アナウンサーデビューを「初鳴き」という。私はその「初鳴き」を7月31日に終えた。
地道な発声練習を1カ月行った。練習すれば自信がつくと思っていたが、むしろ「ことば」を発することが怖くなった。
「なんでできへんのやろ……」
故郷の兵庫を離れて半年。封印していた関西弁でつぶやくことも増えた。
迎えた「初鳴き」の日。朝から何も喉を通らない。原稿に目を通し、放送10分前にスタジオに入った。準備までは完璧だった。生放送のスタジオから先輩アナに呼びかけられ、緊張はピークに達した。夢だったアナウンサーになったことを実感し、マイクのスイッチを入れる手が震えた。スタジオから逃げたくなった。しかし、始まったら読むしかない。ただひたすら目の前の文字を追った。ニュースは「理解して伝えること」と教わったが、読むことに必死だった。
読み終えてスタジオを出ると、外で多くの先輩が見守ってくれていた。「子どもの巣立ちを見届けたよう」と話してくれる先輩もいて、親元を離れた私にとって心強さを覚えた瞬間だった。
どんなアナウンサーになれるのか、まだ想像もつかない。今はまだそれでいい。毎日が初めてで楽しいのだから。
9月7日(土)毎日新聞掲載
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