連続企業爆破事件で指名手配され、約半世紀にわたって逃走した桐島聡容疑者(70歳で死亡)を描いた映画『桐島です』。その脚本家は、なんと父親が同時代に指名手配され逃亡生活を送った経験を持ち、著書『爆弾犯の娘』を出版した人物だった…。フィクションの映画と、ノンフィクションの自伝。この二つの作品に深く関わった編集者が7月29日放送のRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』に出演し、RKB報道局の神戸金史解説委員長のインタビューに応じた。
傑作映画『桐島です』が生まれるきっかけ
RKB神戸金史解説委員長(以下、神戸): 映画『桐島です』(高橋伴明監督、105分)の上映が、7月18日からKBCシネマ(福岡市)で始まりました。1970年代の連続企業爆破事件で指名手配中だった桐島聡容疑者(70歳)は2024年1月、末期胃がんで入院し「私が桐島聡です」と本名を名乗って亡くなり、大きなニュースになりました。約半世紀にわたる逃亡生活でした。
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桐島聡 東アジア反日武装戦線の元メンバー。1975年4月、ビルに爆弾を仕掛け爆発させた事件に関与したとして全国に指名手配される。「ウチダヒロシ」と名乗り、神奈川県内の工務店に住み込みで働く。2024年、末期の胃がんで入院中、「最後は本名で迎えたい」と、自分が桐島聡であることを明らかにし、死亡した。被疑者死亡で不起訴処分。
神戸: 映画のエンドロールを見ていたら、「企画 小宮亜里」とあり、よく知る方なのでびっくりしました。おはようございます。
小宮亜里氏(以下、小宮): おはようございます。神戸さん、お久しぶりです。
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神戸: ちょうど9年前、津久井やまゆり園障害者殺傷事件(2016年7月26日)の直後、僕が書いたFacebookの個人的な投稿が拡散していく中で、「本を書きませんか」と突然声をかけてきたのが、ブックマン社の編集者、小宮さんでした。お声掛けいただいたおかげで、本が出せました。ありがとうございました。
小宮: 本当に、その節はありがとうございました。
神戸金史著『障害を持つ息子へ ~息子よ。そのままで、いい。~』 (2016年10月、ブックマン社刊、現在は電子書籍のみ、税込み1,430円) 2016年7月、日本中に衝撃が走った相模原障害者殺傷事件。過熱する報道、増幅する厭悪の中、ある障害児の父親の詩が人々の心を打った。『NEWS23』や朝日新聞など多くのメディアで紹介され、瞬く間に広がった詩とその背景にあった自閉症の息子と家族の物語---。あの事件から3か月目の10月26日、緊急出版!
神戸: 映画のエンドロールにお名前が出てきて、びっくりしました。たまたま、この映画『桐島です』の脚本を担当した梶原阿貴さんの自伝ノンフィクション『爆弾犯の娘』が、映画を観終わった後に手元に届いたんですが、これも、ブックマン社の小宮亜里さんプロデュース。話題の本と映画をつなぐ存在が、小宮さんです。どういうきっかけで、この本を出すことになったんですか?
小宮: 先に映画ありきで、2024年2月頭に映画監督の高橋伴明さんとたまたま昭和歌謡スナックで飲んでいたんです。桐島聡と思われる男の訃報が出て1週間ぐらいでした。伴明監督がちょうど桐島容疑者と同じ世代で、早稲田大学で学生運動に関わっていたことも知っていました。全く別の企画の相談をしていたのですが、酔っ払って「監督が撮らないで、誰が撮るの?」と絡んだんです。
高橋伴明 1949年奈良県出身。若松プロダクションに参加。60本以上のピンク映画を監督。『TATTOO〈刺青〉あり』(1982年、主演:宇崎竜童)でヨコハマ映画祭監督賞を受賞。主な監督作品に『光の雨』(主演:萩原聖人)、『火火』(主演:田中裕子)、『丘を越えて』(主演:西田敏行)、『禅ZEN』(主演:中村勘太郎)、『BOX 袴田事件 命とは』(主演:萩原聖人)、『赤い玉』(主演:奥田瑛二)、『痛くない死に方』(主演:柄本佑)など。『夜明けまでバス停で』はキネマ旬報ベスト・テンで日本映画監督賞を受賞。
神戸: その押しの強さが、小宮さんのいつものパターンですね。そこから話が広がっていって、本当に映画になっちゃったわけですね。
小宮: 相当飲んでいて…。大御所監督じゃないですか。奥様は大女優の高橋惠子さん。翌朝目覚めて、さすがに「なんてことを言ってしまったんだろう」と青ざめまして。でも、メールで謝るのも……。次に会った時に「酔っ払いすぎました、ごめんなさいって謝ればいいや」って思っていたら、1週間経たないくらいで「台本が出来ました」とメールが来たんです。
映画『桐島です』 指名手配犯・桐島聡の、弱い立場の人に寄り添う人柄・考えをドラマチックに描く衝撃作。『夜明けまでバス停で』(2022年)でキネマ旬報ベスト・テン日本映画監督賞、脚本賞をはじめ数々の映画賞を受賞した脚本家・梶原阿貴と高橋伴明監督のコンビが、謎に満ちた桐島聡の軌跡をシナリオ化。主演は『ケンとカズ』(2016年)で注目されて以来、映画・ドラマで活躍し続けている毎熊克哉。 https://kirishimadesu.com/
脚本家に「書くなら今だよ」
神戸: 台本を監督から依頼されたのが、梶原阿貴さん。「5日で書け」と言われたらしいですね。
小宮: そうそう。でも私は全然それを知らなくて。梶原阿貴さんは、以前に伴明監督の映画『夜明けまでバス停で』(2022年)で脚本を書いていて、私も面識はあって、どうやら、お父様が(連続爆破事件に)関わっていたぞという話は聞いていました。『桐島です』の台本を読むとすごくリアリティがあって。彼女なりに父世代のことをすごく調べていて、すごく思いがあって台本を書いたことがよく分かりました。映画の撮影がほぼ終わった時、梶原さんに「本を書くなら今だよ」と話をしました。
神戸: なるほど、映画の企画が先で、それからノンフィクションの本になった。
小宮: そうです、そうです。
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梶原阿貴 1973年東京都出身。1990年、『櫻の園』(監督/中原俊)で俳優デビュー。『青春デンデケデケデケ』(監督/大林宣彦)、『M/OTHER』(監督/諏訪敦彦)、『のんきな姉さん』(監督/七里圭)、『ふがいない僕は空を見た』(監督/タナダユキ)などの映画に出演。2007年「名探偵コナン」で脚本家デビュー。その後、アニメ、テレビドラマを経て、2022年『夜明けまでバス停で』(監督/高橋伴明)でキネマ旬報ベスト・テン、日本映画脚本賞など多数の脚本賞を獲得。
少女が体験した指名手配からの逃亡生活
神戸: 本のタイトルは『爆弾犯の娘』。まさに桐島さんの指名手配写真が交番などに貼られていたその横に、梶原阿貴さんのお父さんの写真も出ていたという話ですよね。
小宮: 本のカバーに載っているイラスト、真ん中にいるのが桐島聡。横が梶原譲二(逮捕時37歳)なんです。
神戸: 逃亡生活14年間。その中で生まれたのが、梶原阿貴さん。なぜか家ではお父さんが小さな部屋に隠れている。「靴はいつも枕元に置いて寝ろ」と子どもの頃から言われてきた。お父さんの実の名前を知らない。この本の中に書いてあって、びっくりしました。本の前半は、逃亡生活、何か変な家族の物語です。「どうしてこんな生活をしなきゃいけないのか」と大きくなって戸惑っていく娘がいて、後半は父が逮捕された後にどんなことが起きていったのか。これはまさに、ノンフィクション。驚きました。
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梶原阿貴著『爆弾犯の娘』 (ブックマン社刊、税抜き1,800円) 1970年代、連続企業爆破事件の実行犯の一人として指名手配。50年もの逃亡の末、2024年1月に実名を明かして亡くなった、桐島聡。彼の生き様を描いた映画『桐島です』(監督:高橋伴明)のシナリオを書いたのは、脚本家・梶原阿貴。1973年生まれの彼女がなぜ、この作品を克明に書けたのか? それは、彼女の父親も桐島聡と同じように爆破事件に関与し指名手配され逃亡していたからだった。逃亡の中で生まれた娘。家族は嘘を重ねていく。娘は嘘の渦に翻弄される。それでも「家族」は終わらない。では革命は?
https://bookman.co.jp/book/b664042.html
神戸: 映画の中で、「くさや」を焼いたら臭いがすごいので通報されて警察が来るシーンがありました。注意されて終わるんですけど、本の中には梶原さんの体験した実話として出ています。
小宮: 私と梶原さんはいわゆる団塊ジュニア、1970年代前半生まれで、子ども時代に「くさや」を焼いた記憶があまりなくて。映画のシーンは70代の伴明監督のアイデアだとばかり思っていたんです。本の原稿をいただいて、梶原さんのアイデアで、しかも実話だったのかと驚きました。「くさや」を焼いたら警察が来るという、都会の恐ろしさも感じました。
神戸: だいぶ臭いのきつい発酵食品ですからね。
フィクションの映画と、ノンフィクションの自伝
神戸: 映画と書籍、2つの作品が並びました。映画『桐島です』は、事実をベースにした創作です。匿名で逃げ続けていた桐島さんがどんな人だったのかは、あまりよく分かっていません。元になったのは梶原さんの脚本で、梶原さん自身は(逃走生活を)体験している。一方、書籍『爆弾犯の娘』は事実を書いたノンフィクション。この2つが揃っている。「さすが『企画・小宮亜里』だな」と思いました。
小宮: お酒を飲んで思いつきで言っただけで(笑) それ以外、何もしていないんですけど。
神戸: 2つを合わせ見ると、すごく刺激的です。『爆弾犯の娘』に書かれていることは、本当の話じゃないですか。
小宮: そうですね。もっともっとすごいエピソードがいっぱいあったんですけど、やむを得ず削りました。同年代でこういう人生を生きている方が今、脚本家として活躍している。それがすごくうれしいです。
神戸: この本を読んでいて、笑ってしまうことがいっぱい。「ちょっと、これ本当ですか」とおかしくなることがありました。「この書き手は手練れだなあ」という感じがしました。
小宮: 本当に、さすが脚本家。距離感がすごくいいな、と思います。同じ体験をしても、「私はこんな不幸な人生を送ってきたんだ」だけだと、やっぱりつらいと思うんですよね。すごい経験をしたからって、誰もが脚本を書けるわけじゃなくて、「いかにそれを客観的な視点に落とし込めるか」ということが、書ける人と書けない人の差なんじゃないかな、と。それは、神戸さんが書いた本『障害を持つ息子へ』の時も、同じことを思いました。読者が「これは他人事じゃない」と思える方は、実は著者の距離感だと思っているんです。
神戸: でも、エネルギー源は、「やろう!」と声をかけてくれた編集者です。小宮さんのところから映画と本が生まれてきて、両方ともすごい作品になりましたね。
小宮: 本当に。自然発生的にSNSで話題になって「面白かった」と言ってくれる人が、若い世代も結構年配の方もいて、それがうれしいです。
「優しさを組織せよ」
神戸: 「優しさを組織せよ」という言葉が、キーワードとして出てきました。
小宮: それは、この本の1つのメッセージです。梶原さんが宇賀神寿一さんを取材した中で出てきました。
神戸: 宇賀神さんとは、桐島の友人で、指名手配され逃げていた方ですね。
小宮: やっぱり、この言葉が今全てかな、と思いたいです。
神戸: 今の時代だからこそね、「優しさを組織せよ」という言葉を感じてもらいたいですね。
小宮: そう思いますね。首相官邸前での「石破さん辞めるな」デモを見ていても、「まさに、これって[優しさを組織せよ]なんじゃないか?」と勝手に想像したりしています。
神戸: 福岡市のKBCシネマでは上映が始まっていますし、佐賀市のシアターシエマでも8月末に1週間の上映が予定されています。
小宮: 8月22日にはブックスキューブリック箱崎(福岡市東区)でトークイベントをやるので、遊びに来てください。神戸さん、待っています。
神戸: 分かりました、ありがとうございます。
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この記事を書いたひと

神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。





















