高いけど大事!映画のパンフレットには“タイムカプセル”の価値がある
映画を観た後、劇場で買い求めるパンフレット。読むのは楽しいが、値段はそれなりにする。「忘れてしまった映画の中身や当時の思いを復元できるパンフレットには“タイムカプセル”の価値がある」と語るのは、映画好きを自認するRKB毎日放送の神戸金史解説委員長だ。今年のアカデミー賞が発表された翌日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Groooow Up』で語った。
「え、パンフレットが1,500円!?」
スタジオに、映画のパンフレットをいろいろ持ってきました。『ドライブ・マイ・カー』、『ゴジラ-1.0』など自宅にあるものの一部です。映画を観終えて、気になった作品のものは買うようにしているんですが、高いですよね…。安くて800円、ある時「パンフください」と言ったら「1,500円」と言われ、びっくりしたけれど、今さら「買わない」とは言えないので買いました。
とくに観終わって「これ、どういうことかな…」「もうちょっと詳しく知りたいな」と思うと、パンフレットを買ってしまいます。「もっと知りたいから」とういのが一番ですが、もう一つは「映画の狙いを読み取れているのかな」と気になるからです。手元に持っていると、もし映画の中身を忘れてしまっても後で見れば蘇ってくるじゃないですか。
観たのに「筋が思い出せない…」
たまたま3月10日に、配信で映画『ある男』を観ました。この番組でも一度、採り上げています。
映画『ある男』のバイプレーヤー・カトウシンスケに注目=2022年12月6日https://news.radiko.jp/article/station/RKB/79924/
映画館で『ある男』は観ていて、断片的な映像はいっぱい浮かぶのに、ストーリーが…。大事なところが、思い出せない。それで、配信でも観て「確かパンフレットがあったはずだな」と思って自宅の中を探しました。
出演は、妻夫木聡さんと安藤サクラさんに、窪田正孝さん。“亡くなった夫の身元調査”という不思議な相談を安藤サクラさんから頼まれた妻夫木さん演じる弁護士が、“ある男”窪田正孝さんの素性を探っていく。
そして、映画のキーパーソンが、刑務所に収監中の詐欺師・小見浦憲男。柄本明さんが演じています。すごく気持ちの悪い詐欺師を演じて、強烈な印象を残します。パンフレットに載っていたインタビューで、照明の宗賢次郎さんがこう言っていました。
――登場人物への照明の演出について教えてください。
例えば、城戸のアイデンティティが最も揺れる場面のひとつに、刑務所での小見浦との面会があります。あそこは撮影、照明、美術含め、石川監督とこれまで見たことのない面会室でいいんじゃないかという話になった。石川監督からは、気づいたら壁が動いていて、背景が変わっているとか、トリッキーなことをやろうと。それが小見浦の人物像に留まらず、彼が放つ気持ち悪さにつながるのではないかという発想で、そこから二転三転し、城戸が面会していると、気づけば小見浦の背中越しに雨が降っているという展開に落ち着きました。結果、上手くいったのではないかと思います。(映画『ある男』パンフレット32ページ)
室内で雨? 配信で観終わった僕は、気づいていませんでした。あまりに柄本明さんが気持ち悪くて、そっちに完全に気を取られていました。だけど、サブスクだから、観直せる。確認したら、本当に雨が降っているのです。雨音もしていました。
「こういう映画の観方は全然ダメだな」とも思った反面、パンフレットとサブスクがあることで確認できました。手元のパンフレットを見直したので、狙い・演出に気づいたのです。悔しくなる反面、気づかないままやり過ごさなくてよかったとも思いました。
『不適切にもほどがある!』との意外な関係
“ある男”窪田正孝さんの恋人役を演じていたのが、河合優実さんです。顔を見た瞬間に、「あ! 『不適切にもほどがある!』に出ている純子だ!」と思いました。TBSドラマ『不適切にもほどがある!』の主人公・小川市郎(阿部サダヲ)の娘、純子は高校2年生ですが、河合優実さんは今23歳。2022年公開の『ある男』でラブシーンも演じているのに、「演技とはすごいものだなあ」と思いました。
そして、『ある男』の子役、安藤サクラさんの中学生息子役にも注目しました。顔を見て、「絶対どこかで見たことがある」けど、思い出せない。映画のエンディングでは俳優名しか出ていなくて、役名とリンクしない。パンフレットを見ると、坂元愛登さんという名前でした。これで検索してみたら…。こちらも『不適切にもほどがある!』で河合優実さんを好きになる中学生、向坂キヨシだったのです! もうびっくりです。
実は『不適切』の最新回を録画で観て、直後に映画『ある男』を観たんですよ。なのに、気づきませんでした。
『ある男』で、中学生と、ラブシーンまで演じる大人の女性を演じていた2人。映画撮影から3年後のドラマでは、河合優実さんは高校生役で、坂元愛登さんは成長してすっかり大人の顔立ちになって、キヨシは純子を好きになってしまう。その2人が『ある男』に出ていたということも、パンフレットを手元に置いていたから、初めて分かりました。
僕は映画評論家ではありません。ただ映画が好きで、時々パンフレットを買っているだけです。ただ、そのパンフレットはずっと取っているので、年が経つにつれてどんどんたまっています。今日スタジオに持ってきたのはごく一部です。そのパンフレットが手元にあると、時間を超えてこんなこともできるのか、と思いました。まさか『ある男』が、ドラマ『不適切』にこんなにリンクしていたとは。
高いけど…パンフレットは面白い
『ゴジラ -1.0』のパンフレットもここにあるんですが、いっぱい線が引いてあります。この番組で以前採り上げた時、パンフレットを見ながら、僕が気づかなかったところを補ってお話をしました。昨日(3月11日)、アカデミー賞を受賞しました。候補作だったのでこのパンフレットを会社に持ってきていたら、RKBテレビの情報番組『タダイマ!』のMC宮脇憲一アナウンサーが熟読していました。番組が終わった後「すごく役に立ちました」と言ってもらえたので、買った甲斐がありました。
映画館という場で観るのが好きなのですが、サブスクでももう一度観られる。映画のパンフレットがあればさらに深まる。高いからいつもは買えないと思いますが「もう一度観たい」「将来また観てみたい」「胸を打たれた」と思う映画を忘れてしまわないための記録として、パンフレットはいいなあ、と思いました。でも、2回目をサブスクで観たのに、刑務所室内の雨に気づかない、非常に残念な私でした。
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この記事を書いたひと
神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。