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大阪地裁

死刑に賛成?反対?ラジオスタジオでも割れた意見…まずは議論を

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死刑執行の“当日告知”をめぐる大阪地裁での裁判は、死刑囚側の訴えが、全面的に退けられた。判決翌日の4月16日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した、RKB毎日放送の神戸金史(かんべ・かねぶみ)解説委員長は、死刑について田畑竜介・橋本由紀両アナウンサーとともに死刑制度について意見交換をした。

死刑執行国は少数に

死刑囚側の訴えを全面的に退ける
死刑執行の“当日告知”をめぐる裁判
「人間の尊厳」の面でも憲法に違反などとして訴える(毎日放送)https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1115941

神戸金史解説委員長(以下、神戸):死刑制度は世界的にみると、廃止・停止しているのは199の国と地域のうち、144と、非常に多くなってきています。法務省の「死刑存続と廃止の論点」という資料から引用します。
https://www.moj.go.jp/content/000053167.pdf

【死刑廃止の立場】
① 死刑は、野蛮であり残酷であるから廃止すべきである。
② 死刑の廃止は国際的潮流であるので、我が国においても死刑を廃止すべきである。
③ 死刑は、憲法第36条が絶対的に禁止する「残虐な刑罰」に該当する。
④ 死刑は、一度執行すると取り返しがつかないから、裁判に誤判の可能性がある以上、死刑は廃止すべきである。
⑤ 死刑に犯罪を抑止する効果があるか否かは疑わしい。
⑥ 犯人には被害者・遺族に被害弁償をさせ、生涯、罪を償わせるべきである。
⑦ どんな凶悪な犯罪者であっても更生の可能性はある。

【死刑存置の立場】
① 人を殺した者は、自らの生命をもって罪を償うべきである。
② 一定の極悪非道な犯人に対しては死刑を科すべきであるとするのが、国民の一般的な法的確信である。
③ 最高裁判所の判例上、死刑は憲法にも適合する刑罰である。
④ 誤判が許されないことは,死刑以外の刑罰についても同様である。
⑤ 死刑制度の威嚇力は犯罪抑止に必要である。
⑥ 被害者・遺族の心情からすれば死刑制度は必要である。
⑦ 凶悪な犯罪者による再犯を防止するために死刑が必要である。

神戸:死刑存続の①「自らの生命をもって罪を償うべきである」に共感する人が多いかもしれません。⑤「犯罪抑止」は、廃止論の⑤と正反対の結論ですね。

えん罪? 執行された死刑囚の「辞世の句」

神戸:橋本さんは、死刑についてどんなふうに考えていますか。

橋本由紀アナウンサー(以下、橋本):私はこれまで、結構被害者遺族の心情の方を考えて「(死刑制度が)あった方が(いい)」と思っていたんですけれど、最近ドラマや映画を観たのをきっかけに、死刑について考えていました。ひとつは亀梨和也さん主演の『正体』というドラマ。えん罪で死刑が決まって、刑が執行される前に脱走して無実を証明していく、というストーリーです。もうひとつ、パク・シネさんが出演している映画『7番房の奇跡』はえん罪で死刑が執行されてしまう内容で、韓国でもすごく話題になっています。

神戸:死刑はあった方がいいのではないか、と思っていたけれど…。

橋本:えん罪に注目するようになりました。

神戸:実は「福岡事件」と呼ばれている殺人事件が、戦後まもなく起きました。死刑を執行された人物は、実はえん罪の可能性が高いのではないか、と言われているんです。死刑執行の直前に読んだ時世の句が残っています。

叫びたし 寒満月の 割れるほど

神戸:「寒満月」は、冬の満月です。

田畑竜介アナウンサー(以下、田畑):「無実を訴えたい叫び」なんですかね…。

神戸:事実関係はわからない前提ですが、この句の迫力。えん罪の可能性が強いのではないかと思わせます。

死刑「廃止」「存続」 アナウンサーたちも意見割れる

神戸:私自身は、「死刑は廃止だろう」と、ずっと昔から思っています。田畑さんは?

田畑:僕も、最高刑は無期懲役がいいんじゃないか、と。

神戸:理由は何ですか?

田畑:まず、人が人を殺すのはよくない。法治国家の判決によって、結局死刑で人を殺してしまうことにつながる、というのは、何か矛盾しているんじゃないかと。

神戸:なるほど。僕も同感です。殺人罪を犯した人間に対して「死をもって償わせろ」という感覚は、被害者感情、国民感情としてわかるんですけど、1人殺しただけではほぼ死刑にはならないですよね。判例の基準がありますから。2人以上です。

神戸:  つまり、自分の家族が1人殺されても相手は死刑にはならない、ということです。「死をもって償え」「自分の家族が殺された時、犯人を死刑にしなくて許せるのか」と言われても、現実論として、ほとんどの場合は死刑にはならない。感覚的に「自分の家族が殺されたら死刑」というのはわかるけれど、ほとんどそうなってはいない、という現実があります。

神戸:また、死刑がなくなっている国、停止されている国でも、被害者感情は同じですよね。これでは、あまり死刑存続の理由にならないんじゃないか、と僕は思っています。

死刑廃止論を揺るがした映画

神戸:国が命を奪う死刑については、基本的にはずっと否定的だったんですが、ある映画を観て、私は逆の感想を持ちました。その映画とは『デッドマン・ウォーキング』(ティム・ロビンス監督、1995年公開)です。死刑囚と、死刑囚をずっと世話をしていく尼僧の物語なんですが、最後は非常に残虐な形で死刑を執行されます。死刑廃止論から原作も書かれ、映画も作られたと言われています。

神戸:死刑に至るまでの過程で、どんなことが起きているか。人はただ生きているだけではなく、もし本当に罪を犯したとしたら、いつ死刑を執行されるのか、と怯えて過ごしていくわけですね。刑罰としての死刑は「すぐに執行してしまえばいいんじゃないか」と言う人もいるけれど、私はこの映画を見て「逆だな」と思いました。

神戸:死刑があるのであれば、しっかりと考えて苦しむ時間を作ることこそが償いにつながるのではないか、と考えました。僕が唯一、死刑存続に理由があるのではないかと考えられるのは、その時間をどう過ごすか、です。自由を奪われ、死刑がいつ執行されるかわからない状況で。

神戸:今回の大阪地裁判決でも、事前に執行を伝えるのは、心身が不調になり、告知自体が非常に残酷だという意見もあったようですが、私はそれ自体が刑罰なのではないか、今の死刑について「認める」とすれば唯一この点だけがあります。

神戸:基本的には廃止していくべきだと思っていますが、いろいろ議論をして考えていく必要はあります。突然誰かに聞かれたら「死刑はあっていいんじゃないか」と普通は答えますから。議論していないからこそ、8割が死刑に賛成なんだろうと思っています。

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。