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川勝平太静岡県知事の差別発言は「知性への執着の表れ」松尾潔が分析

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4月1日に行われた静岡県庁の入庁式の訓示で職業差別と捉えられかねない発言をした川勝平太知事が翌日、辞職を表明した。この発言の根に「川勝知事の知性への執着がある」と分析するのは音楽プロデューサー・松尾潔さんだ。4月8日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で「知性の使い方」について語った。

得票率7割を超える人気ぶり

川勝平太静岡県知事の一連の発言、およびそれに伴う行動を改めて考えてみます。川勝氏は元々学者、アカデミズムの世界にいました。40代前半で自身の出身校でもある早稲田大学政治経済学部の教授になり、気鋭の経済学者としてよくメディアに出演していました。

京都出身ですが、そのあと静岡文化芸術大学の学長に就任して、それが縁で人生の大半を静岡で過ごすことになります。県知事選に最初に出馬したのは2009年。そのときは僅差で当選しましたが、それからは結構な人気ぶりで、特に2期目のときは得票率7割を超えたことは語り草になっています。

キャッチーな文言を連発する演説のうまさ

失言があったときだけ注目を浴びることが多いので、地元で見る川勝氏の人気ぶりと、全国的なメディアを通してみる姿とでは、温度差があるということは考慮しなければならないのかなと思います。

政治家として、知事としての彼の最大の特徴は「うまい人だな」という一言に尽きます。どういうことかというと、まず演説がうまい。失言にもなりかねないようなこともあるんですが、キャッチーな文言をバンバン連発する。

まず、国との対立軸を据えるんですね。リニアの話がいい例で「国益かもしれないけれども、われわれ静岡県民としてはどうなんですか?」というように、静岡ナショナリズム、静岡の郷土愛に火をつける話し方が優れていると思います。

これは、程度の差はあれ全国のほかの知事もこういう話法、論法を使っているのではないでしょうか。地方選挙がポピュリズム、人気投票になってしまうというのは、限られたコミュニティだと程度の差はあれ、どうしても発生してしまうことだと思うんです。

“リスト”ができるほどの失言の多さ

ただ、それが長期政権になったときに、ストレートに言うと「増長してしまう」という例を今回見せつけられました。もともと川勝氏はこれまでにも多くの失言がありました。ネットに「失言リスト」ができているぐらいです。

有名なところだと3年前(2021年6月)、「顔の綺麗な子はあまり賢いことを言わないと綺麗に見えない」。あとは同年10月の参議院補選の応援演説で、御殿場市長をしていた対立候のことを引き合いに出して「御殿場ってのは、コシヒカリしかないからね」と。「静岡の経済の中心の一つである浜松から(参議院議員を)出すべきだ」と主張するためだからといって、相手をそんなに下げなくていいのでは? と思いますよね。

自らの「知性」に対する揺るぎない自信と執着

何でこんな失言を繰り返すのか。恐ろしい話ですが、川勝氏は自身が高い知性にあふれた人物であるということに対する揺るぎない自信があるんですよ。彼の話を聞くと、その「知性」への執着がずっとあるなと思うんです。

2020年には、当時の菅義偉首相による日本学術会議の任命拒否問題が問題になりましたが、その時「学者軽視、アカデミズム軽視」とされた菅首相に対して川勝氏は「教養レベルが図らずも露見した」「あの人は学問をされた人じゃない」みたいなことを言っています。

「ハレーション起こしたくて敢えて言っているのかな?」と、訝しく思ってしまうぐらいです。彼からすると、大学の学長まで務めた自分が言うから、アカデミズムに関しては、首相よりも自分の方に説得力があるという揺るぎない自信があるんだと思います。だけど、僕に言わせるとそれはあくまで彼の定義する知性ですよね。

「知性」の使い方

その知性という言葉を使って、今回はいちばん言っちゃいけないことを言ったわけです。改めて紹介すると、静岡県庁入庁式の訓示での「野菜を売ったり牛の世話をしたり物を作ったりとかとは違い、基本的には皆さんは頭脳や知性の高い方」というくだりです。

これはおそらく「皆さんは公僕として、誇りを持ちましょう」という意味だったんでしょう。あのとき「県庁はシンクタンクだ」とも発言していましたが、このあたりでもし「カタカナ語を出せばグレードアップした」ように思っているのだとしたら、いささか古い感性を持っているな、と僕は思いました。もっともこれは、僕が住んでいる東京の小池百合子知事もよくやる方法です。

僕は「知性というものは正しく使いましょう」と言いたいんですが、最後にお話したいのが僕の友人でもある、ゴスペラーズの酒井雄二さんのことです。酒井さんは音楽仲間の間では、とてもユーモラスで知性もあるバランスの取れた人で、人格者として定評のある人です。その彼が4月3日にこんなポストをXに投稿しています。

 

「農業にも高い知性は存分に生かせますよ。役立つ局面は多岐にわたると思います。(梨農家に生まれた私の体感です)」

くすっと笑えるような、でもリアリティのある言葉ですよね。僕は、知性というのはこのようにして使うものじゃないかなと思っています。

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