の小学校のうち、この制度を活用したのは12校にとどまる。(※福岡市と北九州市はデータに含まれていない)制度の周知も課題だ。
◆“学校での飼育ではない”選択肢も
一方、そもそも学校での動物飼育を選択せずに「命の大切さ」を学ぶカリキュラムを実施している自治体もある。福岡県みやま市の水上小学校は、隣の市にある八女農業高校での出張授業を実施している。11種類、700頭以上の動物を飼育する八女農業高校。子供たちは、牛に餌をあげたり、うさぎと触れ合ったりしながら、動物についての正しい知識も学ぶことができる。子供たちの中には、自然と動物への愛情が芽生えているようだ。
出張授業を受けた児童「もし犬とか猫が雨の日に捨てられていたらかわいそうだから病院に連れていってあげたいと思う」
「いろんな動物と触れあって、動物の命も人間の命も大事だなと思い
ました」
◆「学校での飼育がすべてではない」様々な形を模索
大手前大学 中島由佳教授「学校で飼うことがすべてではなくて、農業高校を訪問してもいいし、動物園で触れ合うのでもいい。動物と触れ合わせたいという大人の熱意は必ず子供に伝わるはず。それがどういう形であっても私はいい試みだなと思っています」
学校での動物飼育の目的は、「生徒が命の大切さ、尊さを学ぶこと」である。予算の確保もできないまま飼育することで、逆に命を弄ぶようなことがあっては本末転倒だ。また、教育現場の人手不足、働き方改革で、ただでさえ子供と向き合う時間が減っている中で、無理に学校飼育を実施することは、教員にも生徒にとっても負担が大きい。“動物と触れ合うことで命の大切さを学ぶ”この本来の目的を見失わずに、情操教育の在り方を模索する必要がある。
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