ライバル局幹部も登壇!ローカル局発のドキュメンタリー映画上映会
福岡市で開かれているTBSドキュメンタリー映画祭で、RKB毎日放送の神戸金史解説委員長が監督を務めた映画『リリアンの揺りかご』の上映が始まった。3月30日に開かれたトークイベントでは、九州朝日放送(KBC)臼井賢一郎解説委員長が登壇。ドキュメンタリー制作のライバルで盟友の2人が語った内容を、4月2日のRKBラジオ『田畑竜介 Groooow Up』で紹介した。
RKB発のドキュメンタリー映画2本を上映中
TBSドキュメンタリー映画祭・福岡会場が始まりました。RKBからは大村由紀子ディレクターが監督した『魚鱗癬と生きる 遼くんが歩んだ28年』と、私の『リリアンの揺りかご』の2本を出品しています。会場は福岡市中央区警固のキノシネマ天神で、それぞれ3回上映されます。
『リリアンの揺りかご』は、やまゆり園障害者殺傷事件やヘイトスピーチなど、現代日本に広がる様々な不寛容の場面を、監督の私が訪ね歩きます。私の子供に障害があることもあって、当事者の1人として取材をしていく映画です。
ライバル局からあえてゲスト出演
3月30日の初回上映後では監督として舞台あいさつがあり、ゲストとして、九州朝日放送(KBC)の臼井賢一郎さんに登壇してもらいました。誰を呼ぶかと考えていたとき、私が「KBCの臼井解説委員長はどうでしょうか?」と提案したら、TBSの映画祭事務局も「受けてくれるのだったら」という答え。
朝のテレビ番組で顔が広く売れている臼井さんですから、熱烈な臼井ファンも来てくれるのではないかと期待しつつ、依頼したら「いいよ」と二つ返事でした。系列も違うTBSドキュメンタリー映画祭に登壇してくれるなんて、さすがですね。
司会は、福岡で映画の面白さを広く知ってもらおうという活動をしている、「福岡映画部」の石渡麻美(いしわたり・あさみ)さんでした。
KBC臼井賢一郎解説委員長:今日初めて、『リリアンの揺りかご』を拝見しました。神戸さんの息子さんの成長も見ながら、「人間は100年単位でも全然変わらない」という、すごいものを見せつけられたという感じがしました。この20年ぐらいの人々の変わりっぷり。ネット社会ということもあるけれども、言いたいことを言っちゃう社会になっていることは、今日的な大変な課題ですよね。
KBC臼井賢一郎解説委員長:去年僕が見た『福田村事件』という映画でも、いくら説明しても聞いてくれない恐ろしい空気感が醸成されていました。それがずっと変わらず、現代になってまた妙な形で出てきているところがある。神戸さんの去年9月1日の取材に私も衝撃を受けて、記者の立場として受け止めた感じがします。
映画『福田村事件』でも描かれた虐殺
「去年9月1日の取材」というのは、関東大震災から100年が経った2023年9月1日、東京都での取材です。100年前に植民地支配下に置かれていた朝鮮人が日本にもたくさんいて、虐げられている彼らが震災の直後に立ち上がるのではないか、攻撃してくるのではないかと恐怖感を抱いた人たちが暴走して、あちこちで数千人が殺されてしまった事件です。日本史上の最大汚点と言ってもよいです。
臼井さんが見たという映画『福田村事件』(森達也監督)は、2023年9月1日公開です。朝鮮人だと思って攻撃しようとした相手は、実は日本人。方言で言葉がちょっと違い、殺されてしまった人たちがいたという史実をベースにした映画です。
※神戸解説委員長も2023年9月12日に、この番組で紹介している。
関東大震災後の“日本人虐殺”を描いた映画『福田村事件』の衝撃
https://news.radiko.jp/article/station/RKB/95162/
多くの人が目撃しているのに、「そんなことを日本人がするわけないじゃないか」と思い込んでいる人たちがいます。「虐殺なんてなかった」というのは完全にデタラメなのですが。
映画『リリアンの揺りかご』から
朝鮮人追悼式典があった9月1日当日に、「日本女性の会 そよ風」という団体が集会を開きました。東京都の小池百合子都知事が集会を許可しているので、混乱が広がっているのです。現場の取材で、虐殺の歴史を掘り起こしてきたノンフィクション作家、加藤直樹さんと会いました。映画『リリアンの揺りかご』から、少しお聴きください。
加藤直樹さん:今回彼らは、心にも思っていない「朝鮮人の追悼」と言い出したわけですよね。これは、最悪の冒涜だと思います。例えば、ベルリンでネオナチがホロコースト犠牲者の追悼碑の前で「ユダヤ人の追悼を行います」という風に言い出したらベルリン市が認めるか、ということですよね。
神戸:小池百合子都知事の責任は大きいですね。
加藤:大きいです……それは、本当に大きい。
ナレーション:虐殺された人数は正確にはわかりません。加害者が正式に起訴された事件で、殺された朝鮮人の数は233人にとどまっています。
そよ風の声:ご先祖の名誉を守るための行進を開始します。
神戸のナレーション:「そよ風」が言う、“真実の慰霊祭”。朝鮮人の犠牲者は233人だけであり、その人たちは日本に対する暴動を起こしたので正当防衛ではあるが、慰霊はしよう、というのです。
抗議する人々の声:レイシスト帰れ!
神戸のナレーション:いろいろな意見があれば、それぞれをきちんと報じる「中立報道」が、報道機関の原則です。しかし、事実と、歴史修正主義によるデマを、同等に扱うことは、むしろ職業倫理に反すると、私は考えています。
そよかぜに質問する記者:関東大震災では何があったと?
そよかぜの男性:こういう暴動が起きたんだよね。
神戸:「6000人が多すぎる」という意見があるのは分かりるんですけど、230人というのは少なすぎませんか?
そよかぜの女性:あの災害だったら、どんだけでも亡くなっているでしょ。日本人だって何万人も死んでいるし。
神戸:虐殺された人が…。
女性:虐殺してませんて。
男性:俺が調べたのでは、ないけどね。
女性:「そんな事実ない」と聞いてますよ、日本人側としてはね。
「そんな事実ない」と言っていますが、日本人の目撃者もいっぱいいます。認めたくない気持ちは僕も同じですが、実際に起きてしまった事実は踏まえていかないといけません。「忘却は再び虐殺を引き起こす」という発言も現場でありました。
「そのつど答えは“格闘”」
臼井さんが言うように、ネット社会の中で暴走が起きています。これが追悼式典の様子でした。さらに加えて、やまゆり園障害者殺傷事件やヘイトスピーチなどを取り扱ったのが、この映画『リリアンの揺りかご』です
KBC臼井賢一郎解説委員長:何と言っても、リアルな現場にいて、その当事者であるのが、我々取材記者であり、ディレクターであり、神戸監督です。ファクトじゃないことを言ってファクトにしようとしている。非常に難しい問題を提起している。今は、「出さないと公正じゃない」と必ず言ってきます。でも「絶対これ違うな」と言いたくなる部分もある。我々自身、そのつど答えは“格闘”だと思っています。「こうすれば、こう」みたいな簡単なものじゃなくて、自分たちの取材結果も踏まえて、過去の記録も踏まえての判断かなと思います。
RKB神戸金史解説委員長:今日、ニュースの仲間も会場に来ているんだけど、日々僕らはそういうことに直面して「どうしたらいいんだろう」と考える。「こういう意見もあります、ああいう意見もありました」で終わるのが一番楽なんですよね。でもそれをやっていたら、デマを本当に信じちゃうんじゃないかと思います。
映画『リリアンの揺りかご』はかなりハードなドキュメンタリーです。4月2日と9日にも上映があります。『魚鱗癬と生きる 遼くんが歩んだ28年』は4月4日と10日上映です。キノシネマ天神に足をお運びください。
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう
この記事を書いたひと
神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。