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福岡市天神に翻ったパレスチナの旗

「簡単に殺されていい社会を作らせるな」パレスチナに思い寄せる写真家

radikoで聴く

パレスチナ自治区・ガザ地区の危機的な状況に、胸を痛める人が世界中にいる。福岡市でのデモを取材したRKB毎日放送の神戸金史解説委員長は、パレスチナやイスラエルと何度も旅した写真家の女性に会った。ちょうど35年前に中国で軍がデモ隊を武力鎮圧した天安門事件が起きた6月4日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で彼女の思いを紹介した。

「攻撃されているのはガザだけではない」

先週(5月28日)の放送で、人道危機にあるパレスチナ・ガザの状況を踏まえて、福岡市中心部の天神でデモが行われたことをお伝えしました。

5月26日に福岡市中心部を歩いたデモ

今も日々、和平合意に至らずイスラエルの内閣の中でも意見が割れてきているなどいろいろなニュースがありますが、状況は変わっていません。5月26日に行われたデモの様子をお聴きください。

デモ隊:フリー、フリー、ガザ! フリー、フリー、パレスチナ!

天神で約300人が街を歩きました。その中に、福岡市在住の写真家、菅梓(すが・あずさ)さんもいました。パレスチナには特別な愛着を持っています。

菅さん:菅さん:占領下にあって、特に今はガザもご存知の通りですけど、ガザだけじゃなくて、ジェニン、トゥルカレム、ジェリコ、ヘブロン、東エルサレム、ベツレヘムと、(ヨルダン川)西岸地区のどの場所も激しい攻撃を受けています。今はみんなでグローバル化とか国際社会と言っているんだから、こんな状況を許していたら、私達に何かあった時も誰も助けてくれなくなる。やっぱり、弱い人たちが簡単に殺されていい社会なんか作ってはいけないと思います。

パレスチナに愛着を抱く写真家

福岡市在住の写真家、菅梓さん

菅さんとは半年ほど前に、なじみの居酒屋で知り合いました。その時に、『聖地パレスチナ一人散歩』(2021年)という小冊子をいただきました。写真家として、世界50都市以上を回っていて、特にパレスチナには12回も渡航しています。手記には、非常に人懐こい人たちが登場してくるので「素敵な場所だな」と思いながら読みました。

偶然会った菅梓さんからいただいた小冊子

先週の放送で、私はこう言いました。「福岡市の人口とほぼ同じ160万人が、博多区と同じ面積のラファに避難していて、閉じ込められた。そこが空爆などの攻撃の危機にさらされている」と。これは、菅さんから聞いた内容です。

歴史に残る惨事が私たちの目の前で繰り広げられている。パレスチナのガザ地区はここ福岡市と同じ程度の広さで人口は220万人もいる。そのうち3万人以上がこの半年で殺された。医者も看護師も人道支援のために活動していた人も殺された。

「避難しろ」と言われその避難先となった町、ガザ南部のラファは博多区と同じ大きさで160万人が避難し動けない状態になった。そのラファさえも出て行け、どこかに避難しろと言われている。いったいどこに? テントシティーとなっているラファさえも攻撃の的となりさらに被害者が増えている。この殺戮を止められるのは私たちしかいない。パレスチナ人が殺される度に私たちのヒューマニティーは消えていっている。

「パレスチナ人が殺されているのを見て見ないフリをするのは簡単だ。しかしそれは自分たちの自 由と安全を手放すことになるだろう。目の前で行われる民族浄化を見なくてもいいという前例を作ってしまうからだ。前例を作れば自分たちに降りかかることを承認することになるからだ。

ニンゲンはそのヒューマニティーを失うのか、それとも最後まで諦めずヒューマニティーを手放さずニンゲンとして生きていくのか、今がその瀬戸際だ。

(菅梓さんのホームページより)https://azursuga.com/

イスラエルで戦争に反対する人も

改めて、菅さんにインタビューしました。

神戸:梓さんにとって、パレスチナはどんな土地ですか?

菅さん:一言で言うのは難しいんですけど、とても素敵なところです。行った時に、パレスチナ人の人たちはみんな温かくて、いつも家に招待してくれて、「コーヒー飲んで行け」とか「泊まるとこあるのか」「泊まっておけ」とか、本当に旅人にとってとても親切にしてくれる国民性なんですね。食事一つにしてもいろんな歴史の話が詰まっていて、それをお母さんたちに教えてもらったりするのもすごく楽しい、そういう場所ですね。

神戸:イスラエル人とも、いろいろな交流があるのではないですか?

菅さん:はい、あります。イスラエルには、イスラエル国籍を持つパレスチナ人もいるので、「イスラエル人」と一言で言っても、みんなそれぞれ感じること、考えていることが違うな、というのがイスラエルに行った印象です。

神戸:実際に顔の見える人たちの地域で戦争が起きているのは、非常につらいことですね。

菅さん:つらいですね。イスラエル人の知っている人たちでも、「今のガザに対する攻撃をやめろ」と運動している人もいれば、そうじゃない人もいるし。何かをインスタグラムとかソーシャルメディアに上げたことで逮捕されるかもしれないと、何も言えない人もいるんですよね。なので、本当にみんなの心の不安定さはとても気がかりというか心配しています。

国籍や国で一概に言ってしまうのは簡単で、ネット上にありふれています。けど、そこで暮らしている一人ひとりはそれぞれですよね。簡単に差別してしまうことの無意味さも感じました。

デモの意味を考える

菅さんに、デモの意味を聞いてみました。

「パレスチナに平和を」と訴えたデモ

神戸:世界史を見れば、民衆運動がいろいろなことを動かしたことは明らかですが、日本人はその実感にちょっと欠けているかな、と僕は感じていますね。

菅さん:そうですよね。でも、日本でも昔は女性に選挙権がなかったけど、今は選挙にももちろん行けるし、立候補だってできる。そういったことも、市民が勝ち取ってきた権利です。でも権利が自分にあると、当たり前で、その権利を持っていることも忘れてしまうんですよね。特に、自分がマジョリティに属していると、「どれだけ自分が下駄を履かせてもらっているか」をなかなか実感しづらいです。少しずつみんなが想像してもらったらいいなと思います。

菅さん:今ってすごく忙しい時代で、情報も早いし考える余裕のある時間がすごく少ないので、どんどんその分想像する時間や想像力も少なくなっていってしまっているのかな、と思うんですよね。人道支援の世界で長く働いてきた人に教えてもらったのは、「人道支援の業界で、一番大切なのは想像力だ」と。「どの世界に行ってもとても大切なことだな」と感じました。

菅さん:自分の好きな情報だけを取りに行ける時代だから、こんなことが世の中で起きていることすら知らない人もやっぱり大勢いて、だからデモをやることはすごく意味のあることだと思っています。普段Xとかインスタで自分の好きなことしか調べない人がいて、私達がデモで声を上げたりすることで、その人たちが「何やってんのかな?」「虐殺を止めよう」という言葉だけ聞いたら「え? 何が起きてるの」と少しでも耳に入るし、そういう意味ではデモはとても意味のあることだし、知らせる一つのチャンスだし、ツールだと思います。

想像することがとても大事だ、と。自分たちが今持っている権利は、闘って得られたもので、日本でも昔、女性は選挙権がなかった。NHK連続テレビ小説の『虎に翼』みたいな話ですよね。女性に選挙権もない、就職もできないという話を聞くと、想像の幅がすごく広がると思うのです。

若い世代が増えているデモ

デモを見てちょっとでも気になったら飛び入り参加してみるのがよいと思います。中国で天安門事件(1989年6月4日)が起きて35年。東京でその抗議デモに参加した私は当時22歳、デモに参加したのはこれが最初で、記憶の中に強く残っています。天神で開催されたデモには、若い世代が目立ちました。

デモには若い日本人も多かった

菅さん:高校生もいましたし、10代20代の人たちがすごく多く参加していたのがとても印象的でした。自分たちと同い年ぐらいの人、もっとちっちゃい子供たちが理由なく殺されていくのを見ているだけなんて、どうしたらいいの?ということで来ている人が多いですね。

菅さん:デジタル・ネイティブの世代の人たちは、他の国の状況もネットで見られ、例えばアメリカの大学生たちが連帯して大学でテント張って抗議運動しているというのもみんな知っていて、「こういうやり方があるんだ」と知って声を上げることをやってる人はけっこういます。地域紛争の側面よりも、人道とか、人としての尊厳が踏みにじられているところにフォーカスして行動してる人の方が多いし、インスタを見てもそういう発言してる人の方が多く感じますね。

菅さん:20代の人たちは、生まれたときから「失われた何十年」と言われ、その時代しか知らない世代だから、自分たちの生きてきたこの閉塞感とか、「なんでこうなんだろう」と思った時に、この国際社会とのつながりとか、パレスチナで起きている残虐なこととかが、やっぱり他人事じゃないと思えるんだろうな、と感じたりします。

若い世代で多数派になっているとまで私は思っていませんが、そういう人たちが明らかに生まれていて、インスタを交換し合っている高校生はデモの中に実際いました。こういう広がりが、とても大事です。「デモやって何か意味あるの?」と冷笑する人たちがいますが、冷笑しているくらいなら「50メートル、一緒に歩きませんか?」と思います。

今週末の6月8日、12時に福岡市の天神パルコ前に集合し、イスラエルに関係しているとみられる企業に対する抗議行動を行うそうです。知る機会につながるし、見に行くだけでもいいし、手を振るのもいいし、一緒に歩いてみるもいいし。何かしてみたら、と思います。
 

「STOP! ラファ攻撃 始めよう、イスラエルボイコット運動」
主催:福岡パレスチナの会
連絡先:070-8795-6648(沖園リエ)

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。