目次
聞くに堪えないイスラム教徒へのヘイト街宣が、福岡市で初めて繰り広げられました。よりによって、その場所は伝統の秋祭り会場のすぐ近く。RKB毎日放送の神戸金史解説委員長は、地元に住み祭りにも参加している一人。9月16日放送のRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』で「1000年も続く祭りを汚す行為だ」と強く批判しました。
筥崎宮「放生会」の御神幸に参加して
福岡の三大祭りと言えば、5月の「博多どんたく」に7月の「博多祇園山笠」、9月は筥崎宮の秋の祭り「放生会(ほうじょうや)」です。毎年9月12日から18日まで開催されています。放生会と言えば、700メートルの参道を埋め尽くす、500もの露店が有名です。上空から見ると、夜は「光の一本道」みたいに見えます。

さらに今年は、2年に一度の「御神幸(ごじんこう)」がある年。「おみゆき」とも言いますが、祭りの初日に3柱の神様が神輿に移り、氏子が住む箱崎、馬出、吉塚地区を見て回ります。7キロを歩いて筥崎宮の参道の一番浜辺にある浜宮(頓宮)に神様は移ります。これを「御下り」と言います。
御神幸の行列は500人にもなり、古式ゆかしい衣装に身を包み、お宮を出発します。鉦(かね)と太鼓が大きな音を上げ、神様を喜ばせようとします。ずっと地域で守られてきた音色です。お賽銭箱も担がれて町を回ります。小銭が投げ入れられると、担ぎ手が箱を勢いよく揺すって音を上げます。浜宮に近づくと全員が参道を全力疾走して、「御下り」が終わります。
2日後にはまた全員が練り歩いて本殿に戻っていきます。「御上り」と言い、14日にありました。箱崎に住んで28年、近年は私も「御神幸」に参加させてもらっています。地域に伝わる伝統文化に参加できることを、私はとてもうれしく思っているのですが、実は放生会の期間中にとんでもないことが起きていました。
放生会近くでの大混乱
福岡市東区箱崎には、イスラム教のモスクがあります。以前は箱崎に九州大学があり留学生も多かったので、さまざまな国籍の人が今も暮らしています。それで、箱崎に2009年に九州で初めてのモスクが造られました。

モスク近くの公園で今年、イスラム教徒のイベントがあった時、大人数が祈りを捧げている映像が出回り、「イスラム教徒が公園を占拠している」とネット上で騒ぎになっています。

イスラム教徒に対する抗議の街頭宣伝を企画したのが、「日本第一党」。在日朝鮮人などへのヘイトスピーチを繰り返してきた団体です。「御下り」の翌13日に、浜宮のすぐ近くにある東区役所の前に15人ほどの男女が集まって、公園の使用許可を出したことに抗議を始めました。これに対して、「イスラム教徒へのヘイト街宣」だと考える人たちも20人ほど集まり、やめさせようとしました。

國正茂・日本第一党佐賀県本部長: 令和7年6月7日に東区役所は公園使用許可を行い、その対応について厳重に抗議するとともに、国民の生命と財産と安全を守る行政職員としての責任を明確にするよう、強く求めます。このムスリム、イスラム教は、同民族の女性や日本人女性に対して、恐るべき暴力、差別行為を行っており、これは日本社会への重大な挑戦であり、ムスリムの多くの女性の尊厳を踏みにじってきました。(聞き取れず)を破ったイスラム教らに罰金を科し、今後公園を貸し出さないこと。イスラム教にあえて公園許可をした職員を厳重に処分すること。
反対する人々: 「帰れ!」「ヘイトスピーチを止めろ!」「妄想とデマで、外国人憎悪を扇動するな!」 (大声が入り乱れての混乱)
東区役所から道路を挟んですぐのところに、本殿から神様が移ってきた筥崎宮の浜宮があり、露店も並んでいます。1時間ほどの混乱の後、日本第一党は、箱崎にあるモスクに向かいました。
「ホウジョウヤって何?」と副党首
モスクへの途中にある公園で準備をしていた、日本第一党の下稲大助副党首と話しました。九州地区担当の副党首で、宮崎県から来たそうです。
下稲大助・日本第一党副党首: 要は敷地ですね。区役所側が「敷地面積、それを守りなさい」ということに関して、イスラム側は守らずに、公園一帯を占拠したということに対しての抗議です。
神戸: 許可が出たのは、公園の区画の中の一部だ、ということ?
下稲副党首: そうですよ。一般の方々が公園の敷地内で過ごす時間が奪われているんですよ。奪う権利はないでしょ? ここは日本という国なので、日本という土地でこういうことをされると困るんですよ、日本人が。これを一度二度許してしまうと、さらにもっと増える。そもそも公園というのは宗教的な行事を行う場所ではない、と私は思うんですよ。
神戸: ああ、そういうことか。
神戸: 今、ちょうど箱崎は放生会の時期なんですよ。
下稲副党首: ん? ホウジョウヤって何?
神戸: 放生会は、福岡を代表する秋祭りです。私も箱崎に住んでいるので、昨日も放生会のお祭りの「御神幸」に参加をしていたんですけど、なぜこの期間にここで抗議をしたんです? さっきの会場は放生会のすぐ近くなんですよ。中もすごくうるさいことになったんですけど、わざわざこの時期を……。
下稲副党首: いや、それは……私、宮崎なんで。
「嫌な思いしたことない」地元は戸惑い
モスクに移ると、日本第一党への抗議に来ている人は30人くらいに増えていて、静かにプラカードを持って立っている高齢の女性もいれば、大きな声を出して街宣の声を消そう、押しつぶそうという男性もいました。ひどい騒ぎになり、地元の自治会長さんが様子を見に来ました。
モスクに抗議する女性: 譲り合って公園を使っているんだよ! なんで占領するんだよ!
自治会長に話す神戸: けっこう大人数で公園にいた映像があるんですよ。イスラム教徒が公園を全部使っているので、地元の人が使えないと。それで区役所に行って抗議して、今ここに来たと。
自治会長: ああ、そういうことですか。全然それは知りませんでした。
神戸: 「公園はみんなものだ、自分たちだけで使うんじゃない」という抗議をしています。
自治会長: ふはは……ちょっと、それはどうですかねえ……。
神戸: 地元に、そういう声はないですか?
自治会長: あまり聞いたことがないですね。公園は公共の施設やけんですね。公園でお弁当を食べて弁当がらを捨てていくとか、そういう細かいことはあっていました。(モスクの)代表の方に「こういう苦情が来ています、何とか対処してください」と話はしています。その辺は、常識的な方は多いですよ。別に嫌なことをしたというのは、ありません。年に何回かは、モスクの方からご招待を受けて。
神戸: ちゃんとパイプがあって、話ができる状態なんですね。
自治会長: ああ、そうです、そうです。
自治会長さんは困惑されていました。地元ではそういう意識を持っていない、ということです。ここを買い物帰りにたまたま通りかかった地元の男性がいました。
地元住民: 地元の人間からすると、何でこんなことをやっているのか分からない。
神戸: 「公園を自分たちだけで占拠して、地元の人に使わせなかった」と抗議しているようです。
地元住民: あ、全然。集会は、許可取ってやっているから。普通に普段は子どもとか大人が休んだりしているからね。たった1日の、その時間くらい、1時間半くらいだったかな、その集会。別にそんな、地元ではこの時期にあるのは知っているしね。だから、無知な人たちだよねえ。
神戸: 無知な人たち?
地元住民: うん。地元の人間の話、聞かないもんね。どういう風に今まで一緒にやってきたか、知らないし。ちゃんと普段、しっかり一緒に暮らしているからね。たまたまネットでバズったのに目をつけて、そこに抗議に行こうとしているんだけど、道具に使ってんだよね、自分たちの主張の。
福岡初のイスラムヘイトに発展
モスクはこの日礼拝もなく、数人のイスラム教徒がいて、抗議の声を発することもなく、悲しそうに目の前の混乱を見つめていました。
モスクに抗議する女性: レイプ犯は帰れ、レイプ犯は帰れ、レイプ犯は帰れ! それでいいのか?! レイプほう助だぞ、レイプほう助だぞ!
日本第一党に抗議する人の中に、迷彩服姿の女性がいました。

神戸: 右翼なんですか?
「陸櫻團総本部」北もも子最高顧問: はい、右翼です。団体も入っています。ヘイトが私は許せないんです。
神戸: これは、ヘイトだとお考えですか?
北もも子最高顧問: ヘイトです。日本人の恥さらしでしょう? 全然わかってないですよ。だって旭日旗とか日章旗を平気で肩にかけたり。日本人はしないでしょう、こういうことを。人種差別とか、昔の日本人はしないですよ。
確かに、日の丸をバンダナのように頭に巻いている男性もいました。

モスクに抗議する女性: 子どもと女性のために、私たちは立ち上がる!
泣きながら叫ぶ女性: 子どもたちは守ってください! みなさん、お願いだから気づいてください!
もう公園の使用許可の話じゃないんですよね。「イスラム教徒はレイプ犯だ」という主張の道具に使われていました。先ほどの地元男性が言った通りですね。こうなるともう、ヘイトスピーチと言っていいと思います。
「地元の祭りを軽視するな!」怒る住民
福岡で初めて行われた、イスラム教徒へのヘイト街宣。放生会が行われている箱崎で展開されることになってしまいました。地元に住んでいるので「ちょっとこれは……」と思いました。同じように思った先ほどの地元男性も日本第一党に抗議を始めました。

地元住民: 一言いいですか? 地元なんで、腹立たしいんです。放生会の時に、なんでやったんですか? それを抗議したい。せっかく地元の祭りをやっているのに。
モスクに抗議していた女性: あの……
地元住民: 放生会の時に、なんでやったんですか? それを聞かせてください。
女性: 主催の方が、今日行うということで……。
地元住民: 主催の方は、誰ですか?
女性: 主催は、あの(しどろもどろに)……。
別の女性: 日本第一党。
モスクに抗議する女性: 私ね、党員でも何でもなくて、ただ、一般市民なんですよ。
地元住民: どう思いますか? 地元の祭りをやっている時に、こういう集会。
男性党員: だから、てめえらのせいで、近くの県民が被害に遭うんだよ! てめえらにも(……聞き取れず)。
神戸: 1つだけ質問に答えてもらっていいですか? 「なぜ放生会の時期にこれをやったんですか」という質問をしているんです。
地元住民: 放生会の時に何でやったんです? 地元の大事な祭りですよ?
男性党員: てめえらも反対せえよ!
地元住民: 日本伝統の祭りですよ、1000年以上続く。あなた、日本第一党でしょ? そんなことも分からないのか?
男性党員: おめえらは、分かっているのか? おめえらは日本全国、福岡全体をな(……聞き取れず)
神戸: 1年で一番大事なお祭りの時期なんですよ!
地元住民: 地元の祭りを軽視するな!
さっきまで感情的に叫んでいた女性は明らかに戸惑って、しどろもどろになっていました。
差別扇動に乗せられてはいけない
男性党員は「モスクがあることを認めている箱崎の人のせいで、日本はひどいことになっているのだ」という趣旨の発言をしていました。九州大学が移転するまで100年以上、箱崎は「九大のある街」という誇りを抱いてきました。日本の伝統文化も残っていますし、さらに留学生が多く住み、今でも多国籍の文化も共存してきている地域です。それもひとつの魅力です。
外国の方が増えてきていることを、「怖い」と思ってしまう気持ちを持つ人もいますが、モスクは住民の見学会を開いたり、地域の理解を進めようと努力してきています。「外国人が起こす事件が日本人よりも割合として多い」というのは統計上も否定されています。「ネット上の外国人排除的なデマを鵜呑みにしているなあ」という感じがすごくしました。
公園での祈りの写真を見ると、イスラム教徒がたくさんいるように見えます。お祭りの仲間にネットの写真を見せると、「え、こんなに集まっているの?」とびっくりしている人も確かにいました。
しかし、驚いて映像をシェアした人も、実態と離れているのに外国人憎悪を広めてしまっている、無知ゆえの行動だと私は思います。実際に「常識的な人が多いのですよ」と地元自治会長も言っています。
日本第一党の人たちは街宣中は話を聞いてくれる状況ではありませんでしたが、街宣が終わった後だと、冷静にインタビューに応じてくれる人もいました。ただし、伝統の祭りを愛して参加している私やヘイトスピーチに怒っていた民族派右翼の女性と、祭りを結果的に汚してしまっている人たちとを比べてみてほしいです。いったいどっちが保守なのか?
この取材で私はすっかり疲れてしまいましたが、翌14日の「御上り」にはちゃんと参加しました。最後にお聴きいただきたいのが、箱崎伝統の一本締め。箱崎は旧粕屋郡で博多ではないので、有名な「博多手一本」とは締め方も違うのです。
「さあ、一本締めるぞ!」 ヨー、せーの!(手拍子3回) もひとつ、せーの!(手拍子3回) ヨー、せーの!(手拍子3回) ヨーイ!
「邪気払い」のために聴いていただきました。

放生会に参加した神戸解説委員長
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう
この記事を書いたひと

神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。





















