韓国・ソウルで5月27日、4年半ぶりとなる日本・中国・韓国の3か国首脳会談が開かれた。東アジアの安全保障も大きなテーマになったが、同日夜に北朝鮮は軍事偵察衛星の打ち上げを強行した。また、新しい総統が誕生した台湾を囲むようにして、中国は大規模な軍事演習を展開している。東アジアの不安要素は消えないが、5月30日RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した、飯田和郎・元RKB解説委員長は「中国が主体となったもう一つの軍事演習」に注目しているという。
中国の軍隊が「指導する」合同軍事演習
中国が踏み切った台湾近海での軍事演習は、独自路線を目指す頼清徳政権への圧力にほかならないが、効果はどうだろうか。台湾市民の「中国離れ」が進むだけかもしれない。その台湾近海での軍事演習とは対照的に、日本のメディアではあまり報道されていない、もう一つの軍事演習に注目したい。こちらは中国単独ではなく、中国が主体となっているカンボジアとの合同軍事演習だ。
カンボジアといえば、中国との関係が緊密な国の一つ。海洋進出を続ける中国に対し、ASEAN(=東南アジア諸国連合)が一枚岩になれないのは、中国と近い関係にあるカンボジアとラオスの存在があるからだといわれる。
カンボジア国内のインフラ整備の多くは、中国が担う。政権も中国が後ろ盾のようになっている。そのような蜜月関係を背景に、中国とカンボジアの軍による合同演習が5月15日から30日まで行われている。
この合同演習の名称は、英語表記で「ゴールデン・ドラゴン2024」。中国の国営メディアは、カンボジアで行われているこの演習について「中国とカンボジアが運命共同体であることを具体的に示すもの」と誇示している。
この演習、中国人民解放軍の機関紙「解放軍報」の報道によると、目的は「テロリズムへの対処」、それに「人道主義的な救援活動のレベル向上」だという。具体的には、市街地でテロ行為が起きた時にどう封じ込むか、また山岳地帯に敵が陣地を設けた場合、どう壊滅するか…などなど。海上においても、遭難者の救助や、船舶の乗っ取り=シージャックへの対処などを訓練する。
中国、カンボジアから兵士2000人以上が参加しているこの演習。2か国による合同演習の形式だが、両国の関係からわかるように、「中国の軍隊が、カンボジアの軍隊を指導する」という主・従の関係と言ってよいだろう。カンボジア南部にあるシアヌークビルという港には、合同演習開始を前に、中国の艦船が運んできた中国の装甲車や武器が陸揚げされた。
中国が先頭を走って開発した“秘密兵器”
この合同演習「ゴールデン・ドラゴン」は毎年、実施されている。ただし、ここからが注目点。この演習で、初めて中国の、いわば秘密兵器が登場した。犬型ロボットだ。
(CCTV Video News AgencyのYouTubeチャンネルより)
見た目はまさにロボットの犬。4本の脚で自由に走り回り、前に進む、寝そべる、跳躍する、後ずさる…という動作は犬と同じだ。人間に対して「お手」までする。AIの機能が備わっているのだろう。前方に障害物を見つけたら、それらを避けて、進める方法を自分で考え出す、と紹介している。
この犬型ロボットは2種類ある。一つは体重15キロ。連続して4時間まで動き回れる。もう一つは体重50キロを超える。そして80キロ以上のものを背負える。つまりこの大型の犬型ロボットの背中に、銃など様々な攻撃用武器を装着することが可能で、銃弾を発射することもできる、というわけだ。
これも、中国メディアによるものだが、実際の戦場や、テロが起きている現場において、偵察要員の代わりに、この犬型ロボットが危険な場所を偵察できるという。とりわけ、銃器を装着できる大型の犬型ロボットは敵に向かって銃弾を発射し、攻撃ができる。つまり、兵士の人命を損なうことなく、敵にダメージを与えることが可能、ということだろう。
空を飛ぶドローン(無人機)の中にも偵察だけではなく、攻撃が可能なものがある。ウクライナでの戦争においても、ロシア、ウクライナ双方が使っている。犬型ロボットは、地上での無人攻撃で活用できる。中国の軍部に近いメディアには、このような分析がある。
「犬型ロボットが軍事演習に登場し、任務を遂行した。このことは、中国人民解放軍にすでに配備されたことを意味するのか、そして近未来の戦争を変えることを意味するのか」
「犬型ロボットを最初に開発したのは中国ではなく、アメリカだった。だが、アメリカは犬型ロボットが出す音が大きく、システムが複雑なため、犬型ロボットの研究開発を断念している。システム化を最初に実現したのが中国人民解放軍である」
中国メディアの解説がそのとおりなら、戦争に使える犬型ロボットの開発は、中国が先頭を走っている、ということだ。
「軍民一体」となって武器ビジネスも目論む?
ここで気になることがある。中国で犬型ロボットを開発してきたのは、軍だけではない。大手の家電メーカーも手掛けてきた。購入したのは主に独り暮らしの人で、主にペットとして側に置いている。高齢者や、障害を持つ方々に、人気を集めている。
この犬型ロボットを販売している中国の大手家電メーカーを、アメリカ国防総省は軍事関連企業に認定している。つまり、この家電メーカーが中国人民解放軍の先端技術開発を支援するというのだ。中国の産業界において、「軍民一体」が当たり前ならば、この犬型ロボットの開発も例外ではない。中国らしいといえば、中国らしい。
それにしても、軍事情報を公表したがらない中国はなぜ、今回、この犬型ロボットを、国営メディアを通じて紹介したのだろう。ポイントは、カンボジアとの合同演習で使ってみた、ということだ。冒頭で紹介したように、影響力を発揮しているカンボジアで行なった合同軍事演習は、新型ロボットをテストしやすい環境があった。つまり、中国国内ではなく、環境の異なる中で、使えるかどうか。そして、成功した。だから国営メディアが報じたというわけだ。
同時に、中国の軍事技術の高さを、海外に向けてアピールできる。国外への武器輸出・武器販売というビジネスにおいても、今後、期待できる商品になるという計算も働いているかもしれない。大規模な兵器に比べれば、値段も張らないはず。それが犬型ロボットだ。
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この記事を書いたひと
飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。