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家族を理解できない子供たち…SOS子どもの村で“住み込みの里親”が語る

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RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』では、子供たちが親元を離れて里親と暮らす「子どもの村福岡」(福岡市西区)を継続取材している。3棟の戸建て住宅があり、3人の育親がそれぞれ住み込み、3~4人の子供と一緒に暮らしている。「住み込みの里親」とはどんな暮らしなのか。RKBの神戸金史解説委員長が里親にインタビューした。

「SOS子どもの村福岡」に住む里親

福岡市西区今津にある「SOS子どもの村福岡」は2010年、寄付をもとに住宅5棟を建設して開村しました。このうち3棟では、「育親」と呼んでいる里親がそれぞれ1人ずつ住み込み、3~4人の子供たちと共同で暮らしています。

育親は女性の松島智子さん(36)と眞邉香代里さん(53)、そして男性の田原正則さん(44)です。残る2棟では、虐待防止のため短期間子供を預かるショートステイ事業の場所となっています。

母・兄であり、遊び相手であり「鬼婆」でもある!

松島智子さんは、小学校低学年以下の子供4人と暮らしています。

マッツこと松島智子さん

神戸:「親御さんの代わり」として子供に接しているんですか。それとも、普段一緒に暮らしている「別の大人」として?

松島:意識としては「別の大人」の方が強いと思います。私は、「お母さん」とか「ママ」とかと呼ばせていないんですよね。最初の出会いの頃から「マッツって呼んでね」って言っています。あの子たちにはお母さんがいるので、ちょっと線を引いている部分はありますね。もちろん基本的には「母親代わり」ということなのでしょうけど、「別の大人」としてという気持ちが強いかもしれない。いろいろな考え方の人がいますね。「子どもの村」以外でも、最初から「お母さんって呼んでね」と言っている里親さんもいますし、人それぞれ。

神戸:子供たちにとっては、マッツはどういう存在なんですか。

松島:お母さんのような時もあり、お兄さんのような時もあり、遊び相手でもあり、恐ろしい鬼婆の時もあり(笑) それぞれの局面によって違うかなと思うんですけど。

神戸:ちゃんと怒るタイプですか?

松島:厳しいと思います。多分3人の中で一番厳しいです。

神戸:子供たちが「うち、すごい厳しいんだよ」とぐちを言ったりしませんか?

松島:「マッツは意地悪やけん」とか、「いいな、田原さんとこは」とかと言います。もういっぱいそういうのは言いますけど、お互い様ですから。「いいなあ、マッツのところは」と言う時もあるし、それぞれの家の文化が違うから。それが面白いところだと思います。

神戸:施設ではそうはいかないですね。

松島:そうですね。そういうところで「自分の家なんだ」という気持ちも育っていく、違いを認めていく。嫌なところもあるけども、やっぱり特別、自分たちがいいところもあるって結論になってくるんじゃないかな、と願っていますけど。


 

「子どもの村」と「施設」の違い

「社会的養護」という言い方をします。保護者のない児童や、保護者が育てることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し保護していくのです。普通の里親は自宅に引き取りますが、「子どもの村福岡」は建物があって住み込みです。

松島さんは大学卒業後、京都にある住み込みの施設で9年間働きました。大きな施設でした。退職して福岡市に戻ってきた後、「SOS子どもの村」で育親を募集しているのを知り、応募したそうです。

神戸:前の施設と比べて、ここで暮らしていることの違いは?

松島:もう、全然違うと思います。やっぱり施設は集団生活になるし、多い時は60人いたので、施設の決まりごと、行事ごともたくさんありましたし、足並みを揃えるので、ちょっと苦しいなと思う時も。「こっちの方がいいのにな」と思いながらみんなに合わせていくみたいなこともあったりしたので。ここは本当に「生活」なので、育親の判断に最終的には委ねられるところがやりやすくもあり、責任の重さをかなり感じるところですね。

神戸:家族として暮らしていくわけですから、施設とは違いますね。

松島:そうですね。全く違うと思いますね。「育親の判断がちょっとまずいんじゃないかな」という時は、村長を始めスタッフが意見をしてくれるので、ワンクッションあって考えることもできますし、本当に環境としてはいいなと思う一方で、もちろんそういう助け、支えがあるという良さもあり……どの方々も皆そうと思うけど、生活をのぞかれるというか、プライベートであり、公でありっていう難しさはとてもあると思います。

神戸:休みは取れているんですか?

松島:一応「休養日」という形で、月に何回か出かけたりしていますけど、基本的には「家で休めるタイプ」なので。子供放ったらかして本を読んだりもするし、私が本を読んでいたら子供たちも本を読んだりですね。


 

「しんどい」が9割だが…

「村で子供を育てている」という意識なので、助けがあることは大きな特徴ですね。でも「生活をのぞかれる」という面はどうしてもあります。実際に暮らすというのはなかなか大変なようでした。

神戸:一定の業務を委託されて、個人事業主として契約をした形だと思うんですけど、仕事の面と生活の面とが融合してるような感じも受けるんですが。

松島:子供たちとの暮らしに関しては仕事という意識は全くないですが、法人の会議や研修があったりするので、そこはどちらかというと仕事っぽくは感じてはいますね。役割として。

神戸:もちろん楽しいことばかりじゃないですよね。

松島:全然楽しいことばかりじゃないです。昨日は、ちょっと悩んでいる一般の里親さんのところにお悩み相談に行ってきて、「里親って9割苦しい。1割楽しいって思っています」と言ったばかりなんです。9割はもうしんどいことばっかり! 思い通りにならないし、言うこと聞かんし、「ワー」ってなるし。でもたった1割の楽しさとか喜びというものを知ってしまうと、辞められない…というのが私の考えです。

一般の家庭と一緒だな、と思ったのですが、それを自分で選択して、子供たちと出会って、生活を作っていくのです。

「家族」とは何かを肌で感じさせる

中には、小さな時に親元を離れた子もいます。松島さんは、実家や友達も一緒になって、子供を見守るようにしているのだそうです。

松島:私の両親も子供に今関わってくれている。ここのスタッフも関わってくれている。私の友人・家族も子供に関わってくれているんですね。思春期になって私と子供の間でうまくいかない時に、「私も知っている周りにいる人たち」を子供たちが頼っていけるように。いつか絶対来るので私とぶつかる時が。うちの姉夫婦も子供たちと関わっていますし、お正月はもう毎年実家に帰って、お年玉をもらっておせち料理を食べてということもしますし、お盆には迎え火・送り火、全然会ったこともない私の祖父母の仏壇に手を合わせますよ。施設ではできないことですよね。

松島:みんなに家族がいて。その顔が見えないんですね。本当にわからないんですよ。「自分にお父さんがいる」とわかってないとか、「人がどうやって生まれるか」とか本当にわかってないです。私の姉に「お母さんは誰?」と言うんですよ。先祖とか意味がわからないと思います。だから法事も連れて行くし、お盆のこととか、いろいろ経験・体験させること、ものすごく大事だなと思います。

それぞれの育親が、それぞれ自分なりに文化を造って、子供に接している訳ですね。施設勤務の体験もあるからこそ、施設にない面を活かせないかと考えて模索しているようにも思いました。ほかの育親にもインタビューしているので、今後紹介していこうと思っています。

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。