「ウィシュマさんの死を忘れない」映画上映会を企画した若者たち
目次
2021年3月6日、スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が亡くなり、3年が過ぎた。「忘れてはならない」と声を上げた若者たちを、RKB毎日放送の神戸金史解説委員長が取材し、RKBラジオ『田畑竜介 Groooow Up』で紹介した。
問題だらけの「改正」入管法
2021年3月6日、スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が亡くなり、3年が過ぎました。この事件は、大きな波紋を呼びました。名古屋出入国在留管理局(入管)で、治療を求める映像が非常にショッキングで、国際的にも大問題になりました。
また、「出入国管理及び難民認定法」(入管法)の改正案が大変な批判を受けながら採決され、2024年6月に施行されることになっています。この法律は非常に問題点が多いのですが、こういう時期に、在日外国人の方たちへの日本の差別政策問題を扱ったドキュメンタリー映画『ワタシタチハニンゲンダ!』の上映会が3月17日午後、福岡県春日市でありました。司会者は、こんなあいさつをしています。
司会:改正法案に対して様々な疑問や問題点が指摘されていたことは、皆さんもニュースでご存知と思います。全く改善されないままに施行されるということに私たちが強い不安を感じています。私たちの住む福岡にも外国籍の方々が数多く暮らしています。これらの方々の権利は、今でも十分に保障されているとは言えません。改正入管法の施行によってさらに権利が軽視され、社会から排除する空気が強まっていくのではないかと私たちは危惧しています。ともに生きる私たちは声を上げる責任があるのではないでしょうか。
司会:私たちはそう考えて、6月9日からの改正入管法施行に、反対意思を示すべく、4か月連続してのアクションを計画しています。今日はその第1弾として、高賛侑(コウ・チャニュウ)監督のドキュメンタリー映画『ワタシタチハニンゲンダ!』の上映を行います。
「改正」入管法が施行されるのですが、「改悪」と言ってもいいと思います。そもそも、難民の認定率は本当に日本では低いのです。諸外国では20~50%程度ですが、日本は1%にも満たず、ほとんど受け付けていないと言ってもいいでしょう。何度も申請をしている人たちの中には、生命の危険がある方々も少なくありません。
今度の「改正」で、3回目以降の申請については、「相当な理由」を示さなければ本国への送還が可能になります。命の危険があるから逃げてきている人を、申請を受け付けずに返そうという「改正」です。だから「改悪」と言われています。
ウィシュマさんの死に義憤を感じる若者たち
映画そのものを観たかったということもありますが、今回の上映会の主催者が若い世代だというので、「社会運動をしている若者って、どんな人だろう」と思い、この人たちに会う目的で行ってきました。スタッフとして参加していた福岡市の会社員みなみさんは34歳です。
みなみさん:ウィシュマさんが亡くなられた時は、恥ずかしながら私も報道の中で知るぐらいだったんですけれども、改悪入管法のことが話題になる中で、自分もどんどん問題の内容を知って。
みなみさん:国民として反対の声を上げたくて、昨年の5月に福岡パルコ前でのスタンディングデモに、私も人生で初めて参加させてもらったんですけれども、悔しいことに昨年6月の国会で強行採決されてしまって、それに対して本当に反対の声をあげたいなという思いで、今回の上映会をやりたいです、と。
みなみさん:亡くなっていい命なんて本当にないですし、目の前に人がいるのに、入管の職員として人間がいるのに、(涙ぐみながら)なんで「食べられない」「体が苦しい」と訴えている方が命を落とさなければならないのかということに、強い疑問を持って。
みなみさんは話すうちに、涙ぐんでいました。ウィシュマさんの死に大きなショックを受けたことが、「普通の会社員」のみなみさんがこういう運動をしようと思ったきっかけでした。
映画『ワタシタチハニンゲンダ!』の叫び
ドキュメンタリー映画『ワタシタチハニンゲンダ!』は2022年の作品で、114分あります。監督を務めたのはノンフィクション作家の高賛侑(コウ・チャニュウ)さんは、在日コリアン2世です。
2021年3月、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(33)が名古屋入管で死亡した。彼女の死は長年ベールに包まれてきた入管の闇を明らかにするとともに、公権力による外国人差別の歴史を象徴する事件と言って過言ではない。
戦後、日本政府は、在日外国人の9割を占めていた韓国・朝鮮人の管理を主目的とする外国人登録法などを制定した。そして後年、他国からの在留者が増えると、全ての外国人に対する法的・制度的な出入国管理政策を強化してきた。
本作品では、全ての在日外国人に対する差別政策の全貌を浮き彫りにする。
人権侵害に苦しむ外国人が異口同音に訴える。
「私たちは動物ではない。人間だ!」
(映画『ワタシタチハニンゲンダ』公式パンフレットより)
https://ningenda.jp
「国際ニューヨーク映画祭」でベストドキュメンタリー賞、国内でも「むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」大賞を受賞しています。
動き始めたばかりの若者たち
実は「イベントの主催者団体はどういう名前ですか?」と聞いたんですが、まだ決まっていないそうです。上映会を主催した若者たちは、読書会をしている仲間がコアになって集まっていて、インスタグラムとX(旧ツイッター)で、「R4LM(リフォーム)BookClub Fukuoka」というアカウントを持っています。
インスタグラム https://www.instagram.com/r4lm_bookclub
X https://twitter.com/_R4LM
先ほども登場したみなみさんと、中心メンバーのよしひとさんに聞きました。ともに福岡市の会社で働く30代です。
神戸:メンバーはどの世代が多いんですか?
よしひとさん:20代とか30代ですね。
神戸:その世代の方々がいろんな活動するというのは、なかなか少ないですよね?
よしひとさん:東京だったらまだいるんですけど、地方都市になるとかなり少なくて。自分たちがやる前、メインは多分60~70代で、多分40代中盤・後半ぐらいの人が若手で数人いる、くらいなのが多分福岡で自分に見えている光景だった。
神戸:何かやってみた方がいいと、皆さんはお考えになったわけですね。
みなみさん:1年くらい前、初めてアクションに参加させてもらう前も、何か自分も何か声を上げたいけどなかなかそういう場所がなくて、でもきっと思ってらっしゃる人はいるだろうなと思っていた中で、何かそういったアクションの場に出会えたので本当にありがたいなと思っています。
神戸:今日は、開催してみてどうでした?
みなみさん:よかったです、本当に。皆さんに観ていただけて。交流会もすごく盛り上がっていて。ありがとうございます。
アクションを起こす若い人たちが増えることを
上映会には40人ぐらいが参加していました。感想を語り合う交流会もかなりにぎやかで、若者たちは初めて開いたイベントに手応えを感じたようです。
メンバーは、4か月連続でアクションしようと考えていて、4月には入管がある地区の公園で、各国のお茶を楽しむアクションの開催を考えています。5月には専門家と学習会ができないか、6月には路上を歩くマーチをやってみたい、と思っています。
さらに主催の中心になっているよしひとさんは、「反植民地映画祭みたいなことができないかな」とぼんやり考えていると話していました。在日の人々のこととか、イスラエルとパレスチナの関係、これも抑圧する側とされる側という形ですよね。抑圧されている立場の方を描いた映画を集めた上映会をしてもいいのかな、ということも考えているそうです。
「あまり政治のことに関わりたくない」という風潮もあって、若い人たちの運動は少ないですけど、福岡でもこんなふうに動き出している人も出てきています。
私は、国力の低下と若い人たちの意気消沈は関係しているような気がしていて、ものをちゃんと言う文化が若い人たちに広がっていくと、日本全体のためにもいいんじゃないかと思っています。ごく普通の人たちが声を上げ始めている姿を取材したのは、自分にとってもよかったと思いました。
映画『リリアンの揺りかご』上映
さて、TBSドキュメンタリー映画祭が3月29日、福岡市のキノシネマ天神で始まります。私が監督した映画『リリアンの揺りかご』(80分)は、3回の上映があります。
https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/
3月30日(土)14:00~(神戸監督の舞台登壇あり)
4月2日(火)14:00~
4月9日(火)13:45~
前売りに当たる「ムビチケ」と映画祭のパンフレットを3人の方に差し上げます。「神戸金史のBrush Up」「神戸金史のCatch Up」に関する感想やご意見、取り上げてほしいことをメール、ファクスでお寄せください(ご批判でもかまいません)。締め切りは3月22日(金)です。ただし席の予約はご自身でお願いします。上映の2日前から劇場窓口やインターネットで予約できます。
メール:gu@rkbr.jp
FAX:092-844-8844
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この記事を書いたひと
神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。